音楽紀行(ライブレポ、アルバム感想・レビュー)

ライブに行ったレポートやアルバムの感想・レビュー。好きな音楽を見つけるツールにも

湖面に泳ぐ、魚を見上げて

CHVRCHES JAPAN TOUR 2019@豊洲PIT

 時刻は午前3時。「おはよう、CHVRCHES見に行くぞ。」友人からの連絡である。「へっ!?」寝れぬまま過ごす私は、東京へ向かう夜行バスに揺られながら出かかった情けない声を、なんとか両手で喉奥に押し戻した。

 「ライブで貰ったチラシ見ながら聴いてたらびびっと来た、だから見に行くしかない。」と力強く語る友人の言葉に(大阪ではPale Wavesと同日にライブがあったせいで)縁が無かったと思っていたCHVRCHESを、たまたま東京に来たタイミングでこうして友人の誘いをきっかけに見に行くのも面白そうだと思った。音楽の神様がいるのなら、きっとこれは素敵なお導きに違いない。「よっしゃ行こう。」そう返信し、何となく心をわくわくさせていると、気づかぬうちにバスはまだ薄暗い新宿に着いていた。

 

 Point 1 ドラムが加わったオーガニックなサウンド

 幸運にも当日券を手に入れ、入場しスルスルと2列目の端っこのほうに陣取る。適度に空いたスペース、まさに好きなだけ踊れ!と言われているようである。

 

CHVRCHES

Lauren Mayberry(ボーカル)

Iain Cook(シンセサイザー、ギター、ベース)

Martin Doherty(シンセサイザーサンプラー)

の3人組である。しかし昨年より続く今回のワールドツアーではサポートメンバーとしてドラムを担当するJonny Scottが加わっている。

 

 

これがライブでどんな効果を及ぼしているか、ライブの幕開けを告げた「Get Out」からそれは如実に感じられた。

 

 そもそもCHVRCHESの音楽はエレクトロ・シンセポップの類する。しかしドラムが打ち込みでなく生演奏になることで、わずかな音の強弱やコンマ単位のズレが楽曲を有機的にリアリティを持って響かせるのだ。こうした演奏によってよりパワフルになった「Bury It」や「Clearest Blue」「The Mother We Share」など最新アルバム以外からも幅広く披露され、会場は常に観客が躍り狂うダンスフロアと化す。

 

 途中にはマーティンがボーカルを担当し会場中が謎の一体感で盛り上がった「God's Plan」や「Under The Tide」、オープニングアクトも担当したコムアイ(水曜日のカンパネラ)を呼び込みコラボ曲「Out Of My Head」を披露するシーンもあり日本でしか見れない共演に会場中が大盛り上がりだった。

Point 2 底抜けな明るさではなくて

 今回のツアーで掲げられる新作「Love Is Dead」はCHVRCHES3枚目のアルバムだが、初めて外部からGreg Kurstin(Adellの大ヒット曲「Hello」のプロデュースをはじめ、Foo Fighters,Beck,Liam Gallagher,Paul MacCartneyまで幅広く仕事を共にする超売れっ子プロデューサー!)を招いて制作に取り組んだ結果、これまでの音楽性や魅力を増幅させつつ、より視界の広がったようなこれまでで一番ポップな作品に仕上がっている。

 しかしポップだからといって、決してそこにあるのは底抜けな明るさではなくて、裏には暗さが常に付きまとう作品ではないかと僕は感じる。「Love Is Dead」というアルバムのタイトルからも示唆されるように、ポップな楽曲群だが常にダークな部分を孕んでいる。先述の通り生命の躍動するような演奏も相まってか、ライブで特に印象に残っている曲はそんな「Love Is Dead」に収録される楽曲たちだった。

 終わってしまった恋をバスルームに書いた拙い落書きに重ねた「Graffiti」や、奇跡なんて求めていないと悲しいくらい現実的なことを言いつつ、それでも愛が奇跡を見せてくれるのかなと背反する希望を歌う「Miracle」など、愛をテーマにした楽曲で曲調はポップでも、ちゃんとそこには暗い部分も描かれていて、ローレンの歌声もきらびやかながらどこか切実な叫びのように聴こえるのだ。

 

 ふと思う。CHVRCHESの音楽は、暗い水中に差し込み棚引く光ではないか。差し込む光を浴びるようにその音に耳を傾け身体を揺らす僕らは、さしずめ波に揺られ光合成する海草のようで、だとすると音楽に歌声を乗せステージを舞うローレンは水面を華麗に泳ぐ魚みたいだ。「Never,ever,ever say die」と繰り返す本編ラストの「Never Say Die」の美しくも胸をきゅっと締め付けるような演奏に、堂々と歌い上げるローレンを僕ら観客は思い思いに見上げていた。

 

 今年のサマーソニックにもChvrchesは登場する。果たしてそのときのライブはどんなものになるだろうか。何とか詩的にまとめようと愚かしくも四苦八苦したが、結局はただひとつ。素敵な情景を引き出してくれるChvrchesの音楽が、僕はたまたま訪れることになったこのライブを通じて大好きになったのだ。そしてこのライブに導いてくれた音楽の神様に、誘ってくれた友人に感謝しているのだ。

 

 

(セットリスト)

  1. Get Out
  2. Bury It
  3. Gun
  4. We Sink
  5. Graffiti
  6. Graves
  7. God's Plan
  8. Under The Tide
  9. Out Of My Head
  10. Miracle
  11. Science/Visions
  12. Deliverance
  13. Forever
  14. Recover
  15. Leave A Trace
  16. Clearest Blue
  17. The Mother We Share
  18. Never Say Die

 

Love Is Dead

Love Is Dead