音楽紀行(ライブレポ、アルバム感想・レビュー)

ライブに行ったレポートやアルバムの感想・レビュー。好きな音楽を見つけるツールにも

The 1975「I Think There's Something You Should Know」歌詞和訳・解釈

 5/22にリリースされたThe 1975による4枚目のアルバム「Notes On A Conditional Form」収録曲である「I Think There's Something You Should Know

 

この楽曲では、インポスター症候群などといった精神的な問題が描かれています。

 

和訳だけ読みたい方もいらっしゃると思いますので、脚注は下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただくとより楽しめると思います。

 

和訳

I think there's something you should know

君に知っておいて欲しいことがあるんだ

I don't feel like myself, I'm not gonna lie (Lie)

なんだか調子が悪いんだ、嘘をつくつもりもない*1

How would you know? It doesn't show

ほんとに分かってくれてるの?表立っては見せないようにしてるのに

I think there's something you should know (Know, know)

君に知っておいて欲しいことがあるんだ(知ってくれ、知ってくれ)

I think there's something you should know

君に知っておいて欲しいことがあるんだ

I'm feeling like someone, like somebody else

自分自身が別人になったかのように感じる、赤の他人のように

I don't feel myself, it could be my health

なんだか調子が悪いんだ、これじゃ体調まで崩しそう

I'd like to meet myself and swap clothes

自分自身と会って、服を取り替えたいな*2

I think there's something you should know

君に知っておいて欲しいことがあるんだ

 

(I think there's something)

知っておいて欲しいことが…

(I don't wanna be someone else)

他の誰かにはなりたくない

(I don't wanna be someone else)

他の誰かにはなりたくない

(I don't wanna be someone-)

他の誰かには…

(I don't wanna be someone else)

他の誰かにはなりたくない

 

You get a moment when you feel alright

大丈夫だと感じる瞬間もある

You get a moment when you feel alright

大丈夫だと感じる瞬間もある

You get a moment when you feel alright

大丈夫だと感じる瞬間もある

You get a moment when you feel alright

大丈夫だと感じる瞬間もある

 

I feel so seen and I can't dream

分かるよ、全然夢を見ないんだ*3

Sleeping terrifies me, otherwise, I'm fine

寝ていてうなされるけど、調子はいい

See-saw back and forth, back on the door, back on the floor

二転三転して、行ったり来たり

Oh, please ignore me, I'm just feeling sorry for myself

ああ、お願いだから放っておいてくれ、自分自身に哀れに思うんだ*4

 

Feeling like someone, like somebody else, who don't feel themself

自分自身が別人になったかのように感じる、赤の他人のように

気分は晴れないまま

Paying for their wealth with their mental health

富のためにメンタルヘルスを差し出してるみたいだ*5

I'd like to meet myself and swap clothes

自分自身と会って、全く異なる服装を着させたいな

I think there's someplace I should go

向かうべき場所がある気がするんだ*6

I think there's something you should know

君に知っておいて欲しいことがあるんだ

 

I think there's something you should know

君に知っておいて欲しいことがあるんだ

 I think there's something you should know

君に知っておいて欲しいことがあるんだ*7

 

解釈

*1:「don't feel like myself」とはいつもの自分じゃないみたい、から転じて精神的な面で調子が悪いという意で用いられるそうです。

ameblo.jp

 

*2:インタビューにて、この一節について「幽体離脱体験」のような考え方だというインタビュアーの指摘に対してmattyは、人の経験には限りがあり、五感で捉えたものに縛られる。だからいろんなものを想像することで考えを広げるのだと答えています。

www.coupdemainmagazine.com

 

*3:I feel so seen」は海外でよく使われるネットスラングミームらしく、日本で言うと例えばTwitterで引用RTして一言付け加える際によくある「わかる」「知ってた」「把握」などといった感じでしょうか。

www.internetslang.com

dic.nicovideo.jp

 

*4:Apple Musicのアルバム解説にてmattyは、メンタルヘルスについて状況を把握していない相手に話したくないということを述べています。

music.apple.com

 

この楽曲の題材の1つは「インポスター症候群(インポスター体験)」だと明かされています。詳しくはリンク先の記事に譲りますが、簡単に言うと自身の達成したことや周囲からの賛辞に対して、自分はその評価に値しないと過小評価してしまう傾向のことを指します。インポスター(impostor)とは詐欺師やペテン師を指し、つまるところ自分は周囲を欺いてると考えてしまうものです。

このインポスター症候群の対処法の1つとして挙げられるのは、その感覚や感情について早いうちに他人と話すことだそうです。しかし先で述べたように他人に進んで話す気が起きない、なぜなら同じような体験を共有できる相手が少ないと感じているから。だからこそ孤立感の中で自身を哀れに感じるのでしょう。

ja.wikipedia.org

 

*5:捉え方は2つあるように思います。1つはmattyがThe 1975の楽曲の多くでメンタルヘルスを題材にしているということ。本曲と同じアルバムに収録された「Frail State of Mind」もそうした内面、精神について描いています。

 

yamapip.hatenablog.com

 

もう1つは自身の精神の健康と引き換えにアーティストとしての活動を進めているということ。長期に及び世界中を回るツアーの負担やSNS等における人々からの反応など、誰に限った話でなく多くのアーティストが精神的疲弊・ダメージを負いながらアーティスト活動を進めている現状があります。

 

*6:Tonight (I Wish I Was Your Boy)」の歌詞

Unfortunately, I've been to this place in my life

という歌詞にもあるように、苦しみながらも進んでいくという意思を示してるように思えます。

脚注2で紹介したインタビュー記事においてmattyは、やるべきことを失ってしまえば、自分という存在は何なのか、何を目的に生きていくのかわからなくなってしまうと述べています。

ここまでの歌詞で、自分自身が全く異なる他人へと変わってしまう不安が述べられていますが、目標を見つけ生きていく中で自分自身を捉えるという方針がここに表れているのではないでしょうか。

 

*7:この楽曲のタイトルでもあり、何度も繰り返されるフレーズ。ここまでの歌詞の内容を押さえた上で考えると、あまり他人に伝えたくない孤立感やメンタルヘルスについて意を決して話すことにした、その第一声こそがこの「I think there's something you should know」ではないでしょうか。

 

メンタルヘルスの話、この曲においてはインポスター症候群についての対話がこの楽曲を通じて行われるという構造がここにはあるのではないかと私は考えています。そしてそれは、自身の内面の脆さの吐露というこの楽曲を含めたアルバム「Notes On A Conditional Form」全体のテーマの1つであり、大きな流れの1つなのではないかと思います。そしてそこには、音楽やリスナーに対する信頼が前提として存在するのではないでしょうか。

 

仮定形に関する注釈

The 1975「Then Because She Goes」歌詞和訳・解釈

 5/22にリリースされたThe 1975による4枚目のアルバム「Notes On A Conditional Form」収録曲である「Then Because She Goes

 

この曲はシューゲイザーと称されるようなギターの音色とドリーミーな歌声にPhoebe Bridgersのコーラスが混ざり合う楽曲で、歌詞もその音像が重なるような甘酸っぱさ。

 

和訳だけ読みたい方もいらっしゃると思いますので、脚注は下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただくとより楽しめると思います。

 

和訳

You are mine, I've been drowning in you

君は僕のもの、僕は君に溺れていたんだ

Reflect your light again

朝日に照らされた君の姿を今日もまた瞳に映す*1

Beautiful, please don't cry, I love you

綺麗だ、泣かないで、愛してるよ

When you leave , I cry on the inside

君が僕のもとを去るとき、涙は心に仕舞い込む*2

 

I wake up, love you, so love you, love you, love you, love you

目が覚めたらずっと君への愛ばかり、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる

Cry

涙があふれる

I wake up, love you, love you, love you love you

目が覚めたらずっと君への愛ばかり、愛してる、愛してる、愛してる

Supposed to leave by half-past eight

8時半にこっそり出ていくはずだった*3

You wait for a bit

だけど君はその出発を少し遅らせるんだ*4

 

Pissed again, I've been dying to meet you

また酔っぱらって、君に会いたくて堪らなくなった

Reflect your light again (I love you)

朝日に照らされた君の姿をまた瞳に映したいな(君を愛してる)

I love you, oh, I love you

愛してる、ああ、君を愛してるんだ

When you leave, I cry on the inside

君が僕のもとを去るとき、涙は心に仕舞い込む

 

Oh,I love this, I love you, love you, love you, love you

目が覚めたらずっと君への愛ばかり、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる

Cry

涙があふれる

I wake up, love you, love you, love you love you

目が覚めたらずっと君への愛ばかり、愛してる、愛してる、愛してる

Supposed to leave by half-past eight

8時半にこっそり出ていくはずだった

But you stay all the way

でも君はわざわざ家を出るまで一緒にいてくれる*5

 

 解釈

*1:reflect」は大きく分けて反射するという意味と、よく考えるという意味があります。ここでは「your light」という表現が続くことから前者の意味合いが適切なように思えますが、彼女を照らす朝日の光が反射し瞳に届く、それと共に彼女の姿を見てまた彼女への愛や彼女自身について深く考えるという、という意味でも捉えられるかもしれません。

talking-english.net

 

*2:この楽曲において描かれるのは、彼女との関係が終わりを迎える前の日々について。歌詞の中で描かれる日々を経た結果、「Then because she goes」つまり彼女は自分のもとを去って行ってしまうのです。

「僕」は多忙であり、たまに彼女と家で一緒に過ごせる日があっても、翌朝には朝早くまた出ていかなければいけません。朝日が昇る頃に目覚め、まだ隣で眠っている彼女の姿を見ながら愛情を再確認する。彼女が起きる頃には自分の姿は無いわけで、それを悲しんで泣かないで欲しいと願う。

こうした生活の果てに彼女との別れが待っているのだとしたら、ずっと彼女に涙を我慢させてきた自分には表立って泣く資格なんてないなと述べているのではないでしょうか。

*3:Supposed to」という表現は、本来ならこうなるはずなのに、実際にはそうではなかったというニュアンスで用いられることがあるそうです。ここでは8時半に出発するはずだった、でもそうはならなかったということになります。

hapaeikaiwa.com

 

*4:朝早くの出発なので、彼女を起こさないようにこっそり家を出る「つもりだった」んです。でも彼女がその出発を少し遅らせることになります。どうしてでしょうか、それは後の歌詞から分かります。

 

*5:先の歌詞であるように、「朝早く彼女を起こさずに家を出るつもりだったが、彼女がその出発を少し遅らせた」のはこういうことだったんです。つまりは「僕」が朝早くに出発するであろうと分かっていた彼女は、朝早いにも関わらずわざわざ目を覚まし、出発までの間ずっと彼の側にいてくれたのです。それはもちろん彼女自身が寂しいということもありますが、朝早くに彼女を横目に1人家を出る彼はきっと寂しい思いをするでしょう。そんな彼を思いやって「いってらっしゃい」と見送るべく朝の時間を共にする。だからこそ「僕」もありがたく感じつつ、本当はずっと一緒にいたいのにまた離れなければいけないことを惜しみ、少し出発を遅らせてしまうのです。この一節にはお互いの愛情が溢れているように感じます。

 

仮定形に関する注釈

The 1975「Roadkill」歌詞和訳・解釈

 5/22にリリースされたThe 1975による4枚目のアルバム「Notes On A Conditional Form」収録曲である「Roadkill」 *1

 

 

この楽曲では昨年The 1975がアメリカでツアーを行っていた際の日々が描かれています。

 

和訳だけ読みたい方もいらっしゃると思いますので、脚注は下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただくとより楽しめると思います。

 

和訳

Well, I touch down and run to my connection

ああ、到着したらすぐ乗り換え便が出るので走らなくちゃな

Man in the gift shop called me a fag

ギフトショップにいた男がホモ野郎とか呼んできた*2

I feel up my tucked-up erection

アソコに手をやって勃起を誤魔化す

There's a pressure all over my head

頭によぎるのはプレッシャーのことばかり

And I know this is how I get paid, but

こうやって稼ぎを得ているんだと分かってていても

It's not really how I wanna get laid, so

どうなっていきたいと思ってるのか自分でもわからないから*3

Hundred forty when I last got weighed

最後に体重を計ったときは140ポンドだった*4

And I'm gonna lose more by Saturday

土曜にはもっと痩せてるんだろうな

 

And they're playing your song on the radio station

君の曲がラジオ局で流れている

Mugging me off all across the nation

どこへ行っても馬鹿にされてる気分だ

If you don't eat, then you'll never grow

ひとりでは生きていけない*5

I should've learnt that quite a while ago

ずっと前からそんなこと分かっていたはずさ

I know it gets hard sometimes

時々それが難しくなっていくのを感じる

Making out with people that you don't like

好きじゃない人達のことも折り合いをつけなよ

I know you don't feel alright

大丈夫じゃないってことは分かってる

But you look just fine to me

でも君は僕の前では気丈に振舞うんだ*6

 

Well, I pissed myself on a Texan intersection

ああ、テキサスの交差点で小便ちびった

With George spilling things all over his bag

一緒にジョージも自分のカバンにものをこぼしてさ*7

And I took shit for being quiet during the election

そんなことして過ごしてたら、選挙について沈黙するのかと罵倒された

And maybe that's fair, but I'm a busy guy

ごもっともなんだけど、僕は忙しい男だからね*8

I get stoned  nowhere and go where I get paid, but

どこへだって酔っぱらったまま稼ぎに出掛ける、でも*9

It's not really how babies get made, so

それで子供を授かるわけではなくて

I'll take a minute when I think I won't die from stopping

死にたくないなという感情が揺らめくのを抑えるには時間がいる

Oh, I'm just a busy guy

ああ、僕はまさしく忙しい男だからね*10

 

And they're playing your song on the radio station

君の曲がラジオ局で流れている

Mugging me off all across the nation

どこへ行っても馬鹿にされてる気分だ

If you don't shoot, then you'll never know

やってみなければ決して分からない*11

You should've learnt that quite a while ago

ずっと前からそんなこと分かっていたはずさ

I know it gets hard sometimes 

時々それが難しくなっていくのを感じる

Taking out your shit on the ones you like

好きな人たちにくだらない戯言をぶちまけなよ

You know, I didn't feel alright

僕が大丈夫じゃなかったって分かるはずさ

Until you spoke to me

僕に話しかけさえすれば

 

You, I've been waiting for you

君を、君をずっと待っていたんだ

My whole life, waiting for you

これまでの人生、君をずっと待っていたんだ

I've been waiting for you

君をずっと待っていたんだ*12

 

Well, I'm gonna get a gun but it's for my protection

ああ、護身用に銃が欲しいんだ*13

Or maybe I'll get myself a fun knife

それかおふざけでナイフを持っても良いかもな

 

解釈

*1:Roadkillとは車道で轢かれてしまった動物の死骸を表す単語ですが、スラング表現で路肩でクラッシュした車両を表すこともあるそうです。

ameblo.jp

アメリカの自動車雑誌HOT ROD」は「Roadkill」という番組を制作していて、人気のあるコンテンツだそうです。

 

 

*2:fag」とは「faggot」の略称としてネットなどで用いられるスラングで、直接的にはホモセクシュアルの男性への攻撃的な蔑称表現です。ただし同性愛であるかに関わらずより広い意味で男を蔑む表現としても用いられるようです。

ameblo.jp

アメリカの有名なコメディアニメ「サウスパーク」でもシーズン13第12話「The F Word」にて、この「fag」という表現を題材にしています。

en.wikipedia.org

 

*3:get laid」は慣用表現でセックスすることを表すのですが、恋愛あるいは生命の目標の1つがそこにあるように、転じてここでは人生の目的や行く末を示すのではないかと思います。名声を得てもこの先自分はどうしたいのかわからない状況がストレスに感じるということではないしょうか。

 

*4:140ポンド=約63.5kg

 

*5:The 1975の楽曲「Robbers」の一節を引用しています。直訳すると「食べなければ大きくなれないよ」といった感じですが、「Robbers」は男女の関係を描いた楽曲であり、文脈からは他人との人間関係や恋愛関係を通じて社会で育っていくという意味で捉えられます。

 

*6:このサビの部分での「you」とは歌詞を書いているMatty自身のことを指しているのだと私は思います。自身への語り掛けという描写。

ラジオで自分たちが作った楽曲が流れていて、有名になればなるほどどこへ行っても他者の視線や反応が気になるようになってしまった。でも周囲との関係を絶つわけにはいかないから大丈夫だと振舞おうとしていることを自覚しているということでしょうか。

 

*7:GeorgeとはThe 1975のドラマーGeorge Danielのことだと思われます。

 

*8:The 1975は3rdアルバム「A Brief Inquiry Into Online Relationships」では様々な社会情勢についてのメッセージを込めた楽曲を披露しています。

EU離脱問題などを争点とした昨年12月のイギリス総選挙の際、彼らに対してSNS上など一部では支持政党と表明すべきだという批判がありました。

それに対する冗談めいた反論がこの一節にあります。

 

インタビューではより具体的に、政治について描いた楽曲について考えるばかりで決して政治的バンドじゃない、The 1975は(楽曲や活動を通じて)意見をこれでもかと伝えている、自分の仕事は世界中で自身が見たものについて語ることだ、など述べています。

www.coupdemainmagazine.com

 

*9:mattyは昨年のサマソニでもそうであったようにしばしばステージでお酒を飲みます。あるいは薬物中毒に苦しんだ時期もありました。そういうこと以外でも、周囲や様々な要因から精神的にフラフラな状態にあっても、The 1975として作り上げてきた楽曲を手にステージへと立つことを言っているのだと私は考えています。

 

*10:脚注8で示したインタビューでは、自分にとってアーティスト活動こそが人生に欠かせないもので、やるべきことを失ってしまえば自分がどういう存在か、何が目的かということが分からなくなってしまう。そうしたひどい状況の中に陥ってしまうと死にたく感じるのだ、と述べています。

脚注3でも示すように自身の行く先が分からなくなることもある、しかしアーティストとして楽曲を生み出しコンサートを行う中で目標を見出し生きがいを感じる、そのためには多くの時間を費やす必要があり、だからこそ忙しいのだと言っているのだと捉えます。

 

アーティストとして生きていくことに意義を感じている、というのは「Tonight (I Wish I Was Your Boy)」でも描かれていることです。

yamapip.hatenablog.com

 

*11:この一文も「Robbers」からの引用です。

 

*12:ここにおける「you」とは誰のことでしょうか。脚注 で述べているように、これまで同様自分自身のことでしょうか。その場合だと、内なる自分(心情)との調和を待ち望んでいたという解釈でしょうか。

あるいはこの前の部分「ones you like」のことでしょうか。自身の感情を伝えられる相手、それはバンドのメンバーたちや活動に携わる人々、あるいはメッセージを込めた楽曲を聴くリスナーたち。そうした存在との出会いを待ち望んでいたという解釈もできるように感じます。「Guys」にてバンドメンバーとの出会いを歌っているように。

yamapip.hatenablog.com

 

*13:度々歌詞を引用した「Robbers」はMVから分かるように男女が強盗に入ろうとする物語が描かれ、歌詞の中でも「gun」が出てきます。

この一節はそこを意識して、強盗用じゃなくて護身用だよとつぶやいているんじゃないかとついつい深読みしてしまいますね。

 

あるいはこの楽曲はアメリカツアー中の出来事を描いていることを考えると、アメリカにおける銃規制についてのちょっとしたフックなのかもしれません。

I Like America & America Likes Me」では

Kids don't want rifles, they want Supreme

No gun required

Oh, will this help me lay down?

という一節にも分かるようにアメリカの銃規制を取り上げています。

 

The 1975「Tonight (I Wish I Was Your Boy)」歌詞和訳・解釈

 5/22にリリースされたThe 1975による4枚目のアルバム「Notes On A Conditional Form」収録曲である「Tonight(I Wish I Was Your Boy)」 

 

 

この楽曲では恋人との別れと未練を描かれており、様々な楽曲をサンプリングしたほかNo Romeも作曲に参加しています。アルバム全体で感じる夜の香りのような雰囲気のメロディと、少し甘酸っぱい歌詞が調和したような素敵な楽曲だと思います。

 

和訳だけ読みたい方もいらっしゃると思いますので、脚注は下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただくとより楽しめると思います。

和訳

I tell you I can visualise it all

想像できるものを全て君に伝えるよ

Too real it all seems

真に迫ったものだと思えるくらい

But Once again, runnin' away with me

もう一度だけ言うよ、僕と一緒にここから逃げてしまおうよ

This couldn't be a dream

これは夢なんかじゃない

Runnin' away with me

僕と一緒に逃げてしまおうよ

Runnin' away with me

一緒に逃げてしまおう*1

 

And I stop myself for a minute

そうして少しの間自制する

See if my heart's still in it

まだ僕の心は惹かれているのか確かめる

Say a few things just to win it

ただ愛を勝ち取るために一言二言伝える

Funny how it works out, innit?

どうしたらうまくいくかなんて考えてるとおかしくなってくるだろ?

 

And I told her,"Some things have their time

How can I be yours if you're not mine?"

そうして僕は彼女に言った

物事にはそれぞれ定められた時間がある

君が僕のものでないのなら、どうしたら僕は君のものになるの?」

She said, "They should take this pain

And give it a name"

彼女は答えた

「それぞれの物事はなるべくして道を辿る

そして名前を授かる」のだと*2

 

Tonight, I wish I was your boy

今宵、僕が君の恋人だったならな

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)*3

I (run away from me, run away from me)

僕は…(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

Tonight, I think I fucked it royally

今宵、後ろめたい思いを抱えたまま身体を交える姿を想像する*4

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

 

Give yourself a new name

新たな名前をつけたらどうかな

Change your voice on the train

電車に乗るときは声色を変えるとか*5

Have her complain about your fame

名声に対する彼女の不満とか*6

Tell me that it's all a rigged game

こんなのは全て仕組まれたゲームだって言ってくれ*7

 

She told me, "Some things just take time

How can you be sure if you won't try?"

彼女は僕に教えてくれた

「物事は何をするにも時間がかかる

どうやってあなたはうまくやれるかどうか確かめるの?*8

She said, "I guess I'll take this pain

Instead of your name"

彼女は言った

「甘んじてこの苦難を受け入れようと思う

あなたの名前をもらう代わりにね」と*9

 

Tonight, I wish I was your boy

今宵、僕が君の恋人だったならな

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

I (run away from me, run away from me)

僕は…(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

Tonight, I think I fucked it royally

今宵、後ろめたい思いを抱えたまま身体を交える姿を想像する

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

 

And it's been replaying on my mind

そしてまた僕の思いは燻る

Unfortunately, I've been to this place in my life

不幸なことに、僕はここを行き場所に選んだ*10

Far too many times

腐るほど考えた結果さ

Sunday's nearly over, so I'll just lie awake

日曜日も終わりゆく、寝てばかりではいられないな

Tonight, I wish I was your boy, I

今宵、僕が君の恋人だったならな、僕は…

Tonight, I think I fucked it royally

今宵、後ろめたい思いを抱えたまま身体を交える姿を想像する

 

And tonight, I wish I was your boy

そして今宵、僕が君の恋人だったならな

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

I (run away from me, run away from me, runnin' away with me)

僕は…(僕のもとから去って、僕のもとから去って、僕と一緒に逃げてしまおう)

Tonight, I think I fucked it royally

今宵、後ろめたい思いを抱えたまま身体を交える姿を想像する

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

(Run away from me, run away from me, runnin' away with me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って、僕と一緒に逃げてしまおう)

 

Runnin' away with me

僕と一緒に逃げてしまおうよ

Runnin' away with me

一緒に逃げてしまおう

 

解釈

*1:序盤のひと固まりはThe Temptationsの楽曲「Just My Imagination (Running Away with Me)」をサンプリングしたものです。

The Temptationsは1960年代から活動を続けるアメリカのソウル・コーラスグループで、2013年にはグラミー賞特別功労賞生涯業績賞を受賞しています。

「Just My Imagination (Running Away with Me)」は1971年にリリースし全米1位を獲得した彼らの代表曲の1つ。歌詞は女性との架空の関係を想像するといった内容。

 

 

 

 

またサウンド部分では日本のアーティスト佐藤博の楽曲「SAY GOODBYE」もサンプリングされています。こちらも別れを描いた楽曲です。

 

 

 

*2:この1節はなかなか意味が捉えにくいのですが、私は旧約聖書の一文献「コトレトの言葉」の第3章の1節「All things have their time」から引用しているのではないかと考えています。

この「コトレトの言葉」は決定論に基づいた世界観が述べられています。全てのものには天から与えられた時、つまり定められた運命のようなものがあるという考えが述べられているそうです。

ja.wikipedia.org

 

このことから歌詞に目を向けると、「僕」は彼女との関係が終わるということを定められた運命として諦めても、なおこの関係を切りたくはないのだと伝えています。一方で「彼女」は「take this pain(この苦難を受け入れる)」つまり僕との関係を終わりはつらくとも受け入れるつもりであり、天から「別れ」として定められているのだという諦念を伝えているように思えます。

 

少し話題を逸らしますが、「How can I be yours if you're not mine?」という一節はThe 1975の代表曲の1つ「Sex」にも通じる部分があるように感じました。この曲では彼氏持ちの女性との関係が描かれています。男女の立ち位置、という点では異なりますが、相手が自分の恋人でないとしても、自分は彼女にとっての恋人でいたいという矛盾するような願望は共通しているのではないでしょうか。その矛盾が間違っているからこそ、後の一節「Tonight, I wish I fucked it royally」につながるようにも思えます。

 

rinrin0409poke.hatenablog.com

 

 

*3:この一節は先述の「Just My Imagination (Running Away with Me)」の歌詞「Runnin' away with me」と対比させた歌詞でしょうか。まだ別れを受け入れられない、今夜も彼女の恋人でいれたらいいのにと言いながら、「僕のもとから去ってくれ」とコーラスで繰り返すのは、関係の終わりを受け入れられない精神的な不健全さにも言及したような、Mattyらしさ満載の皮肉めいた一節だと感じます。

 

*4:「fucked it royally」は「fucked」を強調したイギリスのスラング表現で、端的にはセックスをするという意味ですが、海外の掲示板を見ると「Royalty(王族、権威)」から罰されてしまいそうなくらい後ろめたい過ち、といったニュアンスもどうやら込めているみたいです。

www.reddit.com

 

*5:ここでの「you」は自分自身ではないかと思います。内なる自分が、いっそ新しい名前を手に入れて、外では声色を変えて生活したらどうかと問いかける。つまり今の自分とは全く別の人間として生きていきたいという欲求を表現しているのではないか。

 

*6:別の人間として生きていきたいのは、彼女との関係が終わった一因に自身の名声があると考えているからです。これは歌詞を書いているMatty自身の体験でもあるのでしょうか。The 1975として名をあげ世界中で活躍することは、そのロックバンドのフロントマンである彼と関係を続ける女性側の難しさや苦悩にもつながるだろうと想像できます。

 

*7:a rigged game」とは出来レース八百長といった意味の表現。先で述べたようにあらゆる出来事があらかじめ定められているのだとすれば、この世の中はまさしく仕組まれた抗いようのないゲームだということになる、とここでは述べていると考えました。

 

*8:まだ関係を諦められない「僕」に対して彼女はこう言っているのではないでしょうか。たしかにもしかしたらうまくいく可能性もある、でもそれは今は分からない。人生は有限であり、特に20代30代の時間は過ぎてしまったら取り戻せない。それならば今関係を終わりにして、お互い別の出会いを探した方がいいのではないかと。

 

*9:「instead of your name」とは相手の名前をもらう代わり、つまり結婚する代わりにということです。彼女は「僕」との恋人関係を終わりにするのは痛みある決断だけど、結婚せずそれを受け入れると伝えています。恋愛と結婚は違う、とはよく耳にしますが、この歌詞における2人は、単純にどちらかの心が離れたから別れるというのとはまた違うのだと伺えます。

 

*10:脚注5で述べたように、内なる自分に「新たな自分として生きること」を提案されていますが、それでも今いる場所、今の生き方を選ぶと返答しています。それが悲しい結果、彼女との別れにつながると分かっていても。

 

Matty自身の経験として話していると仮定するのなら、やはりThe 1975というバンド、そのメンバーやそこで作る音楽・演奏はかけがえのないものだからこそ、この場所を選ぶのだという意思なのでしょう。それは「Guys」の歌詞からも伝わることです。

yamapip.hatenablog.com

 

 

仮定形に関する注釈

The 1975「Guys」歌詞和訳・解釈

5/14にThe 1975の新曲「Guys」がリリースされました。翌週リリースされる新作「Notes On A Conditional Form」に収録される楽曲で、今年2月にイギリスで行われたライブツアーでも先立って披露されました。この曲ではバンドメンバーに向けた思いが描かれています。

 

和訳だけ読みたい方も多いかと思いますので、部分について註釈は下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただくとより楽しめると思います。

 

 

和訳

I was missing the guys

みんなのことが恋しくて仕方なかったんだ

In my rented apartment

借りていたアパートにいる間ずっとね(※1

You would think I'd have realised

普通気づいているもんだと思うだろ?

But I didn't for quite sometime

でも僕はずっとそうじゃなかったんだ(※2)

Started wetting my eyes

涙が溢れてきた

'Cause I'm soft in that department

だってみんなの中で自分は冴えなくて間抜けな存在だと思ってたから(※3)

Right then I realised

そうしてやっと気づいたんだ

You're the love of my life

みんなは僕の一生涯の親友だってことを(※4)

 

The moment that you took my hand

みんなが僕の手をとってくれたとき

Was the best thing that ever happened

それが最高の瞬間だった(※5)

The moment that we started a band

僕らがバンドを始めたとき

Was the best thing that ever happened

それが最高の瞬間だった

And I wish that we could do it again

またあの瞬間を繰り返したいな

It was the best thing that ever happened to me

僕にとって最高の瞬間だったのだから

It was the best thing that ever happened to me

僕にとって最高の瞬間だったのだから

It was the best thing that ever happened

最高の瞬間だったんだ

 

I took a zoot outside

マリファナを一本取り出す(※6)

In my coat's secret compartment

隠したコートのポケットの中から

I hear a song and start to cry

曲を聴いて涙する

Pretend it's smoke that's in my eye

煙が目に入ったフリなんかしてさ(※7)

I don't know why I'm surprised

どうして驚いたのかわからないや

'Cause we all shared one apartment

だって僕らみんなで1つのアパートをシェアしてたから(※8)

Man, they were golden times

なあ、良い時間だったよな

They were the best of my life

あの頃は人生で最高の日々だった

 

The moment that you took my hand

みんなが僕の手をとってくれたとき

Was the best thing that ever happened

それが最高の瞬間だった

The moment that we started a band

僕らがバンドを始めたとき

Was the best thing that ever happened

それが最高の瞬間だった

The first time we went to Japan

初めて僕らが日本に来たとき

Was the best thing that ever happened

それが最高の瞬間だった(※9)

And I wish that we could do it again

またあの瞬間を繰り返したいな

 

You guys are the best thing that ever happened to me

みんなとの出会いこそが僕の人生で最高の出来事だったんだ

You guys are the best thing that ever happened to me

みんなとの出会いこそが僕の人生で最高の出来事だったんだ

You guys are the best thing that ever happened

みんなとの出会いこそが最高の出来事なんだ

You guys are the best thing that ever happened to me

みんなとの出会いこそが僕の人生で最高の出来事だったんだ

You guys are the best thing that ever happened

みんなとの出会いこそが最高の出来事なんだ

 

解釈

※1

この曲はバンドのフロントマンMatthew Healyから、同じくメンバーであり親友でもあるAdam Hann,Ross MacDonald,George Danielに向けたラブソング。「みんな」とは彼らのことです。

みんなで集まってるときは楽しいけど、アパートに帰ると恋しく思えてくる。それほど大切な存在についての歌です。

kiwi-english.net

 

※2

「You would think~」は「普通なら~だと思うよね」という表現だそうです。

nic-english.com

 

では、何が普通ではなかったんでしょうか。それはきっと出会った瞬間には分かっていなかったこと。その後の一節「Right then I realised You're the love of my life」の通り、出会ってから多くの時間を共にする中でみんなの存在の大切さに気付いたということです。「出会ってすぐ分かりそうなものだけどね」とちょっぴり冗談めいて言っているように感じました。

 

 

※3

「soft」という単語は様々な意味合いで使われるそうで、勇気がなく目立った特徴もないことや、イギリス特有の表現で馬鹿げた・愚かなことを表すこともあります。(「soft in the head」という慣用句でもしばしば使われます。)

www.ldoceonline.com

 

つまりここでは、自分はみんなのなかでも特別目立った存在じゃないし賢いわけではないと自覚している。そう思ったとき情けなくなって涙が出てくる、そんな経験に覚えのある方々も大勢いらっしゃるでしょう。

そして自分が未熟で冴えない存在だと自覚しているからこそ、ずっと仲良くしている親友たちのことが自分にとって欠かせない大切なものだと気付けたのではないかと自分は感じます。

 

※4

「love of my life」は最上級の愛の言葉。生涯通じて抱くべき愛情。それは恋人、家族、そして親友など、人生の中で滅多に出会えないような大切な存在に向けられるものなのでしょう。

 

※5

The 1975のメンバーが初めてバンドを組んだのは2002年、当時13歳のことでした。イギリス・マンチェスターよりやや南方にいった町ウィルムスローの学校で出会った4人は後にThe 1975となる前身バンドを結成、当時はパンクロックをカバーしていたそうです。

www.macclesfield-live.co.uk

 

※6

Zoot」とはスラング表現で「タバコ」あるいは「大麻マリファナ等の薬物」を表しますが、秘密のポケットから取り出すので後者かなと考えました。

 

前作「A Brief Inquiry Into Online Relationships」の収録曲「Give Yourself A Try」にも

I found a grey hair in one of my zoots

という一節がありました。

 

※7

よくある「泣いてないから!目に埃が入っただけだから!」ってやつですね。

 

※8

バンドで作った楽曲の良さに驚いて涙を流したのでしょう。どうして驚いたのか、よくよく考えると分からない。1つのアパートをシェアしてみんなで暮らしていた輝かしい時間を思えば、自分たちの手ですごい曲を作れて当然じゃないか!それほど大事で価値のある時間だったと、ここではきっと表現されているのではないかと思います。

 

※9

The 1975が初めて日本に来たのは2013年。前年から「Facedown」「Sex」「Music for Cars」「」と立て続けにEPを4枚リリースし、1stアルバム「The 1975」のリリースを9月に控えたタイミングでサマーソニックに出演しました。欧米圏でのライブは既に数多く経験していたものの、フルアルバムのリリース前にも関わらず遠く離れた日本から届いたオファー。それを今こうして歌ってくれるのはとても嬉しいです。

 

出演日はサマーソニック東京会場の2日目(8/11)で、3番目の規模であるソニックステージの2番手(11:15~)という出演枠。

www.summersonic.com

 

また併せて8月14日にはショーケースとして初単独公演も開催されています。会場は今はもう無くなってしまった原宿アストロホール。400人キャパの会場でした。

www.creativeman.co.jp

 

 

22曲81分越えの大作「Notes On A Conditional Form」の最後を飾る、そして前作と合わせてバンドが自称する「Music For Cars」期としてThe 1975の大きな章を締めくくる、最高のエンドロールだと思います。来る新作を聴くのが待ち遠しいと共に、「The first time we went to Japan Was the best thing that ever happened」の一節がここ日本でも大合唱できる光景を、私は夢見ています。

 

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