音楽紀行(ライブレポ、アルバムレビュー)

行ったライブの感想や聴いたアルバムのレビューを。いい音楽を見つけるツールにも。

深呼吸

「WHALE LIVING」/Homecomings

 人が呼吸して取り込んだ空気中の酸素は、肺で血液中に溶け込み全身に運ばれていくそうです。無意識に取り込まれる酸素が身体中を巡りめぐって生命の源になる、なんだか不思議で神秘的だなあなんて思うわけです。

 Homecomingsの音楽も、意識せず聴き手の全身にじんわり浸透していく。優しく励まされ、知らず知らず自分の原動力になる。そんな感覚がありました。このアルバムを聴くのは、あたかも深呼吸するようなものなのです。

Topic 1 日本語の歌詞

 私は好きな日本のアーティストにはなるべく日本語で歌って欲しいと思っています。たしかに英語は言葉の性質上メロディに乗せやすいし、「Hello」と「こんにちは」なら前者の方がなんとなくかっこよく聴こえるんですが。

でもアーティストが苦労して日本語をメロディに乗せることで、自分の母国語が活き活きと響くのを聴くのは気持ちがいい。

 Homecomingsはこれまで英詞で歌っていたのですが、私は彼女たちのアコースティックライブを見に行き、楽曲のメロディの良さに触れて以来「この素敵なメロディに日本語が乗ったならばどんな化学反応が起きるんだろうか。」と期待せずにはいられませんでした。例えるならスピッツなどのように、音が言葉に瑞々しさを宿す、魔法のような瞬間にいつか立ち会えるんじゃないかとずっと思っていました。

 作詞を担当する福富さん(Gt.)によれば、日本語でやりたいと考えていた部分もあるが、なによりこれまで同様やりたい音楽をバンドでやるために、「変わらない」ために「変わった」とのこと。そして生まれた音楽にはたしかに魔法がかかっていました。

Topic 2 自然体

 日本語詞はいずれの楽曲にも違和感なく乗っかっているのですが、それだけじゃなく楽器の演奏から端々のアレンジに至るまで良い意味でひっかかりなく、滑らかに流れていくところが印象的でした。「さて聴こうかな。」と1曲目「Lighthouse Melodies」を再生して、ふと気づくとラストの「Songbirds」になっている。1曲1曲を堪能しながらも、区切りないひとつの映画を見ているような感覚です。後述の通りコンセプトアルバムである今作は、そういう点もあり1つのアルバムとしてのまとまりを強く持っているように感じました。

Point 1 出発点

 曲順をすっ飛ばし、本作ラストの曲「Songbirds」から先に触れずしてこのアルバムは語れません。映画「リズと青い鳥」の主題歌にもなった曲だが、今作の方向性を決める大きな1曲だったそうです。

 数多くのライブをこなし「PLAY YARD SYMPHONY」など収録のEP「SYMPHONY」を昨年リリースしたりと順風満帆のようにも見えたバンドだが、インタビューを聞くとかなり危機的な状況だった様です。多忙な音楽制作の中疲弊し行き先に迷ってしまったバンドでしたが、京都新聞のタイアップやチャットモンチ―のトリビュートアルバム参加など、そして「リズと青い鳥」の主題歌担当が決まり、状況を打破する要因となります。

 こうして生まれたのが、これまでの集大成といえる「Songbirds 」です。バンドの原点に立ち返ったミディアムテンポのギターポップ。そして映画のテーマともリンクする「人と人との距離」を描いた歌詞は、身近な視点から人の寂しさと小さな幸福を描くバンドらしいものに。「Homecomingsってどういうバンドなの?」と聴かれたら、僕はまずこの曲を紹介します。

Topic 2 「距離」というコンセプト

 本作は、温度感の揃えられた各楽曲に一貫したテーマを描いた歌詞が乗った、統一感あるコンセプトアルバムです。

 歌詞に着眼すると、「Songbirds」で描かれた「人と人との距離」というテーマ、大切な相手だからこそ平行線のように交わることなく、それでも近づいたり離れたりする。ここから着想を得て描かれるのが、架空の男女の物語です。

 各楽曲の歌詞によく出てくるキーワードは「窓」「手紙」といった言葉。離れた距離にいる2人は、窓辺で空を見上げながら相手を思う。「Hull Down」にて、日常の様々なひと時を描写しつつ、

さあ手紙を書かなきゃ 少し照れるな

と歌われる。

「Parks」では、新しい街で生活する「僕」が洗濯したり料理したりして過ごす日々、時には相手との距離に寂しさが増すこともあるけど

でも 可愛い風向き 綿毛が舞い込めば!

とても小さな 幸せをくべて 灯が消えないように

と歌われる。おそらく「綿毛」=相手からの手紙なんだろうなと思います。手紙が届いてそれを読む時間こそ2人の距離が近づく瞬間であり、その幸福という灯が消えぬようにまた手紙を返すのでしょう。

しかし「So Far」で描かれるのは、2人の距離がそれ以上に離れてしまったこと。

そこが君に合っているなら 日々はそれで回るから

はなればなれの 時を嘆くなよ

と「君」との遠い遠い別離が描かれる。しんとした空の描写を交えつつ

返事を書くよ 読まなくていいけど

と言ったり

届くといいけれど

と言ったりしているのは、もはや相手に、出した手紙は届かず読まれることはないという諦めのような意味合いを持っているのでしょう。

君に輪っかが 浮かんだんだ

僕にはないからさ

とは、「君」がもうこの世にはいないということなのでしょうか。

 こうした物語を総括するのが「Whale Living」という曲。

ずっと前に閉じたままの 宛名のない手紙は

きっと相手に届かないことが分かっているからこそ、部屋の「小さな家具」その引出しにでもしまって秘めているのでしょう。けれど

便箋に書かれた文字に ランプが灯る

冒頭の曲「Lighthouse Melodies」にて語られる

灯台の明かりが岬を指すころ

くじらのすみかには

手紙が届く

人知れず手紙に込めた思いが、くじらのすみかである「海の底」へと届く。そして

海の底

どこかであの手紙がふいに届くように

どこにいるかもわからない「君」へ、平行線のように交わることのない相手にも、海の底を介して届くといいなと歌われているのです。

 

 紹介した歌詞は一部分で、私の解釈も足りない分が多いですが、詩的な描写も多く聴き手に解釈を委ねつつ、ここまで統一感のある「物語」を音楽の中に宿したのは見事だと思います。

Topic 3 深まったバンドの持ち味

 こうした素晴らしい歌詞をのせた各楽曲は、その温度感を保ったまま、より広がったバンドの表現力をもって伝えられています。

 「Lighthouse Melodies」は波の音も含めて、静かな映像が思い浮かぶ「物語」の導入。壮大すぎずさりげない室内楽的なストリングスも情景を引き立てます。

 「Smoke」は、先述の通り「Songbirds」から着想を得た本作の、音楽面での方向性を決めた1曲。アルペジオや単音弾きのエレキギターの音色は優しく少し儚なげ。注目すべきは畳野さん(Vo.)の歌声です。これまでは歌のキーをときおり上げて抑揚から感情に訴えかける歌も多かったですが、本作ではこの曲をはじめなるべくキーが一定に抑えられています。日本語詞に変わったことを意識しつつ楽曲の温度感に寄り添い、一方でボーカルとしての個性をいかに残すか、そのバランスに苦心したに違いない。

 ネオアコ的テイストにコーラスが上手く絡んでいるのが気持ちいい「Hull Down」や、アコギでのシンプルな弾き語りが新鮮な「So Far」もさることながら、本作におけるバンドとしての完成形といえるのが「Blue Hour」でしょう。この曲は本作の温度感に一番ぴったり合った曲で、寂しさが歌詞からも音からも伝わってきて沁みます。決して派手でなく平坦にも思えるこのバンドの楽曲が、それでも琴線を激しく揺らすのはなぜでしょうか。きっとメンバー4人が揃って伝えたいことを楽曲にぴったりと落とし込めているからではないかと思うのです。奇跡のような4分58秒。

 「Whale Living」は本作の総括である曲だが、アレンジによってとんでもない名曲になっています。ピアノとストリングスの音色がドラマティックで、とにかくずるい。畳野さんの優しい歌声がもっとも響く舞台が作り上げられていて、思わずじっと、じっと目を閉じたまま聴き入ってしまう。そして、この素晴らしい傑作を祝うエンドロールのように「Songbirds」でアルバムは締められるのです。

 

 Homecomingsが持つ魅力、特に今作での魅力は、誰もが持ち得る日常の中の寂しさをフォーカスし、そこからそっとほんの小さな希望をすくい上げてくれるような音楽性にあると思います。 彼女らの音楽の、眩しすぎない輝きに魅了されるのです。

 

WHALE LIVING

WHALE LIVING