メロディの伏線回収カタルシス劇場「My Favorite Fish」/Gus Dapperton
Gus Dapperton - My Favorite Fish
私はミステリーが好きだ、なぜかというと序盤に敷き詰められた伏線が終盤見事に回収された瞬間の、あの一気に視界が開けた感じが堪らないから。
そんな重厚な推理小説ばりの伏線回収を体感できる「My Favorite Fish」が最高。
ド派手な見た目の彼だけど、この曲の始まりは優しげな歌声とバッキングギターから始まる。そこから軽やかなドラムのリズムが加わって、ささっとシンセサイザーのような音色も添えられ、素朴な音楽が紡がれていく。
「んんっ?」
少し耳を澄ますと、歌メロとは別にもうひとつメロディラインが聴こえる。アコースティックギターの単音弾きで
ティ~~リンッティ~リッリ
ティ~~リンッティ~リッリ
ティ~~リンッティ~リィリリ
ティ~~リンッティ~リィ
延々とリフレインされるこのメロディのそれとなさといったら異常。
楽曲の中心に据えられるGus Dappertonの歌声は力強いわけでもなく脱力感すらあるのに、なぜか病み付きになる中毒性や飄々とした遊び心のようなものを感じさせる。それ故に聴き手はみんなその歌声に聴覚を惹きつけられる、だからもうひとつのアコースティックギターのメロディにグッと気を配ることなどできるはずもない。
それでも2分近く歌声や演奏の後ろ側に潜んでそっとそっと繰り返されるこのメロディ。知らず知らずのうちに聴いてる自分の耳に刷り込まれていることにこの時点では気づけない。
そしてこの曲が始まってから2分10秒過ぎたとき…分かれていた歌メロとアコースティックギターのメロディが交わって一体化したとき。
「ああああああそういうことかああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そもそもこの曲は「大海を泳ぐ無数の魚たちの中で最も大好きなお魚さん」つまりは世界にいるたくさんの人々からただ一人、親密になりたいと望んだ相手へ贈られたラブソング。冒頭からずっと成就するまでの恋の楽しさ・苦しさに焦点が向けられている。「Chipper and choking(心が弾む/息が詰まる)」「Sprightly and spastic(ウキウキする/うまくいかない)」という二面性ある恋路を進みながら恋の絶頂期に達する。
そうして「You are my favorite fish」というこれ以上にない愛にあふれた歌詞へとたどり着く。ずっとずっとそれとなく鳴っていたあのギターのメロディに乗って歌われるのだ。「I don't usually fall in love I'm not used to fa-la-la-la」僕は君にしか恋をしていないから、いつだって恋に落ちるわけじゃないし恋することには慣れていないのさ、とこれ以上ないくらいの愛を訴える。
そういうことだったのか。ここの歌詞を、高まりきった慕情を一番に伝えるために、目立つ歌声の陰に隠れようが気にせずに、ずっとずっと同じメロディを繰り返していたんだ。全てはこの瞬間のため。あたかも恋路のなかで積もっていく様々な思いや経験が恋の高まりを生み出すのと同じように、知らず知らずこのメロディをじっくり耳に馴染ませておいて、彼が同じメロディを歌ったときに与えるインパクトのために。
そうしてこれまでの布石に気づいた頃には、もう私も虜になってこの部分を何度も何度も口づさんでいた。
11月末に待望の初来日公演を果たすGus Dapperton、この曲だけのためにライブ見に行ってもおつりが出ますよ皆さん。彼と一緒に「You are my favorite fish!」と歌ってみてはどうですか?
お魚さんになって彼の圧巻のパフォーマンスに釣られに行ってください。ギョギョギョ。