音楽紀行(ライブレポ、アルバム感想・レビュー)

ライブに行ったレポートやアルバムの感想・レビュー。好きな音楽を見つけるツールにも

2010年代アルバムマイベスト

極めて私的な10年代ベストアルバム、今回は海外のアーティストがリリースした中から10枚。

 

 

「Noel Gallgher's High Flying Birds」(2011)

Noel Gallgher's High Flying Birds  

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ

初めて生でライブを見た海外のアーティスト。「Everybody's On The Run」の間奏で、初めて生演奏を聴いて号泣した。そうして音楽を聴く上でたくさんのきっかけをくれたのがノエルギャラガーでありこのアルバムだった。そんな作品を一生大事にしたい。

 

 

「James Blake」(2011)

James Blake

James Blake

初めて彼のライブを見たとき、ようやくその音楽の真髄に触れた。ステージ上には3人。ギターとベースを兼ねる者、ドラムと電子パットを自由自在に駆使する者、そしてキーボードを弾きながら歌声を届ける者。

Limit To Your Love」が披露されたときの会場中が聴き入るような空気感も、2ndアルバムに収録される「Voyeur」がより激しいテクノに変貌し照明と相まってとんでもないことになっていたことも思い出せる。

そしてライブの最後で「The Wilhelm Scream」が演奏されたとき、ひとつの音楽を聴いて異なる矛盾するような感情を重ねても良いんだなと悟ったのだった。ノリノリの曲にテンションを上げて、バラードにうっとりするだけが楽しみ方じゃない。ひとつの曲を聴きながら、美しい音色への恍惚感や寂寥感も、曲の展開への興奮も、あらゆる感情をごっちゃにして楽しんで良いんだなと。自分の心中なんてそう一つに括れるほど単純なものじゃないんだからこそ、そういう楽しみ方も素晴らしいんだよと教わった宝物のような時間。

 

 

The Last of Us」(2013)

Gustavo Santaolalla

Last of Us

自分にとってゲームサントラは、音楽ライフを振り返る上で欠かすことができない。ゲームサントラが好きなのは、曲として好きなだけでなくそこにゲームを通じて得た物事を重ねることができるからだ。

 

それはゲーム内の壮大なストーリーだけでなくて、なかなか攻略できずに四苦八苦してプレーしたことや、続きが気になって仕方なく夜通しゲームした現実世界での自分の振る舞いも重なっていく。

 

The Last of Usという物語はとても面白い。そして作中で流れる音楽は、寂しげでどこか危うさを帯びた、一方でほんの少し暖かみもあるようなこのゲームの本質を音として伝えてくれる。

 

思うに、自分にとって大事な音楽っていろんなことを想い起こすことができるものなんだろう。

 

 

「Black Messiah」(2014)

D'Angelo

BLACK MESSIAH

サマーソニックなる音楽フェスの存在を知ったのは2015年のことである。そしてD'Angeloというアーティストを知ったのも同時だ。何でもとんでもないライブをしたと様々な媒体でしきりに話題になっていた。

前作をリリースすると表舞台から姿を消し、山にこもったりした後に14年ぶりにアルバムを出し、そして満を持して翌年に初来日を果たしたという彼のことが、ライブの評判も相まってとても気になった。

 

CDショップで買ったアルバムを聴いてみる。よく分からない…。なにかドス黒くて恐ろしく、今までに聴いたことのなかった音楽。聴き込む。分からない…。ギターロックばかり聴いていた自分にとっては異物感しかなかった。そんなタイミングで再来日、単独公演が決まる。相変わらず理解できずにいた彼の音楽、けれど不思議とライブ会場に向かわなければいけないような気がした。

 

ライブ当日、一時間以上経っても始まらない。そわそわしている自分をよそに、開演遅れのアナウンス。それを聞いてなお余裕ある微笑を浮かべる周りの観客たち。20歳そこそこのぺーぺーなどお呼びでない、来てはいけないところへ来てしまったのだと思った。

 

いよいよ彼がバンドを率いて登場した。最初の一音から全ての疑心が弾け飛んだ。理解できないと思っていた彼の音楽が、とてつもなく輝いて聴こえた。拍手をしたり歓声を上げるだけでなく、音に合わせて自由に身体を揺らすという楽しみ方を知った。

 

全席指定のホールを見回してD'Angeloが観客に手招きをした。10列目に座っていた自分は彼のその煽りに操られたかのように席を立ち、ステージの真ん前へと駆け出していた。そんな若造を見て会場中の観客たちが続いた。初めて席のある会場の前方がライブハウスさながらのスタンディングとなる瞬間を見た。手を差し伸べた私に彼は力強くハイタッチしてくれた。鍛え上げられた彼の身体を覆う大粒の汗がとてつもなくかっこよく映った。

 

このアルバムは自分がロック以外の音楽も好きだということを気づかせてくれた作品で、D'Angeloという男は自分にまた新たな音楽の楽しみ方を教えてくれたのだ。

 

 

「Syro」(2014)

Aphex Twin

Syro [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC444)

この頃になるとロック以外の音楽も聴いてみたいなと、漠然とした興味を募らせていた。ほとんど情報源を持たない中で、数少ない贔屓にしていた音楽ブログで紹介されていたこのアルバムを知る。店頭で手に取るも、シンプルなアルバムのアートワーク故にどんな音楽が聴けるのか想像できなかった。

 

そんな状態でCDをオーディオに突っ込む。何だこれは…!!何が起きているのか分からない。分からないのだけど、まるで流れの激しい渓流に投げ出され身体を弄ばれているかのような感覚を前に、私は気持ちいいなと思った。予想のつかぬ展開の連続、聴いたことのないような音の絡み合い。

 

一生懸けても世界中の音楽を楽しみ尽くすことなんてできないだろうな、と感じ取った初めての瞬間だった。

 

 

「Ghost Stories」(2014)

Coldplay

GHOST STORIES

Viva La Vida or Death and All His Friends」もしくは「Mylo Xyloto」で存在を知り、遡って聴く内に「A Rush of Blood to the Head」がお気に入りのアルバムになったColdplayというバンド。

彼らのアルバムで一番好きなのが、初めてリアルタイムでリリースを迎えることができたアルバム「Ghost Stories」だ。

 

多感だった学生時代に、このアルバムの温度感は堪らなく自分に馴染んだ。大好きな彼らのメロディはそのままに、抑えられたミニマムなサウンドを伴っていて、魔法みたいだなと感じた。

アルバムというフォーマット故に、じっくり腰を据えて向き合う必要のある作品も多い。けれどこの作品で描かれている感情はとても身近で、肩肘張らずに何度も何度も聴いた。

 

一番好きな聴き方。日を跨ぐ40分前に電気を消して、真っ暗な部屋で布団を深々と被る。イヤホンをズッポシと耳に突っ込んで、Walkmanで再生する。するとどうだろう、真っ暗な部屋のなかに星空が浮かぶのだ。「Always In My Head」にグッと引き付けられて、「Ink」の軽やかさにリラックスして、「Midnight」のサウンドと共に意識と現実の境界線を曖昧にする。そうして「A Sky Full of Stars」に到達したとき自分の意識は窓の外へ、街灯の明かりを越えて向こうに見える山を越えて、ようやく望める無数の星々のもとまで飛んでいくんだ。慈愛を可聴化したような「O」のピアノの音色に包まれたまま、いつの間にか眠りにつく。

 

東京ドームでの来日公演。中盤で「Always In My Head」「Magic」を披露したほんの数分、あの時間だけはちっちゃな部屋にColdplayの4人と自分だけがいるかのような気分になって、その夜は久し振りに一番好きな聴き方でアルバムを聴いた。

 

 

「A Moon Shaped Pool」(2016)

Radiohead 

A Moon Shaped Pool[輸入盤CD](XLCD790)

高校生の自分。音楽ブログでおすすめされていた彼らのアルバム「The Bends」を聴く。かっこいい、すげえ…。洋楽を聴きはじめたばかりだった自分には、ギターロックでありながら唯一無二で複雑に展開するこのアルバムの楽曲はすこぶる新鮮で、病み付きになった。

よし、このバンドのアルバムを他にも聴いてみよう。「OK Computer」を聴く、ちょっぴりピンとこない。「KID A」を聴く、なんじゃこりゃ?ギターロックの頂きに到達したかのような「The Bends」のその先の風景を期待した青年には肩透かしに思えた。自宅のCDラックからしきりに取り出されるのは買った3枚のうち1枚きりになっていた。

 

3,4年が経ち、2016年。サマーソニックRadioheadが出演することになった。新しいアルバムも出た、どうやらでストリーミングサービスというやつなら先行で聴けるらしい。きっとかつて自分が望んだようなギターロックがに聴けるわけではないのだろう。それなのに、不思議と急かされるような気分でApple Musicというものを始めた。

 

やっぱり「The Bends」とは違ったし、もちろん「OK Computer」とも「KID A」とも違った。だけれどとても、とても心地よく聴こえた。この数年いろんな音楽を聴いてきた。自分の耳は様々な音楽を聴くことに喜びを覚えていた。

もう一度「OK Computer」を聴いてみた。こんな歴史に残るとんでもなねえアルバムがあるのか!と一人で沸き立つ青年がそこにいた。

 

生で聴かないとダメだ!と確信して、友達を誘い初めて音楽フェスというものに行った。そしてあの2時間、夢中で見ていて記憶なんて残す余裕がなかった。それでも、今このアルバムを聴けば「Burn The Witch」と共にライブの始まったときの胸踊る感覚を、「The Numbers」と共に肌を撫でたやや肌寒い海風を思い出せる。くっきりと。

 

 

「Coloring Book」(2016)

Chance The Rapper

Coloring Book [Explicit]

2018年、ヒップホップというジャンルを牽引する彼がサマーソニックにて待望の初来日を果たす。

自分は全くヒップホップというものを聴かなかった。ギャングスタラップへのイメージのせいか、どうしてもどこか血生臭くて怖い印象をこのジャンルに抱いていた。平坦で淡々とラップを紡いで捲し立てる印象があって、自分の楽しんでいる音楽とは全く別の世界のものだという先入観を抱いていた。

 

海外の音楽をネット上で追うようになると、ヒップホップの話題を避けては通れなかった。良い機会だからとこのアルバムを聴いてみる…。

おやっ?思っていたのと違う。とても音色がカラフルで豊潤で、喜びや幸福といったものを感じ取った。抱いていた先入観なんぞ、すっかり地の底へと消え去ってしまっていた。まだ見ぬ光景が見れるんじゃないかと予感した。

 

サマーソニック当日。こうしてヒップホップを聴き始めたばかりの自分には懸念があった。アーティストのラップに付いていけるのか。ライブ映像を見ると観客はみな流れるようなラップに声を合わせている。どうしたものかと思っていたら、後ろにいた二人組の外国人が話しかけてくれた。

「とても楽しみなんだけど、付いていけるか不安だよ。」と伝えると、満面の笑顔でこう返してくれた。「大丈夫、自由にテキトーにやって楽しめばオッケーだよ!私がバッチリ引っ張るから任せて!」と。

 

約70分間のステージ、自分は歌詞もあやふやでボロボロだったけど、好き勝手に歓声を上げたしデタラメな文章を口走ったし、鼻唄でフフフーンとごまかした。とてもとても楽しかった。会場の観客たちがヒップホップが下火だと言われて久しい日本に来てくれたChance The Rapperへの感謝と敬意と愛情をどうにかして伝えよう、めいっぱい返そうとする姿。それを見て嬉しそうに感極まった表情を浮かべる彼。あんな愛情が溢れた光景は、彼の音楽と共に一生忘れられない。そしてもちろん、自分の真後ろでどの曲もバッチリアーティストばりに歌えていたあの外国人のことも。

 

 

「iridescent」(2018)

BROCKHAMPTON

Iridescence (Clear Vinyl) [12 inch Analog]

ヒップホップへの入り口に導いてくれたのがChance The Rapperだとすれば、その奥に広がる素敵な光景へと手を引いてくれたのがBROCKHAMPTONだ。2018年のサマソニが終わり、いろいろヒップホップも聴いてみようと思った自分が辿り着いたのは「iridescence」というアルバムだった。

 

アルバムタイトルが意味する「玉虫色」がとても似合うグループだなあ、と聴けば聴くほど思った。6人が代わる代わるパートを担っていくスタイルや、幅広いメンバーのパフォーマンスに沿うような多彩な音楽によって、ヒップホップを楽しむDNAが自らの細胞内に新しく生成されていく感覚。

 

19年の夏、サマーソニックへの出演とそれに先駆けての単独公演が決まった。「ワン・ダイレクション以来のボーイバンド」と称する彼らのライブは戦隊ヒーローショーみたいに華やかでド派手で、どのメンバーを見ていればいいのかと目が回る。ステージに立つメンバーの名前に始まり定番曲のラップパートまでしっかり覚えて、会場中の観客たちと声を合わせて捲し立てるように叫んだ。後方ではメンバーに促され、感情

を爆発させるような幸福感のあるモッシュも巻き起こっていて、ヒップホップのライブの楽しさを分かった気がした。

 

だから感謝を伝える気持ちで手を差し伸べたら、Kevin Abstractが力強く握り返してくれた。惚れないはずがなかったので、8月15日はKevinファンになった記念日。

 

「A Brief Inquiry Into Online Relationships」(2018)

The 1975

ネット上の人間関係についての簡単な調査

忘れもしない2018年11月30日0時ちょうど、私は夜行バスに乗っていた。どうせ眠れないからとイヤホンをつけてリリースされたばかりのこのアルバムを聴いた。

 

いつもと違う雰囲気のオープニングトラック「The 1975」が得も言われぬ期待感を煽り、そこから57分間一瞬足りとも聴き逃すまいと齧り付いて耳を傾け続けた。

 

この時代に生まれて良かった、と心の底から思えた。この2010年代になって海外の音楽を聴き始めた自分には、ひねくれた性格ゆえの歯痒さがあった。

どの時代のリスナーにとっても、自分の世代を代表するようなロックバンドがいる。60年代ならThe Beatles,70年代ならSex Pistols,Queen,80年代ならGuns N' Roses,U2,90年代ならNirvana,Oasis,Radiohead,2000年代ならArctic Monkeys,The Strokesなど…。

音楽を好きになり過去に出た作品をいろいろ聴き、これをリアルタイムで楽しめた人は心底楽しかっただろうなと思った。では自分はどうか?2010年代、ことあるごとに「ロックは死んだ」と偉そうな評論家たちはしたり顔で言っていた。評判の良いアーティストやアルバムが出ると「○○の再来だ!」と持て囃された。自分たちの世代に生まれたものさえも、かつての栄光ある作品たちに例えられてしまう。何でもかんでも昔の世代の手柄にされるような気持ちになって、何かを奪われるような感覚で悔しかった。かつての人々が経験できたであろう熱狂を、

生で味わえることを欲していた。

 

 

それがこの日、ストリーミングサービスを通じて0時ちょうどに多くの音楽ファンが同時にアルバムを聴く。SNSを通じて余計なものが介在されることなく、皆が抱いた感動が直接周囲へと広がっていく。これまでは名盤と呼ばれる作品を聴きながら想像することしかできなかった、リアムタイムでのロックへの熱狂を初めて体感できた瞬間だった。

 

 

何度も何度も擦りきれるくらい聴いたし、全ての歌詞を逐一ノートに書き写して読み解いた。サマーソニックの出演した彼らの、命を燃やすようなライブを脳裏に焼き付けたし、彼らのライブが見たいという思いが自分に初めて海外一人旅をさせた。人がいろんな行動に駆られるようなエネルギーとなる音楽、これって凄いことだなと思う。

 

こうして、音楽がもっと好きになったと確信した2019年現在、このアルバムが一番大切な作品になった。

 

 

 

 

 

2019年が終わる。2010年代という区切りも終わる。2020年が始まるし、2020年代というひとつの枠組みがまた始まる。私は次の10年でこの10年よりも音楽が好きになれる確信がある。

 

そして2020年代が終わるとき、私はどんな風にその10年を振り返っているだろうか。どんな素敵な音楽と知り合えているだろうか。そのときになってもまだ「次の10年でまだまだ音楽が好きになれる」と笑いながら言っているだろうか。

 

 

きっとそのときはこの文章を読み返しているはずだ。笑ってくれていると嬉しいな。