音楽紀行(ライブレポ、アルバム感想・レビュー)

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The 1975「Tonight (I Wish I Was Your Boy)」歌詞和訳・解釈

 5/22にリリースされたThe 1975による4枚目のアルバム「Notes On A Conditional Form」収録曲である「Tonight(I Wish I Was Your Boy)」 

 

 

この楽曲では恋人との別れと未練を描かれており、様々な楽曲をサンプリングしたほかNo Romeも作曲に参加しています。アルバム全体で感じる夜の香りのような雰囲気のメロディと、少し甘酸っぱい歌詞が調和したような素敵な楽曲だと思います。

 

和訳だけ読みたい方もいらっしゃると思いますので、脚注は下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただくとより楽しめると思います。

和訳

I tell you I can visualise it all

想像できるものを全て君に伝えるよ

Too real it all seems

真に迫ったものだと思えるくらい

But Once again, runnin' away with me

もう一度だけ言うよ、僕と一緒にここから逃げてしまおうよ

This couldn't be a dream

これは夢なんかじゃない

Runnin' away with me

僕と一緒に逃げてしまおうよ

Runnin' away with me

一緒に逃げてしまおう*1

 

And I stop myself for a minute

そうして少しの間自制する

See if my heart's still in it

まだ僕の心は惹かれているのか確かめる

Say a few things just to win it

ただ愛を勝ち取るために一言二言伝える

Funny how it works out, innit?

どうしたらうまくいくかなんて考えてるとおかしくなってくるだろ?

 

And I told her,"Some things have their time

How can I be yours if you're not mine?"

そうして僕は彼女に言った

物事にはそれぞれ定められた時間がある

君が僕のものでないのなら、どうしたら僕は君のものになるの?」

She said, "They should take this pain

And give it a name"

彼女は答えた

「それぞれの物事はなるべくして道を辿る

そして名前を授かる」のだと*2

 

Tonight, I wish I was your boy

今宵、僕が君の恋人だったならな

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)*3

I (run away from me, run away from me)

僕は…(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

Tonight, I think I fucked it royally

今宵、後ろめたい思いを抱えたまま身体を交える姿を想像する*4

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

 

Give yourself a new name

新たな名前をつけたらどうかな

Change your voice on the train

電車に乗るときは声色を変えるとか*5

Have her complain about your fame

名声に対する彼女の不満とか*6

Tell me that it's all a rigged game

こんなのは全て仕組まれたゲームだって言ってくれ*7

 

She told me, "Some things just take time

How can you be sure if you won't try?"

彼女は僕に教えてくれた

「物事は何をするにも時間がかかる

どうやってあなたはうまくやれるかどうか確かめるの?*8

She said, "I guess I'll take this pain

Instead of your name"

彼女は言った

「甘んじてこの苦難を受け入れようと思う

あなたの名前をもらう代わりにね」と*9

 

Tonight, I wish I was your boy

今宵、僕が君の恋人だったならな

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

I (run away from me, run away from me)

僕は…(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

Tonight, I think I fucked it royally

今宵、後ろめたい思いを抱えたまま身体を交える姿を想像する

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

 

And it's been replaying on my mind

そしてまた僕の思いは燻る

Unfortunately, I've been to this place in my life

不幸なことに、僕はここを行き場所に選んだ*10

Far too many times

腐るほど考えた結果さ

Sunday's nearly over, so I'll just lie awake

日曜日も終わりゆく、寝てばかりではいられないな

Tonight, I wish I was your boy, I

今宵、僕が君の恋人だったならな、僕は…

Tonight, I think I fucked it royally

今宵、後ろめたい思いを抱えたまま身体を交える姿を想像する

 

And tonight, I wish I was your boy

そして今宵、僕が君の恋人だったならな

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

I (run away from me, run away from me, runnin' away with me)

僕は…(僕のもとから去って、僕のもとから去って、僕と一緒に逃げてしまおう)

Tonight, I think I fucked it royally

今宵、後ろめたい思いを抱えたまま身体を交える姿を想像する

(Run away from me, run away from me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って)

(Run away from me, run away from me, runnin' away with me)

(僕のもとから去って、僕のもとから去って、僕と一緒に逃げてしまおう)

 

Runnin' away with me

僕と一緒に逃げてしまおうよ

Runnin' away with me

一緒に逃げてしまおう

 

解釈

*1:序盤のひと固まりはThe Temptationsの楽曲「Just My Imagination (Running Away with Me)」をサンプリングしたものです。

The Temptationsは1960年代から活動を続けるアメリカのソウル・コーラスグループで、2013年にはグラミー賞特別功労賞生涯業績賞を受賞しています。

「Just My Imagination (Running Away with Me)」は1971年にリリースし全米1位を獲得した彼らの代表曲の1つ。歌詞は女性との架空の関係を想像するといった内容。

 

 

 

 

またサウンド部分では日本のアーティスト佐藤博の楽曲「SAY GOODBYE」もサンプリングされています。こちらも別れを描いた楽曲です。

 

 

 

*2:この1節はなかなか意味が捉えにくいのですが、私は旧約聖書の一文献「コトレトの言葉」の第3章の1節「All things have their time」から引用しているのではないかと考えています。

この「コトレトの言葉」は決定論に基づいた世界観が述べられています。全てのものには天から与えられた時、つまり定められた運命のようなものがあるという考えが述べられているそうです。

ja.wikipedia.org

 

このことから歌詞に目を向けると、「僕」は彼女との関係が終わるということを定められた運命として諦めても、なおこの関係を切りたくはないのだと伝えています。一方で「彼女」は「take this pain(この苦難を受け入れる)」つまり僕との関係を終わりはつらくとも受け入れるつもりであり、天から「別れ」として定められているのだという諦念を伝えているように思えます。

 

少し話題を逸らしますが、「How can I be yours if you're not mine?」という一節はThe 1975の代表曲の1つ「Sex」にも通じる部分があるように感じました。この曲では彼氏持ちの女性との関係が描かれています。男女の立ち位置、という点では異なりますが、相手が自分の恋人でないとしても、自分は彼女にとっての恋人でいたいという矛盾するような願望は共通しているのではないでしょうか。その矛盾が間違っているからこそ、後の一節「Tonight, I wish I fucked it royally」につながるようにも思えます。

 

rinrin0409poke.hatenablog.com

 

 

*3:この一節は先述の「Just My Imagination (Running Away with Me)」の歌詞「Runnin' away with me」と対比させた歌詞でしょうか。まだ別れを受け入れられない、今夜も彼女の恋人でいれたらいいのにと言いながら、「僕のもとから去ってくれ」とコーラスで繰り返すのは、関係の終わりを受け入れられない精神的な不健全さにも言及したような、Mattyらしさ満載の皮肉めいた一節だと感じます。

 

*4:「fucked it royally」は「fucked」を強調したイギリスのスラング表現で、端的にはセックスをするという意味ですが、海外の掲示板を見ると「Royalty(王族、権威)」から罰されてしまいそうなくらい後ろめたい過ち、といったニュアンスもどうやら込めているみたいです。

www.reddit.com

 

*5:ここでの「you」は自分自身ではないかと思います。内なる自分が、いっそ新しい名前を手に入れて、外では声色を変えて生活したらどうかと問いかける。つまり今の自分とは全く別の人間として生きていきたいという欲求を表現しているのではないか。

 

*6:別の人間として生きていきたいのは、彼女との関係が終わった一因に自身の名声があると考えているからです。これは歌詞を書いているMatty自身の体験でもあるのでしょうか。The 1975として名をあげ世界中で活躍することは、そのロックバンドのフロントマンである彼と関係を続ける女性側の難しさや苦悩にもつながるだろうと想像できます。

 

*7:a rigged game」とは出来レース八百長といった意味の表現。先で述べたようにあらゆる出来事があらかじめ定められているのだとすれば、この世の中はまさしく仕組まれた抗いようのないゲームだということになる、とここでは述べていると考えました。

 

*8:まだ関係を諦められない「僕」に対して彼女はこう言っているのではないでしょうか。たしかにもしかしたらうまくいく可能性もある、でもそれは今は分からない。人生は有限であり、特に20代30代の時間は過ぎてしまったら取り戻せない。それならば今関係を終わりにして、お互い別の出会いを探した方がいいのではないかと。

 

*9:「instead of your name」とは相手の名前をもらう代わり、つまり結婚する代わりにということです。彼女は「僕」との恋人関係を終わりにするのは痛みある決断だけど、結婚せずそれを受け入れると伝えています。恋愛と結婚は違う、とはよく耳にしますが、この歌詞における2人は、単純にどちらかの心が離れたから別れるというのとはまた違うのだと伺えます。

 

*10:脚注5で述べたように、内なる自分に「新たな自分として生きること」を提案されていますが、それでも今いる場所、今の生き方を選ぶと返答しています。それが悲しい結果、彼女との別れにつながると分かっていても。

 

Matty自身の経験として話していると仮定するのなら、やはりThe 1975というバンド、そのメンバーやそこで作る音楽・演奏はかけがえのないものだからこそ、この場所を選ぶのだという意思なのでしょう。それは「Guys」の歌詞からも伝わることです。

yamapip.hatenablog.com

 

 

仮定形に関する注釈