音楽紀行(ライブレポ、アルバム感想・レビュー)

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【インタビュー】Puma Blue

Puma BlueことJacob Allenは英ロンドンを拠点に活動し、2014年にSoundCloud上で公開した楽曲'Only Trying 2 Tell You'を始め、2枚のEP'Swum Baby' 'Blood Loss'などをリリースするなど、今多くのリスナーから大注目のアーティストです。

 

来年2021年に待望のデビューアルバム'In Praise Of Shadows'をリリース予定ですが、この度なんと本人のご厚意でインタビューが実現!デビューアルバムの楽曲・制作過程や谷崎潤一郎との関係性など多くのことを語ってくださりました。

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'Tried less hard, let the music speak through me instead, or something. '

 

―このような機会をいただきありがとうございます!

まず初めに、谷崎潤一郎「陰翳礼讃」を知ったきっかけを教えてください。またどういった思いでデビューアルバムのタイトルに同名を引用したのでしょうか?

(※'In Praise Of Shadows'は谷崎潤一郎の随筆「陰翳礼讃」の英名)

 

 

多分初めて彼の作品を読んだのは2016年、いやもしかしたら2015年くらいだったと思う。作品を通じて彼の表現だったり題材、考えに信じられないくらい心惹かれたんだ。

「少ない方が豊かである」*1という考えだったり、暗闇や「空白」こそが美的完成度において重要だという考え方がとても好きなんだけど、彼の作品内容も近しいものがあると感じた。

 

以前は、自分の考え方にとどまらず、楽曲や歌詞を書くときにいかに空間へと焦点を置いた谷崎作品の内容を当てはめていくかという部分で一番影響を受けていたように思う。

だけど今回のアルバムを制作するにあたっては、もう一度「陰翳礼讃」を読み返してみたんだ。それはこの作品について考えているうちに、これまで得た暗い経験を受け入れることでより良い場所へと進んでいく、ということがアルバムで描きたいものなんじゃないかと感じるようになっていったから。暗闇、つまりは「陰翳」を受け入れること、今自分がいる地点の一部として、慈愛をもって受け入れるということ。

  

―デビューアルバムが完成したときの気分はいかがでしたか?

 

とても嬉しかったし、疲れ切ってもいたね。ほっとした。本音を言うと、少しおびえてもいるかも。でも一番はただただ喜びが大きかった。

 

―あなたの書く歌詞はあなた自身の経験と結びついていますよね。以前のインタビューにて、歌詞を書くことは「カタルシス」を感じるものだとおっしゃっていましたが、あなた自身の経験に基づいて歌詞を書くことの良い点や難しい点などはありますか?

 

はっきり言うと、場合によっては危ない面もあると思う。どこかしっくりこないから、特定の誰かについて、あるいは誰かのために歌詞を書こうと思ったことは無いんだ。だから歌詞を書くときはできるだけ詳細を曖昧にして、感情やイメージについて焦点を当てるようにしてる。いつも曲中に出てくる人物は誰か分からないままで、誰について書かれたのかも分からないんだ。

'Velvet Leaves'は例外なんだけど、自分の姉妹について特定の事実が伝わらないように心掛けた。*2

 

―以前のインタビューで新しい歌詞の書き方を模索したいとおっしゃっていましたが、今回のアルバムにおいて楽曲制作上の変化は何かありましたか?

 

それぞれの楽曲で異なる歌詞を書こうと取り組んだんだ。いくつかの楽曲では「意識の流れ*3の手法で自由詩を書いたり、よりじっくりと書いた曲もある。

これまで取り組んだことが無かったものといえば、少なくとも(今回のアルバム収録曲のうち)2曲では、デモ音源の収録時に敢えて意味のない言葉で歌ってみて、その音色をもとに歌詞を書き、そこから意味を見出していったんだ。このやり方のおかげで、前までは埋もれたままになっていた自分の伝えたかったことを見つけることができた。

今回は楽曲を作る上でもより実験的に取り組んだんだけど、でもそれはまた別の機会に話そうかな…。自分自身や他の人々に問いかけてみた部分がこれまでより多かった。無理しようとはせずに、自分自身を通じて音楽が何かしらを語ってくれるように心掛けたんだ。

  

―デビューアルバムを作るにあたってターニングポイントとなった楽曲はありますか?

 

良い質問だね。何年か前から既に作っていた曲、いくつかは2014年以降に書いたものがあって、それが'Is It Because' 'Silk Print' 'Already Falling' だね。これらの曲と新しく書いたいくつかの楽曲をどうやって共存させようか、最初のうちは本当に苦労したんだ。

でも、制作過程でターニングポイントになったのが 'Sheets'だと思う。この曲でようやく喜びや嬉しさについて書けたんだと悟ったんだ。これまでずっと喜びや嬉しさについて書こうともがいていたんだけど、'Sheets'はすんなりと書き上がった。そこで

このアルバムが持つ、これまで気づいていなかった新たな一面を見つけることができたんだ。

 

―よく自身の音楽にJeff Buckleyが影響を与えたとおっしゃっています。音楽やライブでの演奏においてどのような影響を受けたと思っていますか?(私もJeff Buckleyが好きで、'Live at Sin-é'はライブアルバムの最高傑作だと思っています!)

 

'Live at Sin-é'は美しいレコードに違いないね。

最もはっきりしてることは多分歌い方。彼を知るまで、彼のように歌うアーティストを知らなくて、彼の音域の広さや魂のこもったエネルギッシュな歌声が一夜のうちに自分を変えてしまったんだ。15歳の頃から彼の歌声に恋して、自分自身もファルセットで歌うことを恐れなくなった。以前は渋くて厚みのある歌声じゃないことを悲しんだりしたんだけど、(彼の歌声を聴いた後は)もうそんなこともなくなったよ。

そうして成長するにつれて、音楽に関する考え方も大いに影響された。コンサートで自分自身や経験をいかに表現するかという部分でもそうだね。彼は決して(ステージ上で)恐れなかったし、自分自身音楽を通じて勇気だったり不調和を感じ取るのがずっと好きなんだ。彼はキャリアを通じてそうした要素を操るマスターだったと思う。君もきっと同じように爆発的で柔らかな体験を(彼の音楽を通じて)してると思うんだけど、そうした体験がいつも自分を鼓舞してくれる。

  

―あなたは音楽に限らず映画やアニメ、神話などいろんな文化からインスピレーションを得ているように思います。今後の人生で忘れられないような作品はありますか?

 

Björk'Vespertine', Sade'Love Deluxe', Jeff Buckley 'Sketches for My Sweetheart The Drunk '(Disc 2), D'Angelo'Voodoo', Radionheadの直近三作品。

 

'Eternal Sunshine of the Spotless Mind'*4'The Midnight Gospel'*5の最終回, 'Joseph Campbell and The Power Of Myth'*6など。

 

あとはパルマ・デ・マジョルカ*7にあるJoan Miro*8のスタジオ。厳密には場所だから(作品には)数えないかもしれないけど、きっと忘れられない存在なんだ。

 

ああでも正直に言えば、'Star Wars: The Empire Strike Back'だ。自分の信頼を打ち砕いた作品として記憶に一生刻み込まれたままだろうね。

 

 

Puma Blue

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2014年にSoundCloud上で公開した楽曲'Only Trying 2 Tell U'が多くのリスナーから注目を集めると、2017年に'Swum Baby',2018年に'Blood Loss'と2枚のEPを、2019年にはライブアルバム'on his own. (live at Eddie's Attic, Atlanta)'をリリース。

2021年2月5日にデビューアルバム'In Praise Of Shadows'をリリース予定。(link to pre-save/ pre-order: http://ffm.to/pb-presave)

 

(記事の英訳版はこちら)

 

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*1:「less is more(少ない方が豊かである)」はドイツ出身の建築家Mies van der Roheの遺した言葉であり、無駄をそぎ落としシンプルさや機能性を求めることで美しさを実現させる、という建築理念。転じて様々なデザイン分野、あるいはミニマルライフ等でも用いられるようになった。

*2:'Velvet Leaves'はJacob Allenが実際に体験した自身の姉妹に関する出来事を元にした内容となっている。

*3:元々は心理学の概念であり、常に変わりゆく精神上の主観的思考・感覚を、注釈なしに記述していく、という文学上の手法を表す用語としても用いられる。

*4:エターナル・サンシャイン’は2004年に公開された映画

*5:'ミッドナイト・ゴスペル'は2020年にNetflixで配信されたアニメーション作品。

*6:アメリカの神話学者ジョゼフ・キャンベルが1988年に出した著書。

*7:スペイン・バレアレス諸島州基礎自治体であり、マジョルカ島南西部の都市。

*8:ジョアン・ミロは20世紀のスペインの画家。日本の美術館にも作品が収蔵されている。