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Wolf Alice 「The Last Man On Earth」歌詞和訳・解釈

イギリスのロックバンドWolf Aliceが4年ぶりとなる待望の3rdアルバム「Blue Weekend」を6月11日にリリース決定、そして先行シングルとして「The Last Man On Earth」をリリースしました。

アルバム自体「The Beach」という楽曲で始まり「The Beach II」という楽曲で締める構成からコンセプトアルバムではないかと期待しており、そこからの先行シングルもタイトルからもう既に物語を予感せずにはいられません。展開の多いメロディがとても印象的な楽曲ですが、歌詞においてはどのような内容が描かれているか読み解いていきます。

 

和訳だけ読みたい方もいらっしゃると思いますので、脚注は下段にまとめております。気になる方はそちらもご一読くださると、より楽しめると思います。

 

'The Last Man On Earth'

Written by Joff Oddie, Joel Amey, Theo Ellis & Ellie Rowsell

 

Who were you to ask for anything more?

誰に何かしらを請うつもりだったの?

Do you wait for your dancing lessons to be sent from God?

神様の授けるダンスレッスンを待っているの?

*1

 

You'd like his light to shine on you

あなたは神様の御威光が自身に降り注ぐのを望んでいる

You've really missed a trick when it comes to love

あなたは愛情を手にするチャンスをまさしく逃したんだ*2

Always seeking what you don't have, like what you do ain't enough

いつもあなたが持っていないものを探し求めてる、例えばあなたがろくに持ち合わせてないものとか

You'd like a light to shine on you

あなたは自身に降り注ぐ光を求めているんだ

 

And every book you take

そうしてあなたはすべての本を取り出して

And you dust off from the shelf

棚からほこりを払う

Has lines between lines between lines

行間をどこまでも読み解いていって

That you read about yourself

あなた自身をそこに見出す*3

 

But does a light shine on you?

でもそうしてあなたに光は降り注いだ?

And when your friends are talking

友達が話しかけても

You hardly hear a word

あなたに言葉は届かない*4

You were the first person here

あなたはここにいる最初の人類であり、

And the last man on the Earth

そして地球最後の男

But does a light shine on you?

でもそうしてあなたに光は降り注いだ?

 

Who are you to ask for anything else?

誰に何かしらを請うつもりだったの?

The thing you should be asking is for help

あなたが求めるべきだったのは助けとなるものだよ

You'd like a light to shine on you

でもあなたは自身に降り注ぐ光を求めているんだ

 

Let it shine on you

あなたに光あれ

Let it shine on you

あなたに光あれ

 

A penny for your truth

あなたが真実を言っているかは疑わしい*5

But I hedge my bets on love

だから愛情にも両賭けするよ*6

'Cause it's lies after lies after lies

だって嘘が積み重ねられているから

But do you even for yourself

あなた自身にさえ嘘をつくように

 

And then the light shines on you

そうして光はあなたに降り注ぐ

And when your friends are talking

友達が話しかけても

You hardly hear a word

あなたに言葉は届かない

You were the first person here

あなたはここにいる最初の人類

And the last man on the Earth

そして地球最後の男*7

But the light

けれど光は

 

*1:

アメリカの小説家Kurt Vonnegutが1963年に書いた代表作「Cat's Cradle(猫のゆりかご)」には"Peculiar travel suggestions are dancing lessons from God"(=「おかしな旅の誘いは神様の授けるダンスレッスンだ」)という一節がある。ボーカルのEllie Rowsellはこの一節をメモしたものの、「おかしな旅の誘いは神の授けるダンスレッスンじゃなくてただの旅の誘いだよ!どうして何事も(元来持つ意味以上の)他の意味なんかが求められるの?」と思ったとのこと。

*2:

'miss a trick'で「好機を逃す」という表現。

*3:

今まさにこの記事のなかで私が試みていることも、この歌詞の行間を読んで可能な限り読み解いていくことだ。そうして日々いろんな歌を聴いたときにふと気になるフレーズを耳にして、「ここの歌詞、自分のこと言ってるみたいだ。」なんて感じたことがないでしょうか。

ここでの「あなた」は、棚にあった本(神様にまつわる表現が多いことから、ここでは聖書や教典、あるいは神話についての文献だろうか)を片っ端から読み漁り、そこに自分自身のおかれている状況についての記述がないかを探している。

それでは今置かれている状況とは何なのでしょうか?

*4:

本を読むのに傾倒する「あなた」はいつしか他者の言葉に耳を傾けることをやめてしまった。

Ellie Rowsellはこの楽曲について「人間の傲慢さについての曲」だと語っています。それでは「あなた」のこの姿こそがここでは「人間の傲慢さ」のモチーフということでしょう。

*5:

'penny'とはイギリスの通貨単位のことで100分の1ポンド(=1ペンス)ほどの価値です。つまりはとても些細な金額。それくらいしか賭けられない=信じられないという表現だと思います。

少し似た表現で'a penny for your thoughts'というものがあり、こちらは「何を考えてるの?」と尋ねるフレーズです。もちろん実際に払うわけではありませんが、ちょっとした呼びかけとして1ペンスという額がちょうどしっくりきます。

*6:

'hedge my bets on'は「~に(保険をかけて)両掛けする」という表現です。なにか1つに全賭けしても勝てる保証がないので、一応別の対象にも賭けておくこと。例えばトランプゲームならスペードとハートに両賭けする。

ここでは「あなた」の言動や考え、自分が見えたり感じたりできる部分がどれほど真実なのか疑わしい。だから「愛情」にも両賭けしておくよということですね。

 

一見、この後にも続くように「あなた」は嘘まみれだから信じられない、と突き放しているようにも思えますが、私はこの一節がとてもロマンティックで、なおかつこの楽曲の歌詞における根幹のメッセージのように感じました。

ここまで述べてきた通り、「あなた」は自分にないものを求め、神からの祝福を願い、「本」あるいは「文章」という揺るがないものの中にその答えを探そうと考えています。文章は一度文字として書かれれば、(解釈はともかくとして)存在自体は不変のもの。だからこそきっと「あなた」はそこに依存しているわけですね。逆に友達の言葉というものはその都度かけられるものであり、ある意味で刹那的だったりします。

 

一方で、「私」は「あなた」を信じようとする。仮に「あなた」が偽りばかりだったとしても、「私」あるいは「あなた」の抱く愛情を信じると言っています。

対照的な姿ですが、真実性や愛情といった不確かなものを信じる、というのは確実性が尊ばれる昨今では滅多にみられないかもしれない、とてもロマンティックで人間臭く、愛情深い考え方だと感じます。

*7:

そうして誰の言葉も気に掛けなくなった「あなた」は、他者とのつながりのない、たったひとりこの地球に取り残された男となってしまった、というオチでした。「あなた」以外は地球から脱出してしまったのでしょうか?

ここでようやくこのお話の全貌が明かされます。

きっと何らかの理由から地球は滅亡の危機に面していた。ノアの方舟よろしく宇宙へ脱出することで助かる目途が立つが、「あなた」は神の救いがきっとあると頑なに逃げようとしなかった。教典や神話の本等いろんな文献を読み漁り、どこかにその確証がないかと探す「あなた」は、友達や「私」からの説得にも耳を傾けず、最後には一人地球に残った。そんな「あなた」に果たして救いの光は降り注いだのでしょうか?

 

この曲のテーマ「人間の傲慢さ」とは「あなた」のことであり、つまりは他者からの言葉であったり信頼や愛情を信じないまま、ときに自分を偽ってまで自分の中にあるもの(ここでは神への信仰でしょうか)のみに執着・依存し、最後には破滅してしまう姿にあったのです。とても寓話的かつシニカルですが、どこか現代の私たちの生き方や考え方にも繋がっているような気がします。

 

余談ですが冒頭で紹介した「猫のゆりかご」の内容は、科学や宗教、国家などをシニカルな語り口で風刺しており、物語の結末は地球上の生命が息絶えるというものでした。

ja.wikipedia.org

 

 

参考記事

www.nme.com

 

BLUE WEEKEND [12 inch Analog]

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  • アーティスト:WOLF ALICE
  • 発売日: 2021/06/11
  • メディア: LP Record