The 1975「Part of the Band」歌詞和訳・解釈
2022年のサマソニのヘッドライナー出演からライブ活動を再開するThe 1975ですが、
10/14に5作目のアルバム「Being Funny In A Foreign Language」をリリースすることを発表、併せてアルバムからの先行シングルとして「Part of the Band」をリリースしました。
Taylor SwiftやLana Del Reyなど多くのアーティストの楽曲を手掛けるJack Antonoffのプロデューサーとしての参加や、コーラスとしてMichelle Zauner(Japanese Breakfast)も参加するなど、本楽曲はこれまでに無かったような曲調も印象的ですが、歌詞においては自身の経験や世の中の出来事など、多くの描写を交えながら人生・生き方について語られています。
和訳だけ読みたい方も多いかと思うので、註釈については下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただくとより楽しめると思います。
(※歌詞は上記動画概要欄より引用)
Part of the Band / The 1975
Written By
George Daniel, Jamie Squire, Matthew Healy
She was part of the Air Force, I was part of the band
彼女は空軍の一員*1で、僕はバンドの一員だった
I always used to bust into her hand
いつも彼女の手でイってしまうんだ
In my imagination
これは僕の想像のお話
I was living my best life
Living with my parents
両親との生活は最高の日々だった
Way before the paying penance and verbal propellants
何にでも口出しするのを悔い改める*2よりもずっと前のことだ
And my cancellations
ああ、自分自身があの日々をみすみすダメにしたのさ
And I fell in love with a boy, it was kinda lame
そうして僕は少年に恋をしたんだ、まあ大層なものじゃないよ
I was Rimbaud and he was Paul Verlaine
さしずめ僕がRimbaudで、彼がPaul Verlaineといったところかな*3
In my imagination
これは僕の想像のお話
So many cringes in the heroin binges,
そうして、何度となくヘロインにふけってどうしようもないことになってた
I was coming off the hinges,
大事なものを失いながら、
Living on the fringes of my imaginations
想像にすがって生きていたんだ*4
Enough about me now
僕の話はこれくらいで充分だよね
‘You gotta talk about the people baby’
「世間のことについて話さなくちゃいけないだろ、坊や」*5
Now I’m at home - somewhere I don’t like
今はウチにいるけど、あまりしっくりこない場所さ
Eating stuff off of motorbikes
なにかがバイクを腐食してる
Coming to her lookalikes
なんだか元カノとそっくりだ*6
I can't get the language right
あまり語彙力があるほうじゃないから
Just tell me what's unladylike
とりあえず「女性らしくない」って何なのか教えてよ
I know some ‘Vaccinista tote bag chic baristas’
トートバッグを持ったあの上品なバリスタも積極的にワクチンを広めてた*7
sitting in east on their communista keisters
writing about their ejaculations
そんな人たちでも東の共産主義者の尻に座って、射精したことについて書き連ねているんだ*8
"I like my men like I like my coffee
Full of soy milk and so sweet, it won't offend anybody"
Whilst staining the pages of The Nation, oh, yeah
「僕は仲間のことが好きだよ、コーヒーを飲むのが好きなみたいにね
豆乳たっぷりだととても甘ったるい、これが嫌いな奴なんていないだろ?*9」
そんなこと言ってたら「The Nation」*10のページに染みをつけちゃったよ
A Xanax and a Newport
XanaxやNewport*11
‘I take care of my kids’ she said
「私は子供たちが心配なの」って彼女は言うんだ
The worst inside of us begets that feeling on the internet
僕らの内に秘めている最悪のものがネット上で人々の感情をかき乱すんだ
It’s like someone intended it
まるで誰かが意図したかのように
A diamond in the rough begets the diamond with a scruff you get
ダイヤの原石から、あなたの首筋で輝くダイヤが生まれるみたいだね
Am I ironically woke? The butt of my joke?
皮肉なことに僕は単なる「意識高い系」*12のやつ? 誰かの笑いもの?
Or am I just some post-coke, average, skinny bloke
calling his ego imagination?
それとも自分の自意識を想像力だなんて呼んでる、
元コカイン中毒者か、凡人か、それともただの瘦せっぽち*13か何かなんだろうか
I’ve not picked up that in 1,400 days and 9 hours and 16 minutes babe
- it’s kind of my daily iteration
決してこの1400日と9時間と16分のうち、どこかを切り取って見せてるわけじゃないんだ
全てはこれまでの日々の積み重ねなんだ*14
*1:イギリスの軍隊における女性の割合はどの程度なのかと少し気になり、調べてみると以下では約11%と紹介されていた。
UK armed forces biannual diversity statistics: 1 April 2021 - GOV.UK
*2:"pay penance"は改心する、罪滅ぼしをするの意らしく、その対象というのが"verbal propellants"となるわけですが、直訳すると「言葉の推進燃料剤」といったところで、そこから爆発的に言葉を発する=何にでも口を出す、と解釈しました。
*3:Paul Verlaine(ポール・ヴェルレーヌ)とArthur Rimbaud(アルトゥール・ランボー)は、共に19世紀末のフランスを代表する詩人です。
詳しくはリンク先ページをご参照いただきたいが、2人のエピソードはとにかく波乱万丈。
ヴェルレーヌが年下であるランボーの才能や美貌に魅了されたことをきっかけに恋愛関係となり、ヴェルレーヌは既にあった家庭を捨ててまでランボーと各地を放浪。しかし最後には別れ話の末、ランボーを拳銃で撃ち負傷させ、ヴェルレーヌは監獄へ収監されるという何とも劇的なエピソードではないか。
ちなみに2人の物語をもとに1968年にはイギリスの劇作家であるChristopher Hamptonによる戯曲・小説「太陽と月に背いて」が発表、1995年にはレオナルドディカプリオ主演で映画化されています。
*4:現実の暮らしや社会から距離をとって、描写されてきた様々な想像上の世界に寄り添って生きている。とあるが、歌詞の中のどこからどこまでが想像上の話なのか、それとも本当は想像の話だと冗談めかしているものの実際の経験なのではないかはっきりしないようにも感じる。例えば冒頭の"I was part of the band"の箇所だと、実際にMatthew HealyはThe 1975のメンバーであるように事実である。
(個人的にはほとんどの部分がその実、現実の話なのではないかと思っている。)
*5:直近のインタビューで、Matthew HealyはSNSにおける情報発信について語っています。
SNSは著名人やアーティストなど気軽に発信ができる一方、著名人に対しては世の中の出来事について常に意見を発するべきだという、一種のプレッシャーのようなものもおそらく年々大きくなっているのではないでしょうか。
ここでの‘You gotta talk about the people baby’は、そうした世間からのアーティストに対する声を指しているのではないかと思えます。
*6:"eat something off (of) something"で、何かが何か(金属など)を腐食するという表現があるようで、また"lookalikes"は「そっくりさん」の意ですが、元カレ・元カノのそっくりさんという使われ方もするようです。
ここではバイク(の金属部分)が腐食している様子を、元カノの姿と重ねているように感じました。それは元カノを悪く言うための表現ではなく、むしろ何かがバイクを腐食しているように、元カノも外的な要因に蝕まれていたということを言っているのではないでしょうか。そしてその外的要因とは、この後に続く歌詞"Just tell me what's unladylike"を踏まえると「女性らしい」「女性らしくない」といった考え方なのではないかと私は思いました。
*7:"Vaccinista"という単語はおそらくここ1,2年で生まれたか、少なくとも多用され始めたものであり、あまり辞書等にも載っていなかったのですが、海外のサイトを参照すると、どうやらSNSなどで自身のワクチン接種体験をシェアするなど、積極的にワクチン接種を呼びかける人を指すようです。
*8:イギリスからみて東の共産主義者とはやはりロシアを指すのかなと想像しますが、ここでは共産主義を信奉しながら自己満足の文章を書いている、という意なのかと受け取りました。
この歌詞がどの時期に書かれたのか窺い知ることはできませんが(少なくとも去年~今年にかけてではないかと想像はできる)、昨今の情勢を連想するようなリスナーも少なからずいるのではないでしょうか。
自身の解釈とは異なりますが、
この箇所の解釈について情勢と絡めた解釈を述べていらっしゃる記事がありましたので紹介します。
よければこちらも。
Part Of The Band(The 1975)和訳|M(就活・趣味)|note
*9:"soy boy"とは、「男らしくない、女々しい男性」を意味するスラングであり、ふるまいや思想などを揶揄する用途で話されるものらしい。
Soy Boy(ソイ・ボーイ)の意味・用法・例文-英語ネットスラング辞典
"soy"も「女々しい、根性なし」という意味合いで用いられるものであり、
ここでの描写は、こうしたスラングを念頭に置いた表現でもあるかもしれないです。
*10:「The Nation」とは南北戦争直後の1865年に創刊されたアメリカの週刊誌である。かなり歴史の長い雑誌であり、現在どのような内容の記事を扱っているか詳しくは無いのですが、歴史的には左翼寄りな雑誌として知られているようです。
前述の"soy boy"はネットの右翼層がリベラル層の男性を揶揄する際には多用されるらしく、ここでは両者の描写を併せて捉えるとよさそうです。
*11:"Xanax"とは抗不安剤として処方されるものですが、近年過剰摂取が大きな問題となっております。
医療関連の専門知識が無く、こうした薬物への日本あるいは海外における法規制等については省きますが、Billie Eilishがこうした問題を背景とした"Xanny"という楽曲をリリースするなど、音楽界、あるいは海外のティーン世代においてもかなり身近な問題であるようです。
"Newport"はアメリカのメンソールタバコとして人気の銘柄だそう。
しかしまさしく今年の4月にアメリカでは、アメリカ食品医薬品局(FDA)がメンソールたばこの国内販売を禁止する方針を決定するなど、こちらも現在進行形で問題となっているそう。
こうしてこの後に続く歌詞"‘I take care of my kids’ she said"につながるのでしょう。
*12:"woke"とは「社会での出来事に対して認識を持っている」ことを表すスラングであるが、一方で日本においては所謂「意識高い系」みたいに(もっとニュアンス強めかも)罵り言葉としても用いられるそう。
ここでは、"ironically"が前についているため、後者の意味合いで捉えております。
*13:"skinny"=痩せこけた、"bloke"はイギリスのスラングで"guy"などのように「男性」といった意である。
Matthew Healyはミーム(海外でいう画像ネタみたいなもの)が好きで、よくInstagramのスト―リーに投稿しているのですが、有名なミームのなかに"skinny guy"と呼ばれる痩せた男性が題材となったものがあるそうなので、もしかしたらそれらを念頭に置いた歌詞なのかもしれません。
*14:1400日はだいたい4年くらい。2018年のThe 1975というと、彼らにとっての転機作であり多くの音楽ファンが虜になった3rdアルバム「A Brief Inquiry Into Online Relationships」をリリースしている。
収録曲"Love It If You Made It"など社会における題材についても多く扱った作品であったが、ここではアーティストとしての活動(例えば楽曲リリースやライブ、インタビューやSNSでの発信など)でのみ世の中の出来事に触れている(=パフォーマンス)のではなく、日々の暮らしの中でもそうした出来事というのは身近にあるものであり、また身近にあるものだからこそ常に目を向けているということを言っているのではないでしょうか。
Matthew Healyは直近のインタビューにてSNSにおける発信について語っており、以前のインタビューでも社会的な出来事について扱ったり発信したりすることについての考えを丁寧に語っており、個人的にはこの部分の歌詞にあるように自虐的・皮肉的な視点を持ちつつ真摯に自身の振舞い方について考えている印象が彼に対してあります。