音楽紀行(ライブレポ、アルバム感想・レビュー)

ライブに行ったレポートやアルバムの感想・レビュー。好きな音楽を見つけるツールにも

この街に立つ

Homecomings × 京都新聞
2018寒梅館コンサート「Our Town, Our News」

 先日ニューアルバムを出したばかりのHomecomingsによる、京都にある同志社大学キャンパス内「寒梅館」でのホールコンサート。くるり岸田繁さんをゲストに迎えたこのコンサートはとても素晴らしく、バンドにとってのターニングポイントの1つになったといって差し支えないはず。

Topic 1 バンドによる「大きな一歩」

 詳しくは別記事で触れるが、Homecomingsによりリリースされた最新アルバム「WHALE LIVING」はバンドにとって大きな変化をもたらす作品だ。これまで全曲英詞だったが、今作ではインスト曲2曲と「Songbirds」を除くすべての曲が「日本語」で歌われている。またピアノやストリングスをしっかり導入した曲もあり、まさに「大きな一歩」となったアルバムなのだ。

 

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 今回は、バンドにストリングス奏者4人が加わるスペシャルな構成で一部演奏され、今作で彼女らが「どんな音楽を作り出したかったのか」を確かめることのできるコンサートになった。

Topic 2 ホールが似合う音楽

 スペシャルゲストとして「大好きなHomecomingsの晴れ舞台を飾れて嬉しい。」と言って前座に登場したのはくるり岸田さん。アコギ弾き語りで歌心溢れる演奏を聴かせてくれた。今年リリースのグッドチューン「ソングライン」や、会場の大学生スタッフとの開演前のやりとりを紹介したのち「彼に弾くと約束したから。」といって披露された「東京」など、「これだけで元取れるんじゃ…。」というパフォーマンス。曲間での気が抜けるようなMCも相まって、観客の笑顔が会場中に広がっていました。そんなちょうどよく温まった会場には、いよいよ今日の主役が。

 Homecomingsの音楽はとてもホールが似合う。それは彼女らの音楽が聴き手にとってとても身近なものに感じられるからだ。ささいな日常を通じて、ひとりひとりが持ち得る「寂しさ」を丁寧に描き、優しく背中をさすってくれる。そんな彼女らの音楽にスタジアムは広すぎるし、ライブハウスは熱がこもりすぎる。ホールでゆったり座席に座り、思い思いに耳を傾けてこそ、もっとも深くじんわりと響くのではないか。

Point 1 日本語であること

 ステージに登場したHomecomings、京都新聞とのタイアップでバンドが初めて日本語詞で発表した「アワー・タウン」でスタートすると、「WHALE LIVING」内でも中核を成す「Hull Down」「Smoke」「Blue Hour」を次々に披露する。こうやって実際耳 にすると歌詞がすごく耳に入ってきやすい。バンドの原点ともいえるギターポップにのせてボーカル畳野さんの歌声がゆらりと耳に届く。日本語詞が英詞と異なるところの1つは、歌詞の意味合いが聴き手に直接的に伝わるところであるが、彼女は日本語であることを意識し、歌い方に調整しているようだ。そして各メンバーによるコーラスもまた良い。観客が身体を左右に揺らし楽しそうに聴いていた姿が印象的だった。

Point 2 アレンジが広がった結果

 そしていよいよストリングス隊が加わったところで、まず披露されたのはストリングスをアレンジに取り入れ始める「出発点」ともいうべき曲「PLAY YARD SYMPHONY」

続いて今回のアルバムの方向性を決めた曲「Songbirds」が、アルバム音源とは異なるこの日限りのストリングスアレンジで披露された。ストリングスが上乗せされることで、優しい彼女らの音楽が本質を変えぬまま、ほんの少しその外延を広げたように感じた。これはすごい、これからのバンドの無限の可能性を感じさせる演奏に心のわくわくが止めらなかった。

 本編ラストに披露された「Whale Living」は、この日一番のハイライト。畳野さんがピアノを、リードギター福富さんがアコギを担当し演奏されたこの楽曲は、とてつもなく暖かかくて、優しかった。楽器の音色に歌声がそっと乗せられ、コーラスとストリングスが全体を包み込んで、一体となる演奏。初めてこの曲がいかに優しく暖かく響くのか、その楽曲の真髄を堪能できた。

 

 アンコールでは既に酒を飲み、できあがった状態で再び登場した岸田さんと、畳野さんによる「男の子と女の子」で再びあったかい気分になったまま終わったコンサート。

 

 メンバーはインタビューで「京都を背負うバンドになるつもりはない。」と言っていたが、それでもHomecomingsの音楽が生まれたほかでもないここ京都で、素敵な演奏を聴けて僕は幸せ者だなと感じた。僕自身この街が出身地でないにしても、今住む街=「アワータウン」であり、この街に過ごして生み出された音楽を、その街で聴けることってなかなかないのだから。

 

 ここまで記事を読んでいただいた方、少しでも興味が湧いたならばぜひHomecomingsのライブを見に行ってほしい。素敵な時間が過ごせると保証します。

 

 そして、またいつかストリングス隊を加えたライブを聴いてみたい。きっとまたその暖かさに、楽曲から感じた寂しさとほんの小さな幸せを抱き締めたくなるんだろうな。

 

セットリスト

(OA)岸田繁(From くるり

  1. 鹿児島おはら節
  2. キャメル
  3. 琥珀色の街、上海蟹の朝
  4. The Veranda
  5. Ring! Ring! Ring!
  6. ソングライン
  7. ブレーメン
  8. 東京

Homecomings

  1. アワー・タウン
  2. Don't Worry Boy
  3. Hull Down
  4. Smoke
  5. Blue Hour
  6. PLAY YARD SYMPHONY
  7. Songbirds
  8. Whale Living

(アンコール)岸田繁×畳野彩加

  1. 男の子と女の子

 

WHALE LIVING

WHALE LIVING

 

 

 

 

 

 

深呼吸

「WHALE LIVING」/Homecomings

 人が呼吸して取り込んだ空気中の酸素は、肺で血液中に溶け込み全身に運ばれていくそうです。無意識に取り込まれる酸素が身体中を巡りめぐって生命の源になる、なんだか不思議で神秘的だなあなんて思うわけです。

 Homecomingsの音楽も、意識せず聴き手の全身にじんわり浸透していく。優しく励まされ、知らず知らず自分の原動力になる。そんな感覚がありました。このアルバムを聴くのは、あたかも深呼吸するようなものなのです。

Topic 1 日本語の歌詞

 私は好きな日本のアーティストにはなるべく日本語で歌って欲しいと思っています。たしかに英語は言葉の性質上メロディに乗せやすいし、「Hello」と「こんにちは」なら前者の方がなんとなくかっこよく聴こえるんですが。

でもアーティストが苦労して日本語をメロディに乗せることで、自分の母国語が活き活きと響くのを聴くのは気持ちがいい。

 Homecomingsはこれまで英詞で歌っていたのですが、私は彼女たちのアコースティックライブを見に行き、楽曲のメロディの良さに触れて以来「この素敵なメロディに日本語が乗ったならばどんな化学反応が起きるんだろうか。」と期待せずにはいられませんでした。例えるならスピッツなどのように、音が言葉に瑞々しさを宿す、魔法のような瞬間にいつか立ち会えるんじゃないかとずっと思っていました。

 作詞を担当する福富さん(Gt.)によれば、日本語でやりたいと考えていた部分もあるが、なによりこれまで同様やりたい音楽をバンドでやるために、「変わらない」ために「変わった」とのこと。そして生まれた音楽にはたしかに魔法がかかっていました。

Topic 2 自然体

 日本語詞はいずれの楽曲にも違和感なく乗っかっているのですが、それだけじゃなく楽器の演奏から端々のアレンジに至るまで良い意味でひっかかりなく、滑らかに流れていくところが印象的でした。「さて聴こうかな。」と1曲目「Lighthouse Melodies」を再生して、ふと気づくとラストの「Songbirds」になっている。1曲1曲を堪能しながらも、区切りないひとつの映画を見ているような感覚です。後述の通りコンセプトアルバムである今作は、そういう点もあり1つのアルバムとしてのまとまりを強く持っているように感じました。

Point 1 出発点

 曲順をすっ飛ばし、本作ラストの曲「Songbirds」から先に触れずしてこのアルバムは語れません。映画「リズと青い鳥」の主題歌にもなった曲だが、今作の方向性を決める大きな1曲だったそうです。

 数多くのライブをこなし「PLAY YARD SYMPHONY」など収録のEP「SYMPHONY」を昨年リリースしたりと順風満帆のようにも見えたバンドだが、インタビューを聞くとかなり危機的な状況だった様です。多忙な音楽制作の中疲弊し行き先に迷ってしまったバンドでしたが、京都新聞のタイアップやチャットモンチ―のトリビュートアルバム参加など、そして「リズと青い鳥」の主題歌担当が決まり、状況を打破する要因となります。

 こうして生まれたのが、これまでの集大成といえる「Songbirds 」です。バンドの原点に立ち返ったミディアムテンポのギターポップ。そして映画のテーマともリンクする「人と人との距離」を描いた歌詞は、身近な視点から人の寂しさと小さな幸福を描くバンドらしいものに。「Homecomingsってどういうバンドなの?」と聴かれたら、僕はまずこの曲を紹介します。

Topic 2 「距離」というコンセプト

 本作は、温度感の揃えられた各楽曲に一貫したテーマを描いた歌詞が乗った、統一感あるコンセプトアルバムです。

 歌詞に着眼すると、「Songbirds」で描かれた「人と人との距離」というテーマ、大切な相手だからこそ平行線のように交わることなく、それでも近づいたり離れたりする。ここから着想を得て描かれるのが、架空の男女の物語です。

 各楽曲の歌詞によく出てくるキーワードは「窓」「手紙」といった言葉。離れた距離にいる2人は、窓辺で空を見上げながら相手を思う。「Hull Down」にて、日常の様々なひと時を描写しつつ、

さあ手紙を書かなきゃ 少し照れるな

と歌われる。

「Parks」では、新しい街で生活する「僕」が洗濯したり料理したりして過ごす日々、時には相手との距離に寂しさが増すこともあるけど

でも 可愛い風向き 綿毛が舞い込めば!

とても小さな 幸せをくべて 灯が消えないように

と歌われる。おそらく「綿毛」=相手からの手紙なんだろうなと思います。手紙が届いてそれを読む時間こそ2人の距離が近づく瞬間であり、その幸福という灯が消えぬようにまた手紙を返すのでしょう。

しかし「So Far」で描かれるのは、2人の距離がそれ以上に離れてしまったこと。

そこが君に合っているなら 日々はそれで回るから

はなればなれの 時を嘆くなよ

と「君」との遠い遠い別離が描かれる。しんとした空の描写を交えつつ

返事を書くよ 読まなくていいけど

と言ったり

届くといいけれど

と言ったりしているのは、もはや相手に、出した手紙は届かず読まれることはないという諦めのような意味合いを持っているのでしょう。

君に輪っかが 浮かんだんだ

僕にはないからさ

とは、「君」がもうこの世にはいないということなのでしょうか。

 こうした物語を総括するのが「Whale Living」という曲。

ずっと前に閉じたままの 宛名のない手紙は

きっと相手に届かないことが分かっているからこそ、部屋の「小さな家具」その引出しにでもしまって秘めているのでしょう。けれど

便箋に書かれた文字に ランプが灯る

冒頭の曲「Lighthouse Melodies」にて語られる

灯台の明かりが岬を指すころ

くじらのすみかには

手紙が届く

人知れず手紙に込めた思いが、くじらのすみかである「海の底」へと届く。そして

海の底

どこかであの手紙がふいに届くように

どこにいるかもわからない「君」へ、平行線のように交わることのない相手にも、海の底を介して届くといいなと歌われているのです。

 

 紹介した歌詞は一部分で、私の解釈も足りない分が多いですが、詩的な描写も多く聴き手に解釈を委ねつつ、ここまで統一感のある「物語」を音楽の中に宿したのは見事だと思います。

Topic 3 深まったバンドの持ち味

 こうした素晴らしい歌詞をのせた各楽曲は、その温度感を保ったまま、より広がったバンドの表現力をもって伝えられています。

 「Lighthouse Melodies」は波の音も含めて、静かな映像が思い浮かぶ「物語」の導入。壮大すぎずさりげない室内楽的なストリングスも情景を引き立てます。

 「Smoke」は、先述の通り「Songbirds」から着想を得た本作の、音楽面での方向性を決めた1曲。アルペジオや単音弾きのエレキギターの音色は優しく少し儚なげ。注目すべきは畳野さん(Vo.)の歌声です。これまでは歌のキーをときおり上げて抑揚から感情に訴えかける歌も多かったですが、本作ではこの曲をはじめなるべくキーが一定に抑えられています。日本語詞に変わったことを意識しつつ楽曲の温度感に寄り添い、一方でボーカルとしての個性をいかに残すか、そのバランスに苦心したに違いない。

 ネオアコ的テイストにコーラスが上手く絡んでいるのが気持ちいい「Hull Down」や、アコギでのシンプルな弾き語りが新鮮な「So Far」もさることながら、本作におけるバンドとしての完成形といえるのが「Blue Hour」でしょう。この曲は本作の温度感に一番ぴったり合った曲で、寂しさが歌詞からも音からも伝わってきて沁みます。決して派手でなく平坦にも思えるこのバンドの楽曲が、それでも琴線を激しく揺らすのはなぜでしょうか。きっとメンバー4人が揃って伝えたいことを楽曲にぴったりと落とし込めているからではないかと思うのです。奇跡のような4分58秒。

 「Whale Living」は本作の総括である曲だが、アレンジによってとんでもない名曲になっています。ピアノとストリングスの音色がドラマティックで、とにかくずるい。畳野さんの優しい歌声がもっとも響く舞台が作り上げられていて、思わずじっと、じっと目を閉じたまま聴き入ってしまう。そして、この素晴らしい傑作を祝うエンドロールのように「Songbirds」でアルバムは締められるのです。

 

 Homecomingsが持つ魅力、特に今作での魅力は、誰もが持ち得る日常の中の寂しさをフォーカスし、そこからそっとほんの小さな希望をすくい上げてくれるような音楽性にあると思います。 彼女らの音楽の、眩しすぎない輝きに魅了されるのです。

 

WHALE LIVING

WHALE LIVING

 

 

 

 

 

Mr.Children19thアルバム「重力と呼吸」全曲レビュー

 「無意識」

 Mr.Childrenはデビューして20年以上、日本の音楽界の第一線で成功を重ねている。しかし僕は、彼らほど実直で臆病なバンドはいないのではないかと思う。

ヒットソングを量産していても、リスナーの反応を気にするし、堂々と他のアーティストを羨み嫉妬したり、音楽界での立ち位置をいまだに意識したりしているからだ。

 

そんな彼らが泥臭くひたむきに、それでいて自分達のやりたいように作ったアルバムが「重力と呼吸」だ。賛否両論出るのも仕方ない、なぜならこれまでのアルバムとはベクトルが大きく異なるものだからだ。

 

今作は全編通じ、バンドサウンドに重心が置かれている。より肉体的・衝動的なバンド性によってリスナーに訴える作品だ。

桜井和寿のボーカルを中心に添えて、それをいかに彩っていくかというのがこれまでのやり方。しかし本作では、ボーカルとバンドの音を分けずに1つのものとして楽曲の「骨格」に据えている。ドラムがえらく重く鋭い音を響かせてるし、それに引っ張られるようにギターの音はどんどん前に出てくるし、ベースがこれだけ骨太な音を出してるの初めてじゃないか。

 

歌詞の内容も、そうした楽曲の構成にリンクしてこれまでと少し違う。

これまでの楽曲は1番、2番と進むにつれ徐々にストリングスなどが加わり、壮大になっていくアレンジが多く、それに合わせて歌詞も、身の回りのことを言った後で大きな視点に移ってより壮大なテーマを描いたり、今ある絶望を提示した上で希望を強調して見せたりする内容が多かった。

しかし本作は、シンプルなバンドサウンドを「骨格」としたままずっと進行するため、歌詞もフラットな視点のまま、言い換えると温度の高低差を演出することなく平温のままリアルな世界が描かれているように感じる。

 

前置きが長くなったが、全10曲、骨太でいて、さらりと流れる不思議なこのアルバムについて、全曲感想です。

 

1.Your Song

なぜこの曲をアルバムに先駆けて公開したのか、アルバム通して聴いた今なら分かる。

この曲は今作がどういう歌を歌っているのかを示しているからだ。

君と僕が重ねてきた

歩んできた たくさんの日々は

今となれば

この命よりも

失い難い宝物

という歌詞、2番以降で歌っているように「たくさんの日々」には良いことも悪いことも含まれるんだろう。

これまでなら対比させていた絶望と希望を、まるまる受け止めて向き合って、フラットな視点で描いていくよ、という宣言みたいなものをこの曲から感じる。

 

そしてサウンド面。バンドサウンド主体で、ミディアムバラードだけど重すぎずさらりとしているところがめっちゃ良い。

2番サビ後のギター、ディレイ+リフレインのエフェクトがかかった音色がもう堪んなくって…。音色が心の奥底からじんわり侵入していって琴線を揺らす感覚。

(MVも二種類作られていて、どちらも素敵な内容でした!)

2.海にて、心は裸になりたがる

ライブでの掛け合い意識した部分とか、ポップパンクっぽいカッティングギターとか、強引に転調するところとかめっちゃ若々しい。

3.SINGLES

 シンプルにバンドサウンドを鳴らしているのに、平坦に聴こえない不思議な疾走感と曲の展開が大好物、ご馳走様です。

聴きどころは2番サビ後から。何重にも重ねたギターサウンドが荒ぶる、荒ぶる。ドラムがドコドコ鳴り響く。複雑に交差する楽器の音に「ここからどうなる!?」って次の音が予想できない間奏は、えもすれば煩雑に聴こえるかもしれないが、僕にはそれが新鮮で、荒削りなところに魅力を感じた。

 

歌詞はシンプルな言い回しが多い。

守るべきものの数だけ

人は弱くなるんなら

今の僕はあの日より

きっと強くなったろう

という部分からタイトルの意味を知らされ、ハッとした。なるほど「SINGLES」とは別離を示していたのか。

 

あとCメロの

寂しさっていう名の歌を歌ってる

のところで、メロディに字余りの歌詞を詰め込みました感、本作一番のスッキリポイント。

(MVを見ると、最後のシーンで向日葵が移り混んでいて、「himawari」と同じ世界観だと示唆しているのかな?)

4.here comes my love

 

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  この曲、これまでの活動、ヒカリノアトリエでの取り組み、そして今作でのバンドサウンドを全てつないだ楽曲だなあと感じました。

ミスチルの真骨頂であるドラマチックなメロディに、ストリングスやフルート、トランペットなど様々な楽器を、ヒカリノアトリエで培ったバランス感覚で適度に取り入れ、タイトで力強いバンドサウンドがドンッと真ん中に居座ってる。しまいには開き直ってバリバリQueenオマージュのギターソロまで。

ここ数年メロディは良いのに、量産型しるしかよってくらい似通ったアレンジの曲がいくつかあって、「なんでや桜井、いっそ俺をスタジオに入れてくれ」ってくらい歯痒かったが、これだけ色々やりたいことを詰め込んだ曲を聴いたら、楽曲に携わったメンバーやミュージシャン達の生き生きとした姿が思い浮かんできて、思わずグッときた。

 

5.箱庭

こういう「箸休め」的な曲が入ってると、アルバムの流れが良くなって個人的には嬉しい。ポップで軽やかな曲調は、「Kind of Love」や「Versus」など初期の作品に並んでいても違和感ないですね。

それでいて、明るいメロディに重めな歌詞を乗せるミスチルお得意のやり方。

残酷なまでに温かな思い出に生きてる

箱庭に生きてる

ここの一節がこの曲の全てで、大好きだった「君」を失ってなお、僕と君だけで成り立っていた世界に取り残されたままだということを表すのに、「箱庭」という単語を選択するセンス。

6.addiction

 うおっ、なんじゃこのイントロ!ジャズファンクな感じ、これは新感覚で面白い。ピアノと小気味良いドラム、そしてベースの高低差あるフレーズが気持ちいい。

そう思いつつ歌詞見たら、ぶっ飛ばしてますねえ。「addiction」は「中毒、依存」って意味なんですが、明らかに薬物中毒に苦しむ人の話。敏感なご時世に海外のヒップホップみたいなテーマ選び。毒ソング。ライブで聴きたい。

 

7.day by day(愛犬クルの物語)

まごうことなきQueenオマージュな1曲。桜井さん、あんたどんだけ好きやねんと。タイトルとは裏腹に結構ロックな感じで驚いた。

8.秋がくれた切符

安心のミスチル印、バラード収録のノルマ達成。さらっとしてて、次の曲への流れが良い。

9.himawari

 

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まさかのアルバムバージョン。

ボーカルや一部のギターやキーボードが録り直されている他、楽曲自体のミックスとマスタリングも改められており、シングルの音源と比べると本作でマスタリングに起用されたJoe Laportaの仕事ぶりが分かる。(彼は世界中の名だたるロックバンドと仕事をする凄腕エンジニア!)

シングルverと比べてストリングスが奥に引っ込み、その分ドラムやベースの音が明瞭になってるし、ギターがよりラウドな音になって前に出ている。ボーカルのマスタリングも変わってて、よりバンドサウンドの中に溶け込んだように聴こえる。

歌い直されたボーカルはよりメリハリがついて、熱い感情がドロドロ溢れるようなシングルverに比べ、より静かに心の奥底に渦巻くいびつな感情が揺れ動いているようなテイストに。

そんな君に僕は恋してた

のところが弱々しく響く歌声に変わっていて、よりじんわりと優しさが染みるようになって印象的。

 

矛盾する優しさや激しさが同居するこの曲、これ以上言葉を尽くすのは野暮。ぜひ直接そ耳にして欲しい。

10.皮膚呼吸

 docomoとの25周年コラボCMにて、デモ曲として先に世に出ていた1曲。

この曲はアルバムを作った動機について雄弁に語っていて、本当にグッと来ました。

もう試さないでよ

自分探しに夢中でいられるような

子供じゃない

と、ファンの期待に応えることを意識して「こうした方が良いよね」って形でこれまでうまくやってきたことを振り返りつつ

変わっちまう事など怖がらずに

まだ夢見ていたいのに…

と、また昔のように無我夢中で音楽を作りたいと歌っている。

 

思えば、タイトルの「重力と呼吸」、そして皮膚呼吸は、無意識に感じ、無意識に行われることである。

皮膚呼吸して 無我夢中で体中に取り入れた

微かな酸素が 今の僕を作ってる そう信じたい

これまでの長い活動の中で無意識に重ねてきたものが今のバンドを形作っていて、そこから何の考えや意図も持たず無意識に出たMr.Childrenというバンドの音を、そのまま届けたのがこのアルバム。だからこそ

僕にしか出せない特別な音がある

きっと きっと

あるがままの自分たちの音楽が、リスナーにとって「特別なもの」になるようにと歌っているのだ。

ここまで正直に、迷いながらも高らかに自分の心を丸裸にした歌詞って初めてではないだろうか。こういう心境のもと、本作のようなフラットでストレートなアルバムができたんだなあと感じた。

 

 

デビューして27年目になるバンドが、これ程まで実直に、素直に作り上げたこのアルバム。

多くのリスナーが先入観も評論家めいた見方も一度取り去って、無意識に重力を感じるように、無意識に呼吸するように、「考えるな、感じろ」の精神で聴いてくれることを願いたい。

重力と呼吸

ドラクエ風ターン制バトル「獣ゆく細道」

 

椎名林檎宮本浩次(エレファントカシマシ)によるコラボ曲「獣ゆく細道」がもう、天才同士の殴り合い。

個性ビンビンの歌声を持つ両者が、互いの技量をこれでもかと見せつける。それでいて、見事なバランスで曲として破綻しない。ギリギリの綱渡り感、その危うさが堪らない。どうなってんの?

 

 1番のメイン旋律は宮本が歌う。いやいや、椎名林檎作詞作曲で、文学的な歌詞をバリバリ癖のあるメロディに載せてるのに、一音目からまるで自分の曲だったかのように歌いこなしてますやん…化け物かよ。

行く先はこと切れる場所 大自然としていざ行かう

ソース・Source: https://www.lyrical-nonsense.com/lyrics/sheena-ringo-hiroji-miyamoto/kemono-yuku-hosomichi/

サビ部分、ここで「行こぉぉぉうぅ」って歌い方とか宮本浩次宮本浩次たる部分たっぷりで、「ここの歌詞自分で書いたの?」ってなった。

 

間髪入れず2番のメイン旋律は椎名林檎が担当。今度はこちらの番とばかりに面目躍如。最初の「そっと」の発声だけで、ぶわっと彼女の世界観へと引き込まれてしまう。こちらもとんでもねえ。普段耳馴染みのない文学的なフレーズが、こうもすんなり楽曲として聴けるのはひとえに、彼女のボーカリストとしての力量。

 

そして白眉だったCメロ。

本物(モノホン)か贋物(テンプラ)かなんて無意味(ナンセンス) 能書きはまう結構です

幸か不幸かさへも勝敗さへも当人だけに意味が有る

ソース・Source: https://www.lyrical-nonsense.com/lyrics/sheena-ringo-hiroji-miyamoto/kemono-yuku-hosomichi/

「モノホン」「テンプラ」「ナンセンス」といった飛び道具的に挿入された横文字を、ここまで甘美に歌うのか椎名林檎…。と思えば、「もう結構です」と(椎名林檎の楽曲には度々ある)フレーズ中のアクセントとして入れられたであろう敬体口調を、宮本が本家顔負けのさらりとした調子で違和感なく歌い上げる。バチバチですわ、化け物同士のワルツ。

 

 

たった3分44秒の曲だが、これもうターン制バトル。代わる代わる2人が、ボーカリストとしての魅力を余すところなく見せつけてくる。ここまで濃厚なひとときを楽しめるなんて反則でしょ。

 

繰り返し聴いてたら2人のハモりが気持ちよすぎて、「もう好きにしてくれ」と白旗あげました。

獣ゆく細道

 

 

 

 

Karl (I Wonder What It's Like to Die)和訳

「Karl (I Wonder What It's Like to Die) 」/Pale Waves

I was fourteen, my brother was twenty
When my dad sat me down, and told me you'd left me

パパが私のそばに座って、あなたが逝ったと告げたとき、私は14歳、兄は20歳だった
I never listened when they called you crazy

彼らはあなたを変わり者だと言うが、私はそうは思わなかった

I see so much of you in me lately

近頃は私の心の中に、あなたを何度も見かけるわ


I wrote a song for you

And it's called "Hide + Seek"

私はあなたに贈る曲を書いたの、「かくれんぼ」って言う曲を

You never heard it but I, I got it tattooed on me

あなたにこの曲を聴かせることはできないから、せめてもの思いでこの曲をタトゥーにして自身に入れ墨した
And I'd love to see you sitting in your chair
Smoking away, beautifully unaware

ああ、あなたが椅子に腰掛けてタバコを吹かす姿が好きだったなあ、その美しさに思わず見とれてしまっていたよ


I wonder what it's like to die?

死ぬってどういうことなんだろう

Sometimes you cross my mind

ときどき、あなたの存在が私の心を掠める

Well that's a fucking lie
'Cos you're on my mind all of the time

ええ、ほんとに馬鹿げた話なんだけど、あなたはずっと私の心で生き続けているの

I wonder what it's like to die?

なら、死ぬってどういうことなんだろう


Got in the taxi after my London show

ロンドンでのライブが終わりタクシーに乗ったら

And your favourite song came on the radio

あなたが大好きだった曲がラジオから流れてきた

I cried a little, then I stopped

私はちょっぴり泣いて、すぐ泣き止んだ

Oh, you know I can't hide it

まああなたはお見通しでしょうね

I miss you so much

私はあなたが恋しくて仕方ないよ

 

It was Christmas day when my mum found you

クリスマスの日に私のママとあなたが偶然出くわしたことがあったよね

She puts on a brave face, but I can see right through

ママは平静を装っていたけど、私は彼女の考えを見抜いていたよ

But your mind was beautiful, unusual, so loveable

でも、あなたは違った。あなたの心は美しくて、突飛で、とても愛らしかった。

But you were beautiful, unusual, so loveable

あなたは美しくて、突飛で、とても愛らしかった


I wonder what it's like to die?

死ぬってどういうことなんだろう

Sometimes you cross my mind

あなたの存在が私の心を掠める

Well that's a fucking lie

ええ、ほんとに馬鹿げた話なんだけど、

'Cos you're on my mind all of the time

あなたはずっと私の心で生き続けているの

I wonder, what it's like to die?

なら、死ぬってどういうことなんだろう

 

 

 

 この曲を書いたヘザーによれば、彼女のおじいちゃんについての曲らしいです。

 とてもパーソナルな内容の歌ですが、一方で誰しもの心の琴線に響く素敵な曲でもあります。

 

こちらもぜひ

Pale Wavesというバンドについて - 音楽紀行(アルバムレビュー)

 

My Mind Makes Noises