音楽紀行(ライブレポ、アルバム感想・レビュー)

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Billie Eilish「everything i wanted」 歌詞和訳&解釈

 今年世界で最も注目されたアーティストの一人Billie Eilishによる、今年出た1stアルバム「When We All Fall Asleep, Where Do We Go?」以来8か月ぶりの新曲「everything i wanted」がリリースされました。

 この新曲からはありのままの感情や考えが見えるようで、彼女を渦巻く周囲の熱狂や喧騒が見づらくさせていた今の彼女のパーソナルな部分を目の当たりにできた気がします。同時にアーティストが抱く今の時代特有の苦悩はリスナー側にとっての問題でもあると考えさせられます。

 

 

 和訳だけ読みたい方もいらっしゃると思うので、の部分について註釈は下段にまとめています。気になる方はご一読されるとより楽しんでいただけると思います。


Billie Eilish - everything i wanted (Audio)

 

I had a dream

I got everything I wanted

Not what you'd think

And if I'm  bein' honest

It might've been a nightmare

To anyone who might care

夢見たもの

望んでいたものは全て手に入ってしまった

でもそれは人々が想像するようなものじゃなかった

正直に話すなら

悪夢でしかなかったでしょうね

私を気にかけてくれる人達にとっては(※1)

 

 

Thought I could fly (Fly)

So I Stepped off the Golden, mm

Nobody cried (Creid, cried, cried, cried)

Nobody even noticed

I saw them standing right there

Kinda thought they might care (Might care, might care)

飛べる、と思った

だから「ゴールデン・ゲート・ブリッジ」から飛び降りた(※2)

でも誰も涙しなかった

誰も私を気にすることはなかった

彼らがただ立ち尽くしているのが見えた

気にかけてくれるものだと思っていたのに(※3)

 

I had a dream

I got everything I wanted

But when I wake up, I see

You with me

夢見たもの

欲しかったものは全て手に入ってしまった

けれど目覚めて、私は目にする

そばにいるあなたを(※4)

 

 

And you say,

"As long as I'm here, no one can hurt you

Don't wanna lie here, but you can learn to

If I could change the way that you see yourself

You wouldn't wonder why here, they don't deserve you"

そしてあなたは言うの

「僕がそばにいる限り、誰にも君を傷づけさせやしない

ここでは嘘をつかないで欲しい、きっとすぐできるようになるよ

もし僕が、君の君自身に対する思いを変えられたなら

きっとどうして自分はここにいるのかなんて思うことないだろうに、彼らは君には値しないよ。」(※5)

 

I tried to scream

But my head was underwater

They called me weak

Like I'm not just somebody's daughter

Coulda been a nightmare

But it felt like they were right there

叫ぼうと声を振り絞った

だけど頭まで水中に沈んでしまっていた

人々は私を脆いものだと揶揄する

私も人の子であることを忘れてしまったみたいに

悪夢でしかなかった

彼らはすぐそこにいるように思えた(※6)

 

And it feels like yesterday was a year ago

But I don't wanna let anybody know

'Cause everybody wants something from me now

And I don't wanna let 'em down

昨日のことが去年あった遠い出来事であるかのよう

だけど誰にも知られたくない

だって誰もが今では私に何かしらを望むから

彼らをがっかりさせたくはないもの(※7)

 

I had a dream

I got everything I wanted

But when I wake up, I see

You with me

夢見たもの

欲しかったものは全て手に入ってしまった

けれど目覚めて、私は目にする

そばにいるあなたを

 

And you say, "As long as I'm here, no one can hurt you

Don't wanna lie here, but you can learn to

If I could change the way that you see yourself

You wouldn't wonder wht here, they don't deserve you"

そしてあなたは言うの

「僕がそばにいる限り、誰にも君を傷づけさせやしない

ここでは嘘をつかないで欲しい、きっとすぐできるようになるよ

もし僕が、君の君自身に対する思いを変えられたなら

きっとどうして自分はここにいるのかなんて思うことないだろうに、彼らは君には値しないよ。」

 

 

If I knew it all then, would I do it again?

Would I do it again?

If they knew what they said would go straight to my head

What would they say instead?

If I knew it all then, would I do it again?

Would I do it again?

If they knew what they said would go straight to my head

What would they say instead?

もしこうなることが全て分かっていたなら、同じことをしただろうか

人生をやり直せるとして、もう一度また繰り返すだろうか(※8)

もしも彼らの言ったことがそのまま私に突き刺さると分かっていたなら

口にする言葉を変えるだろうか(※9)

もしこうなることが全て分かっていたなら、同じことをしただろうか

人生をやり直せるとして、もう一度また繰り返すだろうか

もしも彼らの言ったことがそのまま私に突き刺さると分かっていたなら

口にする言葉を変えるだろうか 

 

解釈・註釈

※1

この曲における「夢」とは、彼女がここ1,2年で経験したスターダムな世界。世界中で自身の楽曲が人気となり様々な土地でライブをしたこと、各国音楽フェスでもメインステージのラインナップにその名が並び、名声を手に入れた現在はまさに「夢のようなできごと」だったに違いありません。しかし同時に急速に変わりゆく彼女の状況は、彼女を心配する人々にとってはたまらなく不安であったことでしょう。そして人気が絶頂を迎えつつある今、彼女自身にとっても「悪夢」となってしまったことがこの曲では歌われます。欲しかったものは手に入ったが、その過程や現状は決して夢見ていたような良いことばかりのものではなかったと。

 Billie Eilishのデビューアルバム「When We All Fall Asleep, Where Do We Go?」は寝ている間に起こる出来事として「悪夢」や「金縛り」をテーマの一つとしています。特にアルバム全体の方向性を決定づけた「Bury A Friend」で描かれる内容は本作ともリンクする部分が多いように思います。

 

※2

 ここにおける「Golden」とは、アメリカ西海岸にある吊り橋「Golden Gate Bridge(金門橋)」のことを指します。主塔の高さは水面から227mあります。この曲のアートワークはイギリスの芸術家Jason Andersonにより描かれた金門橋だそうです。

 この金門橋は世界でも屈指の自殺名所として知られているようです。

www.latimes.com

 

 アートワークを描いたJason Andersonのホームページで彼の作品の一部が紹介されています。

www.jasonandersonartist.co.uk

 

※3

 金門橋から飛び降りた彼女に対し人々は見向きもしなかったという彼女の見た悪夢は、良くも悪くも多くの人々から注目が注がれる彼女の現状と対照的でとてもショッキングな内容だと思います。世界的な成功を収めた彼女であっても、その成功やファンからの支持がまるで空虚なものであるかのように感じる恐怖心を抱いている、ということが表されているように思えます。なぜこのような空虚さを感じたのか、その一端には後述するような今の時代ならではのアーティストの苦悩があるのではないでしょうか。

 

※4

 悪夢のような日々を過ごす彼女にとって救いとなる存在とは、彼女の実兄であり楽曲を共に制作するFinneasのことです。この曲では実兄(=「you」)との関係性も描かれています。

 Finneasについて紹介した素晴らしい記事があるので、よければそちらもご一読を。

note.com

 

※5

 BillieとFinneasとの間には強い信頼関係が結ばれているようです。彼女がそうであるようにFinneasもどんなことが起ころうが彼女のそばにいて、彼女を傷つける存在から守り続けると伝えます。急激に変化する彼女の周囲の世界の中で、家族は変わることなく彼女と共にいるかけがえのない存在なのでしょう。

 後に述べるように今の時代本当のことばかりを言うことは許されないでしょう。しかしBillieとFinneasとの間では嘘や偽りを用いることなく本当のことだけを言っていいのだとFinneasは語りかけます。今の人気が空虚なもので自身に価値なんかないのではないかと感じる必要なんてなくて、そう思わせるような言葉を投げかけてくる人々は相手にするに値しないのだという彼の言葉がどれほど彼女を救ったのでしょうか。

 

※6

 彼女の見た悪夢についての描写は、金門橋から飛び降りた末に水中へ沈み込んでいった結果、叫ぶことすら許されなかったという部分で終わりを迎えます。

(ちなみにこの一節にちなんで、楽曲の一部を水中で録音したみたい)

nme-jp.com

 

 そしてこの悪夢は「悪夢のような」現実ともリンクしてしまいます。SNSなどが発達した現在では、有名なアーティストに対しても気軽に言葉を伝えることができます。言葉の伝達のハードルが取り去られたおかげで、誰もがアーティストに対して「この楽曲が好き!」「ライブ最高でした、また来てください!」など愛情や感謝を伝えるのが容易になった一方で、直接面と向かうことなくあくまでネット上の「アカウント」に過ぎない存在だと考えて「まるで人の子でないもの」として平気で悪意をぶつける人々も多いです。

 何を発言しても、時には一部を切り取られたり間違った解釈をされたうえで拡散され、それに対して過剰な罵詈雑言が何倍にも膨らんで帰ってくる状況では何も話せない。まさに水中に沈み叫ぶことができない「あの悪夢」そのものではないでしょうか。そして悪意のある人々は実際には直接会うこともないはずなのに、SNSの距離感の近さゆえに「彼らがそばにいるかのように」感じてしまうのです。ネットから断絶した世界に住まない限り、四六時中彼らの言葉に晒されるのですから当然です。

 

※7

 Billie自身にとってこの1,2年での急激な変化は戸惑いの多いものだと思います。

 

 

 しかし一方で、多くの人々に楽曲が愛されコンサートでは大盛り上がりする様子は彼女にとっても素晴らしいものです。名声を得たことは悪いことばかりではなくかつて夢見たような素敵なもので、だからこそ人々の期待に応えたいと彼女は考えます。彼女の圧巻のパフォーマンスに対し人々の歓声が止まないBillie Eilishのライブはとても素敵な光景です。

 

 

※8

 この曲の素敵なところは、彼女が見た「悪夢」そのものであるような現状の苦しみのなかでも、決して名声を得たことを全て否定するものじゃないという点だと思います。

 欲していた名声を得た結果生まれた状況は、夢見たような素晴らしいものばかりではなかったけれど、それでも多くの人々に楽曲が愛されていることは確かであり、きっと彼女はこの苦しみを抱くことが分かっていたとしても同じことを繰り返すことでしょう。苦しみの中でも彼女の楽曲やファンに対する愛情や覚悟が示された一節であるような気がします。

 

※9

 SNSは距離感の概算を見誤りやすいものだと思います。前述の通り気軽に言葉を直接伝えられるという点ではとても距離の近い手段と言えますが、一方で相手と顔を合わせることなく言葉を伝えるという点ではとても距離の遠い手段のようにも思えます。故に相手を直接傷つけることも容易である、ということに無自覚なまま平気で強い罵声を浴びせる人々も多いです。直接面と向かっては憚られるような言葉すら選べてしまうのです。

 これはBillieのみに限った話ではなく、今の時代多くのアーティストが直面する苦しみではないでしょうか。(そしてアーティストに限らず私たち一般の人々にとっても当てはまる)

 先日No Nameが訴えたアーティストとファンの関係性についての訴えは悲痛であり、またニューアルバムを今年リリースしたChance The Rapperや今年のグラストンベリーフェスティバルにサプライズ出演したColdplayのChris MartinもSNSで寄せられた多くの心ない言葉に苦悩を訴えています。

sublyrics.info

nme-jp.com

 

 今の時代ならではの苦悩を抱えるBillie Eilishですが、その中でもFinneasへの感謝と信頼やアーティストとしてやっていくという覚悟、楽曲やファンに対する愛情が垣間見えるこの楽曲がとても大好きです。

 

 最後に「everything i wanted」を制作する様子が収められた「Beats by Dre」のキャンペーンCMが公開されています。この曲で描かれているものを理解した上で見ると、一層グッときますね。

 

 

everything i wanted

メロディの伏線回収カタルシス劇場「My Favorite Fish」/Gus Dapperton

 


Gus Dapperton - My Favorite Fish

 

私はミステリーが好きだ、なぜかというと序盤に敷き詰められた伏線が終盤見事に回収された瞬間の、あの一気に視界が開けた感じが堪らないから。

 

そんな重厚な推理小説ばりの伏線回収を体感できる「My Favorite Fish」が最高。

 

 

 

ド派手な見た目の彼だけど、この曲の始まりは優しげな歌声とバッキングギターから始まる。そこから軽やかなドラムのリズムが加わって、ささっとシンセサイザーのような音色も添えられ、素朴な音楽が紡がれていく。

 

「んんっ?」

少し耳を澄ますと、歌メロとは別にもうひとつメロディラインが聴こえる。アコースティックギターの単音弾きで

 

 

ティ~~リンッティ~リッリ

ティ~~リンッティ~リッリ

ティ~~リンッティ~リィリリ

ティ~~リンッティ~リィ

 

 

延々とリフレインされるこのメロディのそれとなさといったら異常。

 

楽曲の中心に据えられるGus Dappertonの歌声は力強いわけでもなく脱力感すらあるのに、なぜか病み付きになる中毒性や飄々とした遊び心のようなものを感じさせる。それ故に聴き手はみんなその歌声に聴覚を惹きつけられる、だからもうひとつのアコースティックギターのメロディにグッと気を配ることなどできるはずもない。

 

それでも2分近く歌声や演奏の後ろ側に潜んでそっとそっと繰り返されるこのメロディ。知らず知らずのうちに聴いてる自分の耳に刷り込まれていることにこの時点では気づけない。

 

 

 

そしてこの曲が始まってから2分10秒過ぎたとき…分かれていた歌メロとアコースティックギターのメロディが交わって一体化したとき。

 

 

 

「ああああああそういうことかああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

そもそもこの曲は「大海を泳ぐ無数の魚たちの中で最も大好きなお魚さん」つまりは世界にいるたくさんの人々からただ一人、親密になりたいと望んだ相手へ贈られたラブソング。冒頭からずっと成就するまでの恋の楽しさ・苦しさに焦点が向けられている。「Chipper and choking(心が弾む/息が詰まる)」「Sprightly and spastic(ウキウキする/うまくいかない)」という二面性ある恋路を進みながら恋の絶頂期に達する。

 

 

 そうして「You are my favorite fish」というこれ以上にない愛にあふれた歌詞へとたどり着く。ずっとずっとそれとなく鳴っていたあのギターのメロディに乗って歌われるのだ。「I don't usually  fall in love I'm not used to fa-la-la-la」僕は君にしか恋をしていないから、いつだって恋に落ちるわけじゃないし恋することには慣れていないのさ、とこれ以上ないくらいの愛を訴える。

 

 

そういうことだったのか。ここの歌詞を、高まりきった慕情を一番に伝えるために、目立つ歌声の陰に隠れようが気にせずに、ずっとずっと同じメロディを繰り返していたんだ。全てはこの瞬間のため。あたかも恋路のなかで積もっていく様々な思いや経験が恋の高まりを生み出すのと同じように、知らず知らずこのメロディをじっくり耳に馴染ませておいて、彼が同じメロディを歌ったときに与えるインパクトのために。

 

 

そうしてこれまでの布石に気づいた頃には、もう私も虜になってこの部分を何度も何度も口づさんでいた。

 

 

 

11月末に待望の初来日公演を果たすGus Dapperton、この曲だけのためにライブ見に行ってもおつりが出ますよ皆さん。彼と一緒に「You are my favorite fish!」と歌ってみてはどうですか?

 

お魚さんになって彼の圧巻のパフォーマンスに釣られに行ってください。ギョギョギョ。

 

Where Polly People Go to Read [解説・歌詞対訳 / 国内盤CD] (BRC594)

さかなクン なりきりバンダナ

 

 

 

The 1975「Frail State of Mind」 歌詞和訳&解釈

 The 1975史上最も激しくヘビーな楽曲「People」に度肝を抜かれたのがもう2か月前の話でした。そして今回10月25日にリリースされたのがこの曲「Frail State of Mind」です。一転エレクトロな曲調でまたまたびっくりしたリスナーも多かったのではないでしょうか。

 歌詞を見てみると、気候変動や社会問題を取り上げた「People」から打って変わり、再び前作「A Brief Inquiry Into Online Relationships」で取り上げられたようなパーソナルなものについて描かれています。それ故に様々な部分で前作に収録された各楽曲とリンクしているように見受けられます。

 

和訳だけ読みたい方もいらっしゃると思いますので、脚注は下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただくとより楽しめると思います。


The 1975 - Frail State Of Mind

 

Go outside

seems unlikely

I'm sorry that I missed your call

I watched it ring

'Don't waste their time'

I've always got a frail state of mind

外に出てみなよ

そんなことやりそうにないね(※1)

電話に出られなくてごめんね

鳴ってたのには気づいてた

「時間を無駄にするな」

心が脆くなっていくばかりだよ(※2)

 

Oh boy don't cry

I'm sorry but I always get this way sometimes

Oh I'll just leave

I'll save you time

I'm sorry 'bout my frail state of mind

ああ少年は泣かない

ごめんね、でも僕はいつだってこうするよ。時々ね(※3)

ああ僕はきっとすぐいなくなるよ

君の時間を無駄にはしない

こんなにも心が脆くてごめんね

 

stay at mine, you might just like it

Might stop you being miserable

'Nah, I'm alright…Nah trust, I'm fine'

Just dealing with a frail state of mind

僕のもとにとどまっておくれ、君はたしかそれがほんと好きだよね(※4)

でも惨めな気分になるのはもうやめるべきかもよ(※5)

「いいや、私は大丈夫…信じて、私は平気よ」

ただ脆い心にうまく対処しているだけなんだ

 

Oh don't be shy

I sorry but I always get this way sometimes

You lot just leave

I'll stay behind

I'm sorry 'bout my frail state of mind

ああ恥ずかしがらないで 

ごめんね、でも僕はいつだってこうするよ。時々ね

君はいつもすぐどこかへ行ってしまう

そして僕は取り残されるんだ(※6)

こんなにも心が脆くてごめんね

 

Oh what's the vibe?

I wouldn't know I am normally in bed at this time

You guys go do your thing and I'll just leave at nine

Don't wanna bore you with my frail state of mind

ああ何が鳴ってるの?

たいていこの時間はベッドにこもってるから分からないんだ

ねえ君たち、むこうでやりたいようにやってくれ。僕は9時になったらすぐいなくなるよ

僕の心の脆さであなたを退屈させたくないんだ

 

'Oh winner winner!! That's your biggest lie!'

I'm sure that you're fine'

I haven't told a lie in quite some time

'You know we'll leave, if you keep lying.

Don't lie behind your frail state of mind'

「ああ勝者よ成功者よ!!それはあなたの最大の嘘だ!」

「君がほんとは平気なこと知ってるよ」

長い間嘘なんかついたことない

「君が嘘をつきつづけるなら、僕らはいずれここを去るって分かってるでしょう?

あなたの心の脆さなんてそこにはない」(※7)

 

解釈・註釈

※1

 「Go outside」とはまさに現代の若者に向けて言われそうな言葉ですよね。

Give Yourself A Try」では

 The only apparatus required for happiness is your pain and fucking going outside

とまさに「幸福のためには痛みを伴ってでも外に出るしかない」と歌われますし

People」では

I don't like going outside, so bring me everything here

と、今どき何でも家で注文して手に入るので外出したがらない若者が描かれています。だからこそ「外に出てみなよ」と言っても、たいていの若者は出たがらないだろうなと分かってるんです。

 

※2

 タイトルでもある「Frail state of mind」とは「Social Anxiety」=社交不安のことだと思われます。(「Social Anxiety Disorder(SAD)」という一種の精神障害を表す言葉は元々「社会不安障害」と訳されていましたが、2008年に日本精神神経学会により社会→社交へと訳語が変えられたそうです。SADはいわゆる「シャイ」「あがり症」に留まらずそこから身体症状まで発現してしまうし疾患だそうですが、ここでは文脈上精神障害に絞らず広い意味での「社交不安」として捉えるといいかなと思います。)

 外に出なくなった人々は当然ながら直接人と会って話す機会は無くなりますが、一方でSNSを通じて誰しもが多くの人々と顔を突き合わせずに交流していると思います。そうなると難しくなるのは2点。まずは直接顔を合わせた際に、経験が少ない分うまく交流できないことが多いこと。もう1つは、SNSにおいて無数の人々に常に言動が見られ逆に常に他人の言動を見ることもできるので、どうしようもなく「自分は人々にどう思われているのか」と気にする場面が多くなること。

Sincerity Is Scary」での一節もこの点を指摘して

Why would you believe you could control how you're perceived

「どうしてあなたは、あなた自身ではどうしようもないものを信じるようとするの?」と言っていますよね。

 

※3

 「I Always Wanna Die (Sometimes)」と同じ構文です。自分はまさしくこの一文を指しているように思ったのですが、文脈から確証は無いです。alwaysとsometimesは矛盾する表現でありなかなか解釈が難しいですが、自分は次のように理解しています。一つの物事を捉えたとき、そのことのみを取り上げて全てを理解したような気になることってありませんか?

 例えば大学での週1の専門講義で会う友人がいたとしましょう。毎回の授業のたびにその友人が深刻な表情をしていたら「この人は大学にいるときずっと深刻な表情をしているのかな」と思うことはないでしょうか。

  あるいはSNSであるアカウントのたった1つのつぶやきを見て「ああこの人はこういう性格なんだな」と考えたりしてしまうことってありませんか。その人にとっては「sometimes」でも見る人によってはそれが「always」になってしまうってことなのかなと思います。それはきっと自分自身に対するときも同じで、日々暮らしているなかで実際には良いこともあれば悪いこともあるでしょうが、悪い部分ばかりを気にしていると生活の全てがどん底にあるかのように感じられることもしばしば。

 

※4

 この曲はメロディもテーマも「TOOTIMETOOTIMETOOTIME」と重なる部分が多いです。特にこの部分はメロディが同じだし歌詞も

She said that I should have liked it

と重なってますね。なのでここでいう「好きなこと」とは同じく「スマホを使ってSNS等をやること」だと思います。「TOOTIMETOOTIMETOOTIME」でこの後続く歌詞の通り、「たまにしか使ってないよ」なんて言いながらもずっとスマホを手放さないのでしょう。

 

※5

 これまでも言及してきたようにSNSにどっぷり浸かる生活によって生まれる社交不安など精神的な苦しみは、実際に何らかの物事に関わるわけでもなく人々との現実のやりとりがあるわけでもないのに重くのしかかるわけで、そういう状況だと空虚なものに苦しんでいる気がして一層惨めな気分になりそうです。ネット上のことなのにいちいちなんで気にしてしまうんだろうと。しかしやめられない、なぜなら便利だし恩恵も受けているだから。「It's Not Living (If It's Not With You)」ではmatty自身の経験した薬物中毒を恋愛関係に重ねて、苦しみながらもやめることができないことが描かれますが、まさにSNSも同じなのかもしれません。

 

※6

 ここでの「心の脆さ」とは他者をなかなか信頼できないことです。恋人が自分と一緒にいない時間何をしているのか、なんて本来知る由の無いことだったのですが、SNSの誕生とともに可視化されるようになりました。友達との写真をアップしていたら「ああ2人でどこか遊びにいったんだろうな」と知ることができます。いろんなことを伝えたり共有したりしやすくなる良い面もあれば、何をしていて何を考えているのか見えるようになったせいで生じる不安もありますよね。

 だからここでなぜ自分の心の脆さを謝っているのかというと、取り残されたように感じた自分はきっと「TOOTIMETOOTIMETOOTIME」で描かれるように、あるいは「Be My Mistake」で描かれるように他の女性に電話を掛けて間違いを犯したからではないでしょうか。

I should't have called

'Cause we shouldn't speak

You do make me hard

But she makes me weak

 彼女が私の心を弱くさせるから、ダメだと分かっていても他の女性に電話をかけてしまう。そして罪悪感を抱いて自身を悩ますことになるのです。

 

※7

 この部分は一番解釈が難しくいろんな捉え方ができるでしょうし、この曲の歌詞の中で一番好きな部分でもあります。

 思うにこの一節で「」がついている部分は、内なる自分自身の精神からの言葉じゃないかと考えます。安っぽく言えば「もう一人の自分」ですね。

 

 内なる自分自身によって問いかけられます、「嘘ついたりしてうまくやってるみたいだけど、その心の脆さってやつこそがあなたの一番の嘘なんじゃないのか?」と。ここまでうまくいっていない自分のことを述べてきたわけですが、そんな自分に対して「winner」=勝者、成功者と呼び掛けるのはなかなか手厳しい皮肉ですよね。心が脆くて苦しんでいると言いながら、まだ周りには頼れる人々もいるし恋人以外に関係を持つ女性までいる。さも不幸であるかのように振る舞っているけど本当は恵まれているじゃん、というわけです。

 それに対して、そもそも嘘なんてここしばらくついてないよと答えます。でもこの返答自体がおかしいです、なぜなら※6で指摘してるように自分は彼女に嘘をついているはずだから。

 それに対して再び内なる自分は言います、「嘘をつき続けたら周りの人々はあなたのもとを去っていくよ、分かってるでしょ?」と。この部分は「How To Draw/ Petrichor」での結びの一節

They can take anything as long as it's true

What they can't take is you telling them lies,lies,lies,lies

と重なりますね。

 そしてとどめに「Don't lie behind your frail state of mind」と告げます。この一節をあなたはどう解釈しましたか?「lie」という単語、すごく厄介です。これまで何度も指摘してきた内容からは「lie」=嘘をつくと捉えても良さそうです。そうするとここで言われているのは「あなたの心の脆さに起因して嘘をついてはいけないよ」ということでしょうか。

 しかし「lie」にはもう1つ「そこにある、存在する」という意味もあります。「lie behind」は慣用句的な表現で「~が背後にある」という意味です。そうするとここで言われているのは「(あなたの振る舞いの数々の背後に)本当は心の脆さなんて無い」という指摘でしょうか。ひとつ前の一文「あなたが平気なことを知っている」は後者の捉え方に繋がるようにも思えますが、心の脆さが全く無いというのも正しくはないでしょう。

 

 そこで私が感じたのは、心の脆さやそれに伴う間違いによってめちゃくちゃになった自分は、最早何が本当で何が嘘なのか分からなくなってしまったのではないかということです。自分自身と対話する自分の精神すらも自分の心の状態がよく分かっていないんです。この自分と自分の精神との対話は、脆かった心が壊れてしまった様を表しているのではないでしょうか。

 この部分の解釈は自分の中途半端な英語力の結果生まれた2通りの解釈の結果、何の根拠もなく考え付いたことなのであてにならない気もしますが、少なくとも自分はこのように捉えたときにこの曲がとても好きになりました。ますますアルバムが待ち遠しいです。

 

Frail State Of Mind

 

 

好きなバンドを見にタイへ行った話【前編】

「自由」と「多様性の祝福」

 

 Summer Sonic 2019での鮮烈なライブを見た後、家に帰った私は「もう一度ライブ見たいなあ。」とつぶやいた。

 それから約1ヶ月が経ち、気づけばタイ行きのチケットを片手に飛行機の搭乗口前に立っていたのである。「貯めてたバイト代が無くなりすっきり無一文になりますよ。」と親切に忠告しようとする自分が顔を出さないうちに、諸々の手続きをもう一人のお気楽な自分が済ませてくれていたのだろう。

 

 一人で海外に行ったこともない若者に、コンビニに行くかのような軽やかなテンションで決断を下す原動力を与えてくれた存在、そのの名前は「The 1975」だ。好きなアーティストを見に行くための約3日間の短くて些細な旅路、一生残る大きな宝物のような体験。しばしその自分語りにお付き合いいただこう。

 

(09.14.2019) Bangkok,Thailand

 ライブが行われたのはバンコク郊外にある「サンダードーム(Thunderdome)」という会場。いくつもの展示会場やサッカー競技場などが隣接しており、イメージとしては日本でいう幕張メッセのような感じ。会場自体は約5000人キャパ。

 さて夕方にチケット引き換えが開始するので、その前に会場に向かう。まず目を引いたのは、観客たちが気軽に記念撮影できるようにパネルが設置されたスペース。聞くところ、タイではよくこうしたサービスがあるとのこと。

 チケット引き換えが始まると、事前にスマホにダウンロードしておいた電子チケットを提示し、リストバンドとチケットカードを受けとる。(記念になるのでとても嬉しいサービス!)

 

 チケット引き換え後は早めに並んで開場を待つ。タイでのライブは整理番号無しで、購入したチケットの指定エリアごとに自由に並べる。開場時刻が当日になってはっきりしたアナウンス無しに一時間早まるのもなかなかの衝撃だったが(現地の方に聞いても「よく分かんないけど早まったぽいよ…。」と言っていた笑)ゲートを開くふりをしておちょくる警備員に開場待ちの方々の笑いが湧く和気あいあいとした雰囲気にほっこり。そしてついに開場すると運良く最前列に入ることができ、マジか!と早くも大興奮。

 

 私はたまたま会場で仲良くなった日本人の方と一緒に入場したが、最前列で隣り合わせたのはタイの南の方に地域から来た2人組とはるばる台湾からやって来たという方。これが本当に素敵な出会いとなった。

 

 最前列ということもあり少しキツキツになってしまったので「狭くなってしまいすみません、大丈夫ですか?」と訪ねると、大丈夫ですよと気さくに対応してくださったのは台湾から来た女性。話してみると音楽の好みがとても合って意気投合!「Coldplay良いよね!Imagine DragonsとかYears&Yearsとかも!」「Mike Shinodaのライブは見た?来年Green Day来るのヤバくない?」など大盛り上がりで面白かった。日本のサマソニフジロックのこともよく知られていて嬉しかったり。

 一方でタイの2人組はとにかくテンションが高かった。一緒に入った日本人の方や台湾の方がフラッグを手作りしてきたと言うと「いいね、素敵すぎ!その写真撮ってもいい?いやみんなで写りましょ!」と気さくに話してくれる。着ていたシャツが気になったので聞いてみると、なんと自作という気合いの入りっぷり!(表面はライブの日付が入った記念仕様。裏面は「Love It If We Made It」の歌詞にあやかり、ドナルド・トランプの写真とThank you Kanye, very coolの文字入り笑)タイの好きなアーティストを聞いたら真っ先にPhum Viphuritをおすすめされて、「それ知ってる!僕もめっちゃ好き!」と言ったらとても嬉しそうだった。

 そんなことなど言ってひとしきり盛り上がっていると、タイの方が「ビール飲む?皆の分買ってくるよ!」と言ってささっと会場外に出ていき、本当に買ってきてくれた!こんなのことは初めてで、とても驚いたしめちゃくちゃ嬉しかった。いろいろライブに行ってるけど、初めて最前列でその場で会った方々と乾杯をした。

 タイではライブ中でもぞろぞろと観客が会場外に出てお酒を買い、またのんびりと入っていくという光景がよく見られるらしい。よく日本に来た海外のアーティストは、日本の観客はとても礼儀正しいと言ってくれる。もちろんリップサービス込みだろうが、たしかにこうしてみると本当に真摯だ。ライブ中にぞろぞろと観客がお酒おかわりしに会場出ていくことなんてあまりない。

 

 入場後オープニングアクトであるNo Romeの出番まで約2時間半ほどあったのだが、あまりに会話が盛り上がって一瞬で過ぎ去ってしまった。日本人の方と「こんなこと初めて!最高すぎて、もうライブ見る前からチケット代の元取れた気分だね!」と言っては笑っていた。

 

 そしてNo Romeが登場。レーベルが同じでThe 1975との関わりも深いこともあるが、なによりEPを去年今年とリリースする中で確実にファンを増やしているのだろう。曲ごとに大歓声を上げる彼のファンも(自分含め)多かった。ライブはエレクトロでひたすら踊れるな!と思えば、一転エモ要素満載のギターロックで燃える展開を見せる二面性がとても魅力。

 ところでライブ中は最前エリアであっても押し合いになったり後ろからぎゅっと圧縮されることもなく、各々が踊れる程度のスペースをとって鑑賞するスタイルらしい。(これはThe 1975が出てきてからも同じ)

 

 

 そんなこんなでタイの観客や会場の雰囲気を見ていると、「ライブって人それぞれ自由に楽しめるのが一番だな。」と深く感じられた。

 思い浮かべたのは、田舎に住んでいた頃、小学校でやってた運動会。こういうイベントごとには、父兄や親戚や地域の方々がたくさんいらっしゃる。小学生が競技に取り組んでるのを見守りながら、ある人は必死に声援を送ったり、またある人は我が子の専属カメラマンとばかりにいっぱい撮ったり、またお酒を飲みながら競技そっちのけで盛り上がったりその姿は様々。でもここにいる誰もが運動会という場を楽しみに来た一点では共通していて、自由に振る舞いながら場はゆるやかに大いに盛り上がる。こういう光景の素敵さを、タイでのライブで想起したのだ。

 自分は今まで、ライブに来たからには皆が演奏に耳を傾けて飛んだり跳ねたり踊ったりして熱く盛り上がらないとダメだ!という考え方に固執していた。ネットでもよく、鑑賞の仕方だとかルールやファンの在り方みたいなのが話題に挙がるし、その度にいさかいが起こる。

 でも、きっとライブの盛り上がり方なんて人それぞれ。その会場その土地その国々によって様々で良いのだ。南米でのロラパルーザみたいに地鳴りのような大合唱が轟いたり、アメリカでのコーチェラみたいに会場中がアトラクションであるかのように観客がワイワイしたり、イギリスでのグラストンベリーみたいにでっかい旗を振って自由な格好で楽しんだり…。どういう盛り上がりが好きか、というのは人それぞれで違ってくるはず。それなのに特定の楽しみ方や盛り上がり方を他者に押し付けては、自由を謳歌するはずのライブから自由さが失われて本末転倒なんだと思う。それよりも各々が自由に楽しんだ結果生まれたその時々で特有のライブの雰囲気を大事にしたいなと考え直した。行くライブごとにいろんな形の盛り上がりが生まれるのってなんだかワクワクするな、とさえ思った。

 

 他国でライブを見ていると、日本でのライブの良さにも気づく。バラードが披露されたとき誰しもがその曲に聞き入っているのはとても素敵なところだと思う。静かな湖に滴が垂れて水紋が広がるかのように、音ひとつひとつの残響まで会場に広がるのは美しい。かつてエドシーランが来日公演でのMCで「日本の観客は(落ち着いた楽曲を披露するとき)じっくり静かに聴いてくれてとても嬉しい」と言っていたことを思い出した。


 これは憶測だから間違っていたら訂正するが、「他の国ではこれこれだから、日本でももっとああした盛り上がり方をしたら良い。」とか「アーティストが日本で盛り上がりを見て喜んで欲しいなあ」とか深く考えてファン同士でしょっちゅう議論になるのって多分日本だけではないか。これはひとえにアーティストへのリスペクトが高い証だと僕は思っている。特にアジアの極東の島国に遠く欧米から来てくれるアーティストへのありがたみは誰しもが感じている。だからこそライブでは誰もがこうあるべきだという考え方から離れて、各々が自由なやり方でアーティストへのその愛情やリスペクトを表現するやり方でもきっとうまくいく。

 


 観客がみんな自由に楽しむこと。(もちろんアーティストや他の観客を著しく不快にするようなことは避ける最低限のマナーというものは必要だ)そしてお互いの自由が触れ合い交差したとき真っ先に相手の自由を尊重することこそが、この自由で楽しげな空間を支える屋台骨なんだなとバンコクの観客たちを見て確信した。


 自由で良いし、人それぞれで良い。カマシワシントンが「Truth」という楽曲を通じて「多様性の祝福」をメッセージとして伝えるように、観客ひとりひとりがそれぞれの形で自由に楽しめるライブという空間を心の底から大事にしたい。そして各々が自由に振る舞うそんな空間がひとつになって大きな盛り上がりを生み出すことこそ、この世に音楽があったおかげで成り立つ奇跡ではないか。

 

 

 そんなことを考えていたら、No Romeによる30分ほどの素敵すぎるライブもあっという間に終わり、気づけばもうThe 1975の開演間近。

 

 奇跡のような光景を目の当たりにするまで、あと少し…。

 

後編に続く。

 

 

yamapip.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

 

2019年上半期アルバムベスト

今年の1~6月にリリースされたアルバムの中から特に好きなものを10枚。選んでない作品でもたくさん素敵なものがありました!悩んだ~…

I Am Easy To Find [限定デラックス・エディション / 解説・歌詞対訳 / ボーナストラック1曲収録 / ボーナスディスク付] (4AD0154CDXJP)

I Am Easy To Find」/ The National

一番優しさや希望を自分の人生に与えてくれました。The Nationalは前作を好きになって聴き始めたのですが、緊張感やダークさがあった前作と対照的に今作は暖かみのある作品で、渋味のある歌声がすごくマッチするなあと感じました。

歌詞の部分を解釈しつつ、今後レビュー記事も書いていこうと思っています。こういう作品との出会いを大事にしたい。

 

Oh My God

Oh My God」/ Kevin Morby

コアな音楽好きを雄弁に語らすのは常に時代の最先端を切り開くような音楽だと思いますが、この作品は時代とは離れた普遍的な存在としてとても魅力的だと感じました。もちろん古くさい音楽だというわけじゃないし、歌詞だって今の時代を生きるなかで生み出されたものですが、100年前に聴いても100年後に聴いても感動していただろうと確信できるのです。そこまで音楽に詳しいわけではありませんが、今までの人生で聴いたフォークロックでNo.1アルバムです。

 

Ribbons [解説・歌詞対訳付 / ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC593)

Ribbons」/ Bibio

たまたまレコードショップに立ち寄って、試聴コーナーで聴いた「Curls」に一発で恋に落ちました。その日のうちにアルバムを購入。いろんな楽器の音色が顔を出す鮮やかな作品ですが、見える風景は統一感があるという点がとても好きなところです。日本のあらゆる季節と共に聴きたいです。

 

834.194

834.194」/ サカナクション

6年ぶりという長いスパンで、おそらくアーティスト自身も想定していなかった道を辿って生まれたアルバムなのでしょうが、しかし明確なコンセプトで素敵な楽曲を結ぶ作品。応援してきたアーティストですが、ひとつの到達点に辿り着いた感があります。この次の一歩がどうなるか良くも悪くも想像したくない、それくらいの大団円。

 

ANGELS

ANGELS」/ THE NOVEMBERS

とにかくかっこいいです。いろんな音楽の要素を含みつつ、バンドの美学でまとめているようで、すっかり陶酔し夢中で聴きました。いずれライブでこの楽曲を聴きたい。The 1975やBring Me The Horizon,Slipknot,Grimeの新曲を聴いていると、この作品が世界の音楽界の潮流に先んじて進んでいるかのような運命的なものを感じます。

 

Not Waving, But Drowning」/ Loyle Carner

優美で穏やかで心に残る作品、常に日常のどこかに置いときたいですね。サウスロンドン勢はつくづく恐ろしいと感じました。初来日公演は行きそびれましたが、次の機会は絶対に逃したくない。

 

ARIZONA BABY [Explicit]

ARIZONA BABY」/ Kevin Abstract

中身が詰まっているのに、アルバムの中で流れる時間が5分くらいに感じられるのです。言わずと知れたBrockhamptonのリーダーKevinのソロ作品ですが、これもしかしたらいずれ出るであろうBrockhamptonの新譜より好きになるかも知れない…なんて危惧したくらいハマりました。その危惧が杞憂に終わるどころが彼方へと消し飛ぶくらいの新譜が届けられるのはまた後の話。

Ancestral Recall

 

Ancestral Recall」/ Christian Scott aTunde Adjuah

今最も刺激的で革新的な音楽を生み出しているのはジャズなのではないかと思わされた圧倒的なアルバムです。5月末の来日公演でも伝説に残るかのような鬼神のごとき名演を目の当たりにすることができました。

 

Schlagenheim [解説・歌詞対訳 / ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (RT0073CDJP)

Schlagenheim」/ black midi

めちゃくちゃなようで精密な、それでいてかっこいいんです。初期衝動と緻密な計算という矛盾するようなふたつを併せ持つカオス。すぐ間近に迫った9月の来日公演が楽しみです。

 

Feeling's Not A Tempo

Feeling's Not A Tempo」/ Gemma

「ジャケ聴き」という自分なりに見つけた新しい音楽の探し方で出会えた作品。アートワークから想像できるような、ポップが爆発していて心躍るような音楽が詰まってます。まだ今年これを越えるポップを聴いてません。

 

 

下半期も既にたくさんの素敵なアルバムと出会えています。年末のアルバムベストがどんなラインナップになっているのか、今から楽しみなようで恐ろしくもあり…。