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The 1975「Frail State of Mind」 歌詞和訳&解釈

 The 1975史上最も激しくヘビーな楽曲「People」に度肝を抜かれたのがもう2か月前の話でした。そして今回10月25日にリリースされたのがこの曲「Frail State of Mind」です。一転エレクトロな曲調でまたまたびっくりしたリスナーも多かったのではないでしょうか。

 歌詞を見てみると、気候変動や社会問題を取り上げた「People」から打って変わり、再び前作「A Brief Inquiry Into Online Relationships」で取り上げられたようなパーソナルなものについて描かれています。それ故に様々な部分で前作に収録された各楽曲とリンクしているように見受けられます。

 

和訳だけ読みたい方もいらっしゃると思いますので、脚注は下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただくとより楽しめると思います。


The 1975 - Frail State Of Mind

 

Go outside

seems unlikely

I'm sorry that I missed your call

I watched it ring

'Don't waste their time'

I've always got a frail state of mind

外に出てみなよ

そんなことやりそうにないね(※1)

電話に出られなくてごめんね

鳴ってたのには気づいてた

「時間を無駄にするな」

心が脆くなっていくばかりだよ(※2)

 

Oh boy don't cry

I'm sorry but I always get this way sometimes

Oh I'll just leave

I'll save you time

I'm sorry 'bout my frail state of mind

ああ少年は泣かない

ごめんね、でも僕はいつだってこうするよ。時々ね(※3)

ああ僕はきっとすぐいなくなるよ

君の時間を無駄にはしない

こんなにも心が脆くてごめんね

 

stay at mine, you might just like it

Might stop you being miserable

'Nah, I'm alright…Nah trust, I'm fine'

Just dealing with a frail state of mind

僕のもとにとどまっておくれ、君はたしかそれがほんと好きだよね(※4)

でも惨めな気分になるのはもうやめるべきかもよ(※5)

「いいや、私は大丈夫…信じて、私は平気よ」

ただ脆い心にうまく対処しているだけなんだ

 

Oh don't be shy

I sorry but I always get this way sometimes

You lot just leave

I'll stay behind

I'm sorry 'bout my frail state of mind

ああ恥ずかしがらないで 

ごめんね、でも僕はいつだってこうするよ。時々ね

君はいつもすぐどこかへ行ってしまう

そして僕は取り残されるんだ(※6)

こんなにも心が脆くてごめんね

 

Oh what's the vibe?

I wouldn't know I am normally in bed at this time

You guys go do your thing and I'll just leave at nine

Don't wanna bore you with my frail state of mind

ああ何が鳴ってるの?

たいていこの時間はベッドにこもってるから分からないんだ

ねえ君たち、むこうでやりたいようにやってくれ。僕は9時になったらすぐいなくなるよ

僕の心の脆さであなたを退屈させたくないんだ

 

'Oh winner winner!! That's your biggest lie!'

I'm sure that you're fine'

I haven't told a lie in quite some time

'You know we'll leave, if you keep lying.

Don't lie behind your frail state of mind'

「ああ勝者よ成功者よ!!それはあなたの最大の嘘だ!」

「君がほんとは平気なこと知ってるよ」

長い間嘘なんかついたことない

「君が嘘をつきつづけるなら、僕らはいずれここを去るって分かってるでしょう?

あなたの心の脆さなんてそこにはない」(※7)

 

解釈・註釈

※1

 「Go outside」とはまさに現代の若者に向けて言われそうな言葉ですよね。

Give Yourself A Try」では

 The only apparatus required for happiness is your pain and fucking going outside

とまさに「幸福のためには痛みを伴ってでも外に出るしかない」と歌われますし

People」では

I don't like going outside, so bring me everything here

と、今どき何でも家で注文して手に入るので外出したがらない若者が描かれています。だからこそ「外に出てみなよ」と言っても、たいていの若者は出たがらないだろうなと分かってるんです。

 

※2

 タイトルでもある「Frail state of mind」とは「Social Anxiety」=社交不安のことだと思われます。(「Social Anxiety Disorder(SAD)」という一種の精神障害を表す言葉は元々「社会不安障害」と訳されていましたが、2008年に日本精神神経学会により社会→社交へと訳語が変えられたそうです。SADはいわゆる「シャイ」「あがり症」に留まらずそこから身体症状まで発現してしまうし疾患だそうですが、ここでは文脈上精神障害に絞らず広い意味での「社交不安」として捉えるといいかなと思います。)

 外に出なくなった人々は当然ながら直接人と会って話す機会は無くなりますが、一方でSNSを通じて誰しもが多くの人々と顔を突き合わせずに交流していると思います。そうなると難しくなるのは2点。まずは直接顔を合わせた際に、経験が少ない分うまく交流できないことが多いこと。もう1つは、SNSにおいて無数の人々に常に言動が見られ逆に常に他人の言動を見ることもできるので、どうしようもなく「自分は人々にどう思われているのか」と気にする場面が多くなること。

Sincerity Is Scary」での一節もこの点を指摘して

Why would you believe you could control how you're perceived

「どうしてあなたは、あなた自身ではどうしようもないものを信じるようとするの?」と言っていますよね。

 

※3

 「I Always Wanna Die (Sometimes)」と同じ構文です。自分はまさしくこの一文を指しているように思ったのですが、文脈から確証は無いです。alwaysとsometimesは矛盾する表現でありなかなか解釈が難しいですが、自分は次のように理解しています。一つの物事を捉えたとき、そのことのみを取り上げて全てを理解したような気になることってありませんか?

 例えば大学での週1の専門講義で会う友人がいたとしましょう。毎回の授業のたびにその友人が深刻な表情をしていたら「この人は大学にいるときずっと深刻な表情をしているのかな」と思うことはないでしょうか。

  あるいはSNSであるアカウントのたった1つのつぶやきを見て「ああこの人はこういう性格なんだな」と考えたりしてしまうことってありませんか。その人にとっては「sometimes」でも見る人によってはそれが「always」になってしまうってことなのかなと思います。それはきっと自分自身に対するときも同じで、日々暮らしているなかで実際には良いこともあれば悪いこともあるでしょうが、悪い部分ばかりを気にしていると生活の全てがどん底にあるかのように感じられることもしばしば。

 

※4

 この曲はメロディもテーマも「TOOTIMETOOTIMETOOTIME」と重なる部分が多いです。特にこの部分はメロディが同じだし歌詞も

She said that I should have liked it

と重なってますね。なのでここでいう「好きなこと」とは同じく「スマホを使ってSNS等をやること」だと思います。「TOOTIMETOOTIMETOOTIME」でこの後続く歌詞の通り、「たまにしか使ってないよ」なんて言いながらもずっとスマホを手放さないのでしょう。

 

※5

 これまでも言及してきたようにSNSにどっぷり浸かる生活によって生まれる社交不安など精神的な苦しみは、実際に何らかの物事に関わるわけでもなく人々との現実のやりとりがあるわけでもないのに重くのしかかるわけで、そういう状況だと空虚なものに苦しんでいる気がして一層惨めな気分になりそうです。ネット上のことなのにいちいちなんで気にしてしまうんだろうと。しかしやめられない、なぜなら便利だし恩恵も受けているだから。「It's Not Living (If It's Not With You)」ではmatty自身の経験した薬物中毒を恋愛関係に重ねて、苦しみながらもやめることができないことが描かれますが、まさにSNSも同じなのかもしれません。

 

※6

 ここでの「心の脆さ」とは他者をなかなか信頼できないことです。恋人が自分と一緒にいない時間何をしているのか、なんて本来知る由の無いことだったのですが、SNSの誕生とともに可視化されるようになりました。友達との写真をアップしていたら「ああ2人でどこか遊びにいったんだろうな」と知ることができます。いろんなことを伝えたり共有したりしやすくなる良い面もあれば、何をしていて何を考えているのか見えるようになったせいで生じる不安もありますよね。

 だからここでなぜ自分の心の脆さを謝っているのかというと、取り残されたように感じた自分はきっと「TOOTIMETOOTIMETOOTIME」で描かれるように、あるいは「Be My Mistake」で描かれるように他の女性に電話を掛けて間違いを犯したからではないでしょうか。

I should't have called

'Cause we shouldn't speak

You do make me hard

But she makes me weak

 彼女が私の心を弱くさせるから、ダメだと分かっていても他の女性に電話をかけてしまう。そして罪悪感を抱いて自身を悩ますことになるのです。

 

※7

 この部分は一番解釈が難しくいろんな捉え方ができるでしょうし、この曲の歌詞の中で一番好きな部分でもあります。

 思うにこの一節で「」がついている部分は、内なる自分自身の精神からの言葉じゃないかと考えます。安っぽく言えば「もう一人の自分」ですね。

 

 内なる自分自身によって問いかけられます、「嘘ついたりしてうまくやってるみたいだけど、その心の脆さってやつこそがあなたの一番の嘘なんじゃないのか?」と。ここまでうまくいっていない自分のことを述べてきたわけですが、そんな自分に対して「winner」=勝者、成功者と呼び掛けるのはなかなか手厳しい皮肉ですよね。心が脆くて苦しんでいると言いながら、まだ周りには頼れる人々もいるし恋人以外に関係を持つ女性までいる。さも不幸であるかのように振る舞っているけど本当は恵まれているじゃん、というわけです。

 それに対して、そもそも嘘なんてここしばらくついてないよと答えます。でもこの返答自体がおかしいです、なぜなら※6で指摘してるように自分は彼女に嘘をついているはずだから。

 それに対して再び内なる自分は言います、「嘘をつき続けたら周りの人々はあなたのもとを去っていくよ、分かってるでしょ?」と。この部分は「How To Draw/ Petrichor」での結びの一節

They can take anything as long as it's true

What they can't take is you telling them lies,lies,lies,lies

と重なりますね。

 そしてとどめに「Don't lie behind your frail state of mind」と告げます。この一節をあなたはどう解釈しましたか?「lie」という単語、すごく厄介です。これまで何度も指摘してきた内容からは「lie」=嘘をつくと捉えても良さそうです。そうするとここで言われているのは「あなたの心の脆さに起因して嘘をついてはいけないよ」ということでしょうか。

 しかし「lie」にはもう1つ「そこにある、存在する」という意味もあります。「lie behind」は慣用句的な表現で「~が背後にある」という意味です。そうするとここで言われているのは「(あなたの振る舞いの数々の背後に)本当は心の脆さなんて無い」という指摘でしょうか。ひとつ前の一文「あなたが平気なことを知っている」は後者の捉え方に繋がるようにも思えますが、心の脆さが全く無いというのも正しくはないでしょう。

 

 そこで私が感じたのは、心の脆さやそれに伴う間違いによってめちゃくちゃになった自分は、最早何が本当で何が嘘なのか分からなくなってしまったのではないかということです。自分自身と対話する自分の精神すらも自分の心の状態がよく分かっていないんです。この自分と自分の精神との対話は、脆かった心が壊れてしまった様を表しているのではないでしょうか。

 この部分の解釈は自分の中途半端な英語力の結果生まれた2通りの解釈の結果、何の根拠もなく考え付いたことなのであてにならない気もしますが、少なくとも自分はこのように捉えたときにこの曲がとても好きになりました。ますますアルバムが待ち遠しいです。

 

Frail State Of Mind