音楽紀行(ライブレポ、アルバム感想・レビュー)

ライブに行ったレポートやアルバムの感想・レビュー。好きな音楽を見つけるツールにも

The 1975「Me & You Together Song」歌詞和訳・解釈

 1/17にThe 1975の新曲「Me & You Together Song」がリリースされました。4月にリリース予定の新作「Notes On A Conditional Form」からここまで異なる曲調の楽曲が立て続けに公開されていましたが、今回の楽曲はバンドの初期に立ち返ったようなポップで爽やかな曲調が特徴。歌詞においては恋心について描かれた内容に注目です。

 

 和訳だけ読みたい方も多いかと思うので、の部分について註釈は下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただけるとより楽しめると思います。

 

 

I can't remember when we met because she didn't have a top on

I improvised a little bit she said my references were 'spot on'

初めて出会った時のことをうまく思い出せないんだ。だって彼女はあの頃トップスを身に着けていなかったくらいなのだから(※1)

ほんの些細なことを即興で歌ったら、彼女はいいねと言った

 

"Can I take you for a drink?"

She said "oh god I'll have to think - because we're mates…it doesn't feel right?!"

And I said "It's cool" and "I was messin"

But it's true

Yeah it's you, you're the one who makes me feel right

「よかったら一緒に飲まない?」

彼女は言った。「うーんどうしよう、だって私たち友達でしょう…なにか違う気がしない?!」(※2)

だから言った。「うんそうだね。」「からかっただけさ。」 

でもね、本当は心からの誘いだったんだ(※3)

ああ君が、君だけがしっくりくるんだ

 

I've been in love with her for ages and I can't seem to get it right

I fell in love with her in stages, my whole life

長い間彼女に恋してる、けれど成就しそうにないな

彼女への恋心は段々募っていく、一生ずっとこうだ(※4)

 

I had a dream where we had kids. You would cook, I'd do the nappies

We went to winter wonderland and it was shit but we were happy

君との子供を授かる夢を見た。君は料理してて、僕がおむつを替えるんだ

みんなで冬のハイド・パークへと繰り出して、まあくだらない時間だったけど幸せだった(※5)

 

I'm sorry that I'm kinda queer it's not as weird as it appears

It's cos my body doesn't stop me

ごめんね、僕はクィアだから。見た目ほど変なつもりはないけどね。

でも分かっていても止められないんだ(※6)

 

Oh it's ok, lots of people think I'm gay 

But we're friends, so it's cool, why would it not be?

ああ大丈夫だよ、多くの人々は僕がゲイだと思ってる。でも僕らは友達だ。だから彼らの考えてることはまあ気にしないよ、 友達なのは間違いじゃないもんね(※7)

 

I've been in love with her for ages and I can't seem to get it right

I've been in love with her in stages, my whole life

長い間彼女に恋してる。けれど成就しそうにないな

彼女への恋心は段々募っていく、一生ずっとこうだ

 

There's been no way for me to say that I've felt a certain way in stages, oh I think our story needs more pages Cos I've been in love with her for ages

こうやって段々募っていく思いを伝える方法がないよ

長い間彼女に恋してるんだ、ああ君との物語を描くにはまだまだページ数が足りないよ(※8)

 

And ages

長い間… 

 

解釈・註釈

※1

 初めて出会ったのは思い出せないくらい前のこと。もしかしたら幼馴染の間柄なのでしょうか。幼少期だったからこそ服も着ずに気兼ねなく遊んでいた様子が思い浮かびます。

 

※2

 「oh god」は直訳すると「ああ神様…」ですが、とにかくいろんなニュアンスで使うみたいです。「彼女」は友達だと思っていた相手に誘われて、どうしようかなと戸惑いや困った感情からこう言ったのでしょう。

 

※3

 「彼女」にしっくりこないからと断られてもなお食い下がったら、きっと友達としての関係は終わってしまう。だからこそ、あー嘘嘘冗談だよ、本気にしないでよと本心を隠す。そうして相手と一緒にいることを選ぶのです。でもそれは同時に、いつまでも望む結果を得られないままであることも意味します。

 

※4

 自分自身も前述のことを悟っているんですね。長い間「彼女」のことを思っていても成就しない、思いを打ち上げずに一緒にいる間ずっとその思いは募っていくばかりだと。

 長い間という意味の「for ages」と、段々とという意味の「in stages」で韻を踏んでいるのも、甘酸っぱいですね…。

 

※5

 イギリスで「ウィンター・ワンダーランド」といえば、ロンドン中心部にあるハイド・パークで毎年冬に行われる巨大な移動遊園地のことを指すようです。空想の中できっと子供たちのために連れて行ってあげたのでしょうね。幸せな情景が目に浮かびます。

hydeparkwinterwonderland.com

www.londonnavi.com

 余談ですが「Winter Wonderland」というタイトルの童謡があります。その歌詞は恋人どうしの2人が結婚を夢見るものです。希望を抱いて雪の降る寒い中を歩き、作った雪だるまを牧師さんに見立てて「今度結婚式するときは宜しくお願いしますね」と言ってみたり、家に帰って暖炉で暖まりながら将来の計画を立てたりする。

 

 そんな内容は偶然なのか意図的なのか、1人で「彼女」との将来を想像する彼と対照的に映ります。

 

※6

 クィアとはLGBTQのQにあたり、セクシャルマイノリティの総称でもあります。

www.outjapan.co.jp

 この文脈においては、恋愛対象について性別を条件としない全性愛パンセクシャルを表していると思われます。

ellegirl.jp

(自身の知識が浅い部分も多く、またセクシャリティについては様々な言葉が表現が生まれています。間違いや誤解などございましたらご指摘ください。)

 

※7

 前述のとおり、彼は性別を問わず人に魅力を感じます。しかし異性愛者ではない彼に多くの人々は同性愛者であるというレッテルを貼っている。つまり彼と「彼女」との間に友情関係は芽生えても、恋愛関係が生じるなんてありえないと勝手に決めつけているんです。そのことを彼は皮肉めいて言っているのではないでしょうか。 確かに恋は成就せず友達のままだから、彼らの言ってることも間違いじゃない、と。

 

Loving Someone」では

Just keep holding their necks and keep selling them sex

It's better if we keep them perplexed

It's better if we make them want the opposite sex

「人々の首を絞め続けて、性を押し売りし続ける

彼らを困らせていればいいのか

彼らに異性愛を押し付ければいいのか」

という一節があり、異性愛者ではない人々が一方的に異性愛を押し付けられ苦しんでいることが描かれています。

 

 彼は異性愛者ではなく同性愛者でもありませんが、同じように他人から自身と異なるセクシャリティを押し付けられる苦しみを訴えているように思えます。

 

※8

 ずっとずっと「彼女」への思いを抱いていても、結局その思いを伝える術はないままそれでも一緒にいる。これは捉えようによっては生き地獄のようにも思えます。

It's Not Living (If It's Not With You)」では、こう歌われています。

And all I do is sit and think about you

If I knew what you'd do

Collapse my veins,wearing beautiful shoes

It's not living if it's not with you

そして僕のすることといえば、座り込んで君を思い浮かべることばかり。

君が何をするか分かっていたらなあ。

きれいな靴を履いた君は、僕をめちゃくちゃにする。

君なしでは生きていけないよ。

 素敵なあなたと過ごす日々は素晴らしくて、あなたなしでは生きていけないくらい。だけどその関係に破綻が生じているから、君との日々が自分をとことん苦しめる。ここでは一緒にいられることで生じる苦しさが、抜け出せない薬物中毒になぞらえてフォーカスされています。

 

 一方で今回の曲では、恋の成就は叶わないと分かっていても「ずっとあなたに恋してるのだから、共にいられる日々を描くには、まだまだページが必要だね」と歌われています。一緒にいられることの素敵さ、自分の抱く叶わない慕情への肯定あるいは祝福を歌っているような締め括りがとてもこの曲を表していて、とても好きな部分です。

 

 思えば「The Man Who Married A Robot / Love Theme」では、寂しくポツリと世界の片隅で他人との関係を持たず死んでいった男の物語が綴られますが、

He would tell himself 'Man does not live but bread alone'.

「彼は自身にこう言い聞かせた。『人はパンのみにて生きるにあらず。』」

 

 ロボットと結婚したという彼は精神的なよりどころが人間には必要だという意味の慣用句を引き合いに出しており、ここでも彼の日々や感情が彼自身によって肯定されているように思えます。だからこそ「愛のテーマ」なのでしょう。

 

 

 

 

 結成当時のバンド名はDrive Like I Doだったそうですが、The 1975のフロントマンMatty Healyによれば今回の曲は「Drive Like I Doの頃の曲みたいだ。」とのこと。一方で歌詞はこれまでの楽曲で描かれたものとリンクするものが多いと思います。

 様々な音楽性を自身のものとして拡張したような楽曲のリリースが続いたところで、バンドの原点に立ち返ったかのような爽やかでポップな楽曲に恋心を描いた歌詞が乗せられた今回のシングル。果たして来たるアルバムはどのような作品になるのでしょうか。

 

 

Notes On A Conditional Form