音楽紀行(ライブレポ、アルバム感想・レビュー)

ライブに行ったレポートやアルバムの感想・レビュー。好きな音楽を見つけるツールにも

好きなバンドを見にタイへ行った話【後編】

2020年3月、今の状況から振り返るライブというものの素敵さについて

 

(前編はこちら)

yamapip.hatenablog.com

 

 

 2019年9月14日20時30分。タイ、サンダードーム。

 

Go down, soft sound…

 会場が暗転してからお決まりのSEが流れ始めるまで、私は呼吸していない。(体感)

周りの観客たちはまだメンバーができていないにも関わらず、どこから出してんだってくらい歓声を爆発させている。既にそれだけ興奮していたら、メンバーが出てきた瞬間死んじゃうんじゃないか、と心配するくらいだ。

 

 そんなことを言っていたら、メンバーが出てきて真っ先に死にそうになっていたのは自分だった。照明や映像をバックに出てきたメンバーのシルエットを見ただけで、命の限りを尽くして声を上げ拳を挙げ、全身の毛は逆立っていた。8月下旬に行われたレディングフェスティバルでのライブ中継を舐めるように見ていた自分は、もう黄色い照明の光が目に入れば細胞レベルで脊髄反射的に「あの曲」が来ると理解したのだ。

 

 「Wake up! Wake up! Wake up!

 歌い出しからアリーナは地鳴り。ドデカいスピーカーから出る音より明らかに観客の怒号のようなシンガロングのほうがでかい。ライブで聴く音楽と、普段イヤホンで聴いている音楽。骨子となる部分は一緒でもその実質はまるで違うのではないか。きっとライブ会場で鼓膜へと伝わる音楽は、鳴らされた音が会場中の観客たちのエネルギーに反響し化学変化してから届いてるのだろう。

 

 

 国籍なんて関係ない、とは頭で分かっていてもやはり不思議だ。ここはタイで自分は日本人、相対するのはイギリスのバンドだ。みんなで楽しんで、みんなで騒がしく歌っている。魔法みたいだなと素直に思った。 

 バンドのメンバーも楽しげだ。世界中を回り異国の地で音楽を奏でるのはどんな気分なんだろうか。小気味良いMCを挟みつつ公演は進んでいく。

 

 

I think I'm falling, I'm falling for you

 バンド初期に作られた楽曲が披露される。とてつもないシンガロング。「ああ、この国のファンはずっとずっとこの日を待っていたんだなあ。」タイでは4年ぶりの単独公演だったらしい。合唱の雨を全身に浴びながら、「この曲ってこんなに良かったんだ。」と心に染み入る。ファンの方々の愛情が楽曲をより強く輝かしているみたいだった。

 

 

 終盤にさしかかっても、会場は楽しげだ。会場後方ではお酒が進むとばかりに、会場外の売店でビールを買って楽しげに会場と往復する人達がいる。一瞬たりとも見逃すまい、とステージを凝視し拳を突き上げる人達がいる。友人と(もしかしたらその場で知り合った相手かも)肩を組んで、歌いながら写真を撮っている人達がいる。いろんな人達がいる。全く同じ楽しみ方をしてる人なんてきっと二人といない。なのにこの場には人との結び付きを感じるし、疎外感なんてどこ吹く風なんだ。自分もここに居ていいんだ、なんて感じたのはライブの感傷に浸っていたからだろうか。

 

 

Everybody! Jump up and down! Are you ready?

自由気ままに楽しむ、そんな人々に対して「もうこれでラストだから、最後は皆一緒に飛ぼうぜ」とばかりに観客をしゃがませる。そして…。

 

 

One, two, one, two, fuckin'jump!!!

わあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!ピンクの照明に照らされながら、会場中の人々が踏み鳴らした床の音も、割れんばかりの歓声も、アーティストの鳴らす音も、全てを全身に刻み込もう…。そう思いながら喉を嗄れさせ全身汗だくで、最後の音の一滴が消え去ってしまうまでずっとずっと飛び跳ね続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが昨年の夏、日本からはるばる足を運んだタイで見ることのできたThe 1975のライブだった。

 

 

 

 

 

 今の時代、ネットサービスを使っていつでもどこでも様々なコンテンツを楽しめるなかで、わざわざ高い金を払ってチケットを取り、遠いところまで足を運び、たくさんの人々のなかで楽しまなければいけないライブというものは、俗っぽい言い方をすればコスパの悪いコンテンツと言われるものなのかもしれない。

 

 でもその一度きりのライブには、チケット販売に携わる人、ライブを宣伝する人、会場の運営をする人、諸々の手配をする人、ステージを組み上げる人、演出を担う人、カメラマン、音響、アーティスト、そして観客も…数えきれない程の人々が関わっている。想像力を広げればもっともっと…。

  これほど多くの人々の関わりが生み出すたった2時間弱のひととき、それがどんなに美しく素敵で、そしてかけがえのない、当たり前のことだなんて口が裂けても言えない、奇跡のようなものなのか。それは一度会場に足を運んで自分で感じることでしか分かり得ない。

 

 

 

 だから今の状況が落ち着いたときに、この記事を読んでくださったあなたが「今度またライブ行ってみようかな。」なんて思ってくだされば、それだけでこの記事は報われるのだ。でっかい会場でも、こじんまりとした地元のライブハウスでも。ただ好きなものを楽しみに行く場所、私の大好きな場所。

 

The 1975 [Explicit]

 

The 1975「The Birthday Party」歌詞和訳・解釈

 2/20にThe 1975の新曲「The Birthday Party」がリリースされました。4月にリリース予定のアルバム「Notes On A Conditional Form」から5曲目となるシングルは、これまた一転して穏やかな曲調ですが、一方で歌詞やMVはとてもつかみどころのない奇妙な内容になっています。

 

 リリース直前には「Mindshower」と題したサイトが立ち上げ、YouTube上に動画があげられたり各SNS上にアカウントが用意されるなど手の込んだ事前告知がなされ、以下のような内容が発信されています。こちらの内容も踏まえて歌詞を読み解いていきます。

 

 

Begin your own journey and find yourself in our stunning retreat.

(あなただけの旅を始めて、我々の素晴らしい収容所で本当のあなたを見つけましょう)

Mindshower digital detox puts you back in control.

(“マインドシャワー”のデジタルデトックスによってあなた自身の主導権を取り戻しましょう)

Reconnect.Recharge.Rejuvenate.

(再接続、再充電、若返り)

 

 

 和訳だけ読みたい方も多いかと思うので、の部分について註釈は下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただけると、より楽しめると思います。

 

 

 

Hello, there's a place that I've been going

やあ、僕の行っていた場所はここさ(※1)

There's a place that I've been going

僕の行っていた場所はここ

 

Now I'm clean, it would seem

まあ、今では僕もすっかり毒素が抜けきったよ

Let's go somewhere I'll be seen as sad as it seems

どこへでも好きなところへ行こう、僕のことが悲しく思えるかもね(※2)

 

 

I seen Greg and he was like

グレッグと会って、彼はこんなことを言ってたんだ

"I seen your friends at the birthday party, they were kinda fucked up before it  even started

They were gonna go to the Pinegrove show but they didn't know about all the weird stuff

So they just left it"

あんたの友達を誕生日パーティーで見かけたけど、彼ら始まる前から酷かったぜ。Pinegroveのライブに行くつもりだったみたいだけど、彼らがあんなに変な感じだなんて全く知らなかったみたいで、結局すぐ帰ったみたいなんだ。(※3)」

 

And I was wasted and cold, minding my business

で、僕はフラフラになって寒気も止まらなくなった。自業自得なんだけどさ

Then I seen the girls and they were all like

そうしていると僕は女性たちと会った、彼女たちはみんなこんなことを言ってた

"Do you wanna come and get fucked up?"

「一緒に来て私とめちゃくちゃになろうよ」

Listen, I've got myself a Mrs so there can't be any kissing

聞いて、僕には彼女もいるしキスすらできないよ

"No, don't be a fridge, you better wise up, kid

It's all Adderall now, it doesn't make you wanna 'do it' "

「えー、そんな冷たくしないでよ。もっとうまくやりなさい、子供ね。

まあとりあえずアデロール使いなよ。大丈夫「ヤリたい」なんて思うことはないから。(※4)」

 

'This ain't going well'

「これは上手くいかないだろうな」

I thought that I was stuck in hell

地獄にはまり込んだ気分だった

In a boring conversation with a girl called Mel

メルと呼ばれてた女の子と退屈な会話を繰り広げていたからね

About her friend in Cincinnati called 'Matty' as well

なんでも、シンシナティに住んでるという彼女の友人の話。たしかマッティって呼んでた(※5)

 

You pulled away when I went in for the kiss?

キスしようとしたら、君は身をたじろいでたよね

No, it wasn't a diss

いいや、別に気分を害したわけじゃなかったんだけど

 

You put the tap on to cover up the sound of your piss

君が小便の音を鳴らさないようにしてたのは、部屋に盗聴器を仕掛けてたからだったんだね

After 4 years, don't you think I'm over all this?

4年経ったけど、僕がもうこの経験を完全に克服しただなんて思うかい?(※6

 

'That's rich from a man who can't shit in a hotel room

He's gotta share for a bit'

「男なのにホテルの部屋で大便ができないなんておもしろいこと言うのね。

ちょっと分けてあげるくらいの心持ちでいた方が良いのよ」

 

You make a little hobby out of going to the lobby

そう言って君はささやかな楽しみのために、ロビーに出て行った

To get things that they don't have

普通じゃ手に入らないようなものを求めて(※7)

 

Oh does it go though ya?

When I'm talking to ya?

なあ、僕が話してることよく伝わってる?

You know that I could sue ya if we're married

もし僕らが結婚したらいつでも君を訴えられるだろうって分かるだろ

And you fuck up again?

そうなったらまた君は別の男に同じようなことするのかい?(※8)

 

Impress myself with stealth and bad health

こそこそとしてるところとか、不健康なところとか

And my wealth and progressive causes

自分の裕福さとか、育った環境とか、我ながら惚れ惚れするよ(※9

 

 

Drink your kombucha, and buy an Ed Ruscha

紅茶キノコを飲んで、エド・ルシェの作品を買うべきだよ(※10)

Surely it's a print cos I'm not made of it

それは映し出された文字列だ。僕はそれでできてるわけじゃないんだ

Look the fucking state of it!

見なよ!ひどい状態だ

I came pretty late to it

僕はとても遅れてやって来た

We can still be mates cos it's only a picture

僕らはまだ友達でいられるよ、だってそれはただの画面だもん(※11)

 

 

All your friends in one place

君の友達はみんな同じとこにいる

Oh we're a scene, whatever that means

ああ僕らはまるで映画のワンシーンにいるみたいだ、何を意味するかはさておき(※12)

 

I depend on my friends to stay clean

毒素が抜け切ったままでいれるかどうかは、僕の友達にかかってるんだ

As sad as it seems…

悲しく思われるかもしれないね…(※13)

 

 

 

 

解釈・註釈

※1

 語りかけてくるのは、聞き手よりも先に「Mindshower」でセラピーを受けていた人物。

 

 MVにも出てくる「Mindshower」は、自身のアバターをデジタル空間に送ることで、デジタルデトックスを受けて毒素を抜く施設です。MVでスマホを預ける描写からも分かるように、SNSなどネット上の人間関係に日々苦しみ、自身のコントロールもままならないような状態からの回復を目指す=毒素を抜き、クリーンな状態に戻るのが目的。

 

 

Sincerity Is Scary」では

Why would you believe you could control how you're perceived

when at your best you're intermediately versed in your own feeling?

「どうして周りにどう思われるか制御できるって信じているの?全力尽くしたって自分自身の考えさえまともにわからないのにさ。」という一節がありますが、周りからの印象を意識しすぎるあまり自分の言動が縛られたような感覚に陥っている方は実際たくさんいるでしょう。

 

 薬物中毒と恋愛関係を重ねた「It's Not Living (If It's Not With You)」や、リハビリ施設での時間やそこで出会った人物を描いた「Surrounded by Heads and Bodies」など、アルバム「A Brief Inquiry Into Online Relationship」にはボーカルのMatty自身の経験をもとにした楽曲が多くありましたが、当曲においてもこの架空の施設「Mindshower」は、Mattyがかつて自身の薬物中毒を克服するべく通ったリハビリ施設から着想を得ているように思えます。

 

※2

 MVでも分かるように、「Mindshower」では自然溢れるフィールドでセラピーを受けることになります。初めてここを訪れた相手に、話し手である彼はさあどこへ行っても良いですよと促しています。しかしその結果、彼のことを悲しく思うかもしれないと示唆します。それはどうしてなのでしょうか。

 

 さて、ここから聞き手であった「僕」がこれまであった出来事について話し始めます。

 

※3

 Pinegroveアメリカ・ニュージャージー州出身のロックバンドです。2010年に結成され、先月には最新アルバム「Marigold」をリリースしています。

 

 歌詞の「about all the weird stuff」の一節から、海外ではここの一連の歌詞の解釈を巡って一部議論が巻き起こっているようです。

  文脈通りに捉えるならば、彼らはPinegroveのライブに行ったけれど事前に想像していたようなものではなく、仕方なく帰って来て誕生パーティーの会場に着いた頃にはひどい有り様になっていたと読み解けます。

 

 しかし一方で、この一節をPinegroveに実際起きた出来事について述べているのではないかと指摘する方もいます。その出来事についてはこちらのサイトが詳細に説明してくださっているのでご参照ください。

monchicon.jugem.jp

 

 

 私個人は、この曲においてPinegroveを非難するような意図は無いように思います。それは、この楽曲がどこかPinegroveの音楽から影響を受けているように思えるからです。Pinegroveの音楽はエモ・カントリーと表されるような、感情が揺さぶられるような要素と優しく穏やかな要素が合わさったものです。フォークやカントリーに影響を受けたエモーショナルなロックサウンドを持ち味とする彼らの音楽は、同じく優しげなこの「The Birthday Party」にも少なからず何らかのインスピレーションを与えているのではないでしょうか。

 

 また,「I seen your friends at the birthday party They were kinda fucked up before it even started」という一節は、Pinegroveの最も有名な曲のひとつ「Old Friends」の歌詞

I saw your boyfriend at the Port Authority

That's a sort of fucked up place

のオマージュではないか、と一部のファンが指摘しています。奇しくもこの「Old Friends」という楽曲は、バンドのフロントマンであるEvanが近しい友人を亡くした際に古くからの友人の存在の尊さを感じたことから作られたものです。この内容が、「The Birthday Party」の最後の一節に結び付くのだとしたら、やはりここには敬意と愛のあるオマージュが込められているのではないでしょうか。

  

※4

 アデロールとはアメリカを中心にADHDなどの治療薬として販売される配合剤であり、間接型アドレナリン受容体刺激薬アンフェタミンの商品名です。しかしその効用を超えてスマートドラッグとして学生を中心に服用されており、その副作用から問題視されているようです。

wired.jp

 その効力としては集中力の増加など心理的効果や中枢興奮作用など生理学的効果がある一方、依存性・中毒性もあるようです。

ja.wikipedia.org

 

 

 「僕」はアデロールの効用をどこかで聞き齧ったのかもしれません、ただ実際に使ったことがないので信用してないんですね。この薬を服用したら、前後不覚になって恋人を裏切ることになるんじゃないかと訝っている彼に、この女性は「大丈夫だって、気分がハイになるだけよ!」と誤魔化して服用させることで、一緒にホテルの部屋まで来てもらおうと企んでいます。前述したアデロールによる中枢興奮作用により性欲・性感の増加が生じ、いわば媚薬としての効力を期待しているんですね。とても慣れた手口のようです。

 

※5

 シンシナティは、アメリカ・オハイオ州にある都市です。日本では岐阜市姉妹都市協定を結んでいます・

www.gousa.jp

 

※6

 女性はトイレに行ってもなるべく音を立てないようにしていたことに「僕」はうすうす気づいていたのでしょうが、初めは恥ずかしさからの行動だろうと思っていたのかもしれません。真相は、彼女は盗聴器をトイレに仕掛けていたので自分の発する音は録音されないようにいたということだったのです。

 

 「僕」はこの4年前の出来事を克服できていないと示唆していますが、これは盗聴されていたという事実だけがトラウマになっているということでしょうか。※9以降で触れていますが、「僕」はこそこそと過ごさなくてはならない自分に嫌気がさしていて、SNSなどネット上の言葉に縛られるなと指摘されています。

 完全に想像ですが、盗聴された内容はネット上にアップされて広まってしまったのではないでしょうか。一度ネットに広まってしまったものは、一生完全に消し去ることはできません。だからこそ、4年経とうがこの出来事を克服することなんて不可能ですし、「僕」はずっとネット上の言葉に怯えて過ごすことを強いられているのではないかと思います。そうして精神はどんどん疲弊していったのでしょう。

 

 

 脱線しますが、イギリスでは2016年に政府のデジタル通信規制法案に反対するべくユニークな企画が行われ話題になりました。トイレは人々にとって一番プライベートな空間だ、ということに着目したプライバシー保護の主張はとても面白いですね。

adgang.jp

 

 

※7

 なんとなくホテルの部屋に自分以外の人物、それも異性がいるときに堂々と今から大便しますよって気分にはなりませんよね。だからこの女性は、それとなく部屋を出てロビーに向かったんですね。全ては普通なら手に入らないような音源を手にいれるために…。

 

 余談ですが、トイレの音消しは日本特有だそうです。

hbol.jp

 

※8

 もちろん本人の同意なく盗聴することはアウトなので、結婚して家族になったとしても盗聴を続けているならいつでも相手のことを訴えることは可能でしょう。でもいくら彼女を糾弾しても、どうせまた別の男を誘って同じようなことをするんだろうな、と考えると徒労に思えて、結局「僕」は彼女を訴えることはしなかったのでしょう。訴えたところで盗聴された事実は消えません。

 

※9

 散々な出来事の果てに精神が疲弊した様子が、皮肉めいたこの一節から感じられるように思えます。

 

※10

 これまでの出来事について独白を続けてきた「僕」に対して、冒頭の話し手はここで再び声を掛けます。

 

 「Kombucha」とは昆布茶じゃなく、お茶を発酵させてつくる「紅茶キノコ」をことだそうで、海外では健康に良い人気の飲み物のひとつだそうです。「不健康」な「僕」に対し、健康を取り戻せ、というわけですね。

ellecafe.jp

 

 エド・ルシェアメリカの画家であり、現代芸術の偉大なアーティストの一人です。彼の作品は言語にフォーカスを当てたものも多く、つまりはここから言葉というものに比重をおいたメッセージが続くことを暗示してるように思えます。こちらは「僕」の「こそこそとしてるところ」に対するアプローチですね。

www.diptyqueparis-memento.com

matome.naver.jp

 

※11

 話し手はここでは、聞き手である「僕」が言葉というものに振り回されすぎだと指摘しているのではないでしょうか。人間は「print」=言葉や文章が書き写されたもので構成されているわけではない。つまりは現代に置き換えるなら、SNSやネット上の言葉に自身を縛られるべきじゃないと。縛られた自身の状況を見てみれば、ひどい状態だとわかるはずだと訴えかけているように思います。

 

 話し手自身もだいぶ遅れて、つまり精神的にひどい状況になってから「Mindshower」を訪れたと述べています。「picture」とは映像や画面を指すこともありますが、しきりにスマホの画面を見る=SNS上の人間関係を気にする「僕」に対して、「それは僕らが友人同士であることに対して、何の問題にもならないよ」と優しく声をかけているのではないかと私は解釈しました。

 

※12

 あなたの友達もたくさん1か所に集まっている、つまり「Mindshower」の施設で待っているということでしょうか。MVを見ても分かるように、施設に入ればまるで映画のようなファンタジーに身を置くことになります。もちろん自身のアバターを送るわけであり、仮想世界に過ぎないのですが。

 

※13

 デジタル・デトックスがうまくいってクリーンな状態になっても、結局その状態を保つにはこの「Mindshower」で出会った友達(MVに登場する珍妙なキャラクターたち)の存在が不可欠だというのです。また現実世界に戻っても、やはり友達との付き合いがクリーンに戻った精神の状態を再び左右することは確かでしょう。

 ある意味じゃここにも「Mindshower」に対する新たな中毒あるいは依存があると言えます。だからこそ彼の姿は人によっては同情的に見えるかもしれません。

  前述の通りモチーフとなっている薬物中毒の克服も、中毒者本人の周囲の人々の協力が極めて重要だといわれます。

 

おまけ

 今回のMVにはインターネット上のミームをもとにしたキャラクターたちが多数登場します。ミームとは生物学的な遺伝子ではなく文化や習慣などを次世代へと伝える情報を指します。

app-flamingo.com

 ミームについては、Metal Gear Solidシリーズなどを手掛けゲームクリエイターとしても有名な小島秀夫監督がミームに触れているエッセイがあり、読み物としてもおすすめです。

www.bookbang.jp

 

 MVの内容についてはMatty本人のインタビュー記事がとても参考になると思いますので是非。

www.dazeddigital.com

 

 

【Amazon.co.jp限定】仮定形に関する注釈(特典:正方形ビジュアルシート付)

 

 

 

 

 

【インタビュー】LoneMoon

 'It's shoving down everyone's throat that I'm a girl and I'm staying here.'

ー私はひとりの女の子で、そして今ここにいるんだ、ということをあらゆる人たちに強く叩きつけるんだ。ー

 

 

 2013年より音楽活動を始め、リリースした楽曲「NAW NAW」や「fall」が100万回以上ストリーミング再生されるなど世界中で多くの注目を集めているのがLoneMoonことLuna C.A. Starleyです。2019年に最新アルバム「andromeda」をリリースしたばかり、そして今年2月14日には早くも新作がリリース予定。

 

 この度アーティスト本人のご厚意により、なんとインタビューが実現しました!自身のアイデンティティからその音楽性、好きなアーティスト、日本との深い関係性まで語ってくださっています。

 

 私が今とても大好きなアーティストです!多くの方々がこのインタビューを読んで、楽曲を聴くきっかけになれば幸いです。

 

 

ー今回はインタビューに応えてくださり、ありがとうございます!

では初めに、あなたにとって「名前」というものがとても大切なものだと伺いました。"Luna"という名前やアーティスト名"LoneMoon"に何か特別な意味合いはありますか?

 

LoneMoon:私の姉妹は地球で一番大切な存在。幼少期はAlbuquerque(※1)に住んでたんだけど、私たちはよく夜を共にしていて、彼女はよく月を見上げていたのを覚えてる。そのとき見上げていた月のように、ただ彼女にとっての美しい存在でいたいなと思ったことが由来なんだ。

 (※1)アルバカーキアメリカ合衆国ニューメキシコ州にある都市。

 

 

ー先日リリースされたアルバム「andromeda」をあなたは「本当の意味でのデビュー作」と表していますが、この作品の気に入っている部分はどこですか?

 

LoneMoon:全てだね。このアルバムは自分で聴いても楽しめるし、1曲も嫌になるような曲は無いから。そんなアルバムを作れたのは初めてだったんだ。これは私にとってはとても重要なこと。長い間ずっと続いた自己嫌悪の日々にようやくこのアルバムで終止符を打てたと思うよ。

 

 

ー「andromeda」で描いたテーマは何ですか?収録曲である「why me」「new 2me」は感情の揺らぎを描いているように思えますが、一方で「ur luv」「www」はとてもパワフルでエネルギーに溢れた楽曲だと思いました。

 

LoneMoon:もし「andromeda」から1つメッセージを伝えられるとしたら、何よりも、私はホモセクシャルの女性だということ。

 

「andromeda」は自己愛の証。「why me」「new 2me」はどちらも過去に彼女と別れたときのことを書いた曲なんだ。私にとって2019年のほぼすべて、8か月間まるごと彼女のことでいっぱいだった。なのになんてことだか…ほんとにひどくて散々だったよ。

 

「why me」は恋ゆえに生じる不安を歌ってる。「こうだったら…」という思いが延々とぐるぐる巡り、何ができたかな、良かったかな悪かったなとどうしても考えてしまうよね。問題事というものは忘れることはできても、ずっと付いてくるもの。もちろん、相手との関係が終わってしまうまでね。

 

 

「new 2me」はまさしく苦い経験。あなたはただ親しい女性の一人に過ぎない、ただの一夜限りの関係なんだと強調する曲。(とんでもなく長い間、関係があったにもかかわらずね。)で、「Horses in the Stable」(※2)をかけるんだよね。フーフー!!

(※2)Ty Dolla $ignによる楽曲

 

「ur luv」は最高にヤバくてイケてる女の子のアンセムだね。私はひとりの女の子で、そして今ここにいるんだ、ということをあらゆる人たちに強く叩きつけるんだ。何をしたってケチをつけるのが好きなやつは文句を言うからね。そんなの気にしても仕方ないから、そしたらもうLSDでもキメちゃう。

 

 

「www」は文字通り、笑い、自信、そしてクソ楽しい経験について。あんまりくだらなすぎて、もうファン達に唾を吐きかけたいくらい。

 

 

ーあなたはSkrillexSnoop Dogg,Lil Uzi Vertなどにとても影響を受けたと伺いました。ここ最近よく聴くアーティストはいますか?

 

LoneMoon:Lil Uzi Vertはこんな風に歌っていて、とても気分を害してる。

All my bitches tens, no, I do not fuck no fans

I was checkin' my DMs, found out she was a man(No,no,no)

I can't DM, never, ever again (No)

(※3)「That's a Rack」の一節。

 

トランスジェンダーの黒人女性として、こんな明け透けな悪口は聴くに堪えない。ここ数年、世界で一番彼のことが好きだったのに。Lil Uziのケツにレンチを6フィートくらいぶっ刺してやりたい!

 

Snoop Doggのことはとても愛してる。どこで私が彼に影響を受けたって知ったの?「Nava Left」はとても素晴らしいアルバム。

 

2014年に私はSkrillexのライブを見に行ったんだ。彼がちょうど「Recess」(※4)を引っ提げてツアーを回っていた頃。これまでの人生で一番のライブだったよ!ねえ、これを今これを読んでくれてるなら、あなたが大好き。いつか彼の音楽を聴いて一緒に涙を流したいものだね。

 (※4)2014年にSkrillexがリリースしたアルバム。

 

 

ーリリース予定のミックステープ「VALENTINE」はどんな作品になりますか?先行シングル「Spinning(lonemoon remix)」はとてもクールで、より自由度の高い作品なのではないかと予想してるのですが。

 

 

LoneMoon:「VALENTINE」はめちゃくちゃいい作品。2月14日のバレンタインデーにリリースするよ!日本ではこの日が休みなのかわからないのだけど…。「Spinning(lonemoon remix)」がクールだと思ってもらえて嬉しいよ。この曲はとても美しい歌声を持った地元の歌手の曲をリミックスしたんだ。(※5)彼女はとても素敵で、たった一日で打ち解けるくらい愛してる。

 

(※5)「Spinning」はオクラハマ州を拠点とするシンガーソングライターMaddie Razookによる楽曲。

 

 

ー最後になりますが、あなたが日本のことを愛してくださっていると伺ってとても嬉しいです。興味のある日本の文化はありますか?過去には日本に住んでいたこともあるんですよね?

 

LoneMoon:日本のすべての文化に興味があるよ!とってもとっても!!

私は厚木の米軍基地に6年間住んでたんだ。その頃ちょうど「大乱闘スーパースマッシュブラザーズDX」(※6)が発売して、何年やってもミュウツーにボコボコにされたな。あの野郎!

(※6)2001年に発売された対戦アクションゲーム。ミュウツーポケットモンスターシリーズの登場キャラクターで、本作には隠しキャラとして登場する。

 

日本のことはとても愛しているよ。人々も、食べ物も、エネルギーも、全部。

私の父は軍人で、厚木基地に駐在していたんだ。母親は基地の近所で英語を教えてた。(私は幼少期のほとんどは自宅教育だった。)

私は新幹線がとても好きだったな…自宅教育を受けていた頃からずっと。休日には誰もいないような場所にまで行って、日本そのものをただただ楽しんでいたんだ。

日本のテクノロジーに感動を覚えない日はないだろうね。あなたの住む日本の全てが大好き! 

今回はありがとう!!!

 

ーこちらこそありがとうございました!!

 

 

 

 

 アーティスト紹介:LoneMoon


f:id:yamapip:20200207142156j:image

 SoundCloudにて2013年から音源を公開し始め、2017年にリリースしたアルバム「forgiveness」のリードシングル「fall」は特に注目を浴び、自身にとって初めて100万回以上ストリーミング再生された楽曲となる。その後も「Better Luck Next Time」など多くのアルバムを精力的にリリースし、2018年にリリースした楽曲「NAW NAW」はSpotifyにて200万回以上再生されるなど、より多くの注目を集めることになる。現在オクラハマ州を拠点に活動する。

 ルーツとなったエレクトロミュージックから、ゴスペル、80年代ポップ、ジャズ、クラシックなど様々なジャンルの音楽を横断し、ヒップホップの領域へと発展した音楽が特徴。

  2019年には「my real debut」と称した最新アルバム「andromeda」をリリース、2月14日にはミックステープ「VALENTINE」をリリース予定。

 

アルバムジャケ博覧会2019

 年に一度の祭典「アルバムジャケ博覧会」がやって参りました!

 

 過去にやった企画、そして昨年より自分で始めたジャケ買いならぬ「新譜ジャケ聴き」をもとに、アルバムのアートワークをきっかけに聴き激ハマりした選りすぐりの10枚を紹介します!対象作品は2019年にリリースされたフルアルバムのみ、そしてアーティスト等の前情報は一切持たずにジャケ写のみを判断材料にして知った作品とします。

 

 それでは早速紹介していきます!是非ともこのこじんまりとした博覧会をお楽しみくださいませ。

 

 

「Brightness」/Brightness

open.spotify.com

今年出たロックの中で最も好きな作品のひとつ。かっこよくて美しい、ジャケ通りだ。

 

「Cease & Desist」/Blarf

 

狂気漂うジャケから今年一イカれたトラックが飛び出すスペクタクル。

 

「Parts of Anything」/Forgetter

open.spotify.com

理路整然と完成された世界観のなかで、その才気を自由自在に爆発させる艶かしさ。

ここでしか聴けない音楽。

 

「Fragments」/Drinker

open.spotify.com

無機質なジャケットに、無機質なエレクトロ。でも感情が動かされるのが芸術の素敵なところではないか。

 

「andromeda」/LoneMoon

open.spotify.com

あらゆるジャンルが渾然一体となった果てに見える、2019年最後のヒップホップの傑作。

 

「YOUR PSYCHE'S RAINBOW PANORAMA」/Tony Njoku

open.spotify.com

サイケの海に抱かれながら、エレクトロの暴力に溺れる。とんでもねえ…。

 

「Feeling's Not A Tempo」/Gemma

open.spotify.com

心踊るポップ、でもただ空虚に踊るは退屈であり、豊潤さ故にこの作品が愛しい。

 

「She Won't Make Sense」/The Harmaleighs

open.spotify.com

女性二人が横たわってるジャケットを導火線に、儚くて仄かに暖かいものが心に届く。

 

「Goodnight Paradise」/Graveyard Club

open.spotify.com

部屋の電気を消し漏れ入る街灯の明かりと共に眠るなら、この作品と一緒にいたい。

「Turkey Dinner」/Pinky Pinky

open.spotify.com

さあパーティーだ、ターキー持ってこい!私たちはひとしきり騒ぐぞ!そんな音楽。

 

 

 

 お楽しみいただけましたでしょうか?博覧会に訪れてくださった方にとって音楽との素敵な出会いがありますように。

 

 気が向いたらまたやります、いろんな方々ともまたやれると嬉しいな。

 

 

 

【第2回】新譜オススメ(Roniit)

「XIXI」/ Roniit

 Roniitは「カリフォルニアの森の中」出身で、現在はバリを活動拠点としているという女性アーティスト。彼女の音楽はとにかくお伽話の世界の中にいるかのように錯覚する深みある神秘性と透き通る歌声が特徴です。Roniit自身も今作を聴く際にはその音楽に浸ってもらうべく「部屋を真っ暗にして聴くといいよ」とおすすめしています。「XIXI」とは、彼女曰く「人生における運命めいたもの」のシンボルであり、彼女自身の生まれた月日の合計、年と日付の合計が偶然それぞれ11だったことから気に入り昔から至る所に書いていたというユニークなエピソードもあるようです。

 

 今作からのシングル曲「Fade To Blue」はイチオシの曲で、彼女の音楽にしか生み出し得ない特異な世界観に一発で心を鷲掴みされます。彼女自身の幻だったかのような恋と揺れ動く感情をもとにしたこの曲は、思慕していた相手と訪れたヨシュアツリーにて夜明けと共に相手が消え失せた体験から、夜空が日の出と共に青くなる様をタイトルにつけたとのこと。MVのRoniit自身がビジュアル面も担当して幻想的な映像作品に仕上がっています。

 

 アルバム通じての世界観がとにかく聴き手をのめり込ませる圧巻のアルバムだと思います、ぜひ。

XIXI