音楽紀行(ライブレポ、アルバム感想・レビュー)

ライブに行ったレポートやアルバムの感想・レビュー。好きな音楽を見つけるツールにも

今週の新譜感想(4/10)

自宅に長くいる間の日記代わりです。

 

楽しみにしてた新譜コーナー

「The New Abnormal」/ The Strokes

ザ・ニュー・アブノーマル (通常盤)

今年のフジロックにも2日目のヘッドライナーとして出演するストロークスによる7年ぶりの6thアルバム

 

自分は1stアルバム「Is This it」をリリースしガレージロックリバイバルの旗手として名を馳せた頃の姿は知らず、その頃の音楽性にもこだわりはない。彼らの作品で一番好きなのは5thアルバム「Comedown Machine」だ。そういう前提で読んで欲しい感想。

新たな異端性」と訳せるようなタイトルに、これまでのイメージを再び覆す作品になるのだろうかと考えていた。それはリリース前に公開していた新曲「Bad Decisions」の示唆的なMVからも思ったのだが、アルバムを一聴しての感想は前作以降の歩みを形にした作品だなというもの。

 

 

それではアルバムを再生してからの大まかな感想実況。

The Adults Are Talking」か、かっこいい…早朝からガッツポーズしてみる。ギターのフレーズと音作りはクールだし、エレクトロを彷彿とするドラムのリズムに身体は踊りだす。ジュリアン・カサブランカスの歌声は無敵。

Selfless」たしかアルバム告知の動画で流れてたイントロだよなあ。勢いだけで押さない引きの美学輝くロック気持ちいい。

Brooklyn Bridge To Chorusシンセサイザーもブリブリ鳴ってるなあ。いややっぱかっこいいでしょこの作品!かっこいいかっこいいかっこいい!前作が好きすぎるからって抑えめにしてた低めのハードルを倉庫に片付けておいた。でかめのやつに取り替える。

Bad Decisions」これが先行曲の中では一番これまでの路線を感じさせる曲だった。でもこうして流れで聴くとより鮮明に、過去の焼き直しではなくバンドが培ってきたサウンドをうまく昇華して進化したのだということを感じる。

Eternal Summerフジロックで夜風に吹かれながら聴くと気持ちいいだろうな、という情景を想像した。たしかに夏も終わりって時期だ。

At The Door」最初に公開された先行曲。「Bad Decisons」から先に公開した方が良かったのでは、という声もあったが、自分にとってはこの順番でありがたかった。なぜなら「こういう曲が収録されて、いったいアルバムはどんな作品になるんだろう?」という想像を掻き立ててくれたから。そしてリリースから今日までの2か月重ねた想像の答え合わせをするかのようにここまでアルバムを聴いてきて、この曲に辿り着くという流れはすごく気持ちよかった。もう終盤、ラスト3曲だ

Why Are Sunday's So Depressing」前作の流れも感じつつ、ノスタルジーが零れ出る。あんまり御託はいらないか。でもここにギターが鳴っていることは嬉しいな。

Not The Same Anymore」うっとりしてくる音楽。ここではどのようなことが描かれているのだろうか。自分は初聴時に歌詞を読まないが、レコードが届いたら目を通してみよう。

Ode To The Mets」終わりを感じる曲はアルバムを美しく締めくくるには不可欠。落ち着いた曲調、細かな部分まで行き届いた演奏はもちろんだけど、やっぱり歌声が全てを特別にする。

 

 

「新たな異端性」という題目は今作での彼ら自身の音楽を指すと思うけど、前作から7年の間に音楽シーンは様々変化しており、その間バンドは自身の音楽性を捨てることなくメンバー各人のソロ活動で得た要素を手に歩みを進めた。その結実は果たして今の音楽シーンにおいてどんな存在なのか。そんな問いかけであったかのように思う。私にとってはそれがスペシャルに聴こえたという話でした。

 

Best Track:「The Adults Are Talking」 

 

「ニュース」/ 東京事変

ニュース(初回限定仕様)

今年の元日に復活を遂げたロックバンド

 

今作には新年早速度肝を抜いた新曲「選ばれざる国民」や、まさかのコナン劇場版主題歌タイアップ「永遠の存在証明」など収録されているが、5曲とも耳に残る楽曲でEP自体の流れもスムーズに感じた。中学生の頃聴いてたときよりもあまり癖の少ない印象だったのは今作での特徴なのか、それとも自分の感覚の変容なのかはよくわからない。

 

Best Track:「永遠の存在証明」

 

紹介してもらった新譜コーナー

「Humor」/ Pearl Center

Humor

4人組バンドPearl CenterのデビューEP

 

自主制作でリリースしたEPに次ぐ2枚目のEPとのこと。おすすめされているのを見かけて「穏やかそうな音楽かなあ」なんてジャケットを見ながら想像していたが、とんでもない!気持ちよくて刺激の溢れる音楽だ。どんなライブになるんだろう?という好奇心が湧いてくる。ちょーかっこいい!「Humor」を聴いて、いえい!いえい!いえい!と嬉しくなってきた。EPが終わるころにはキラキラした音楽に魅せられていました。

 

Best Track:「Humor」

 

 

ジャケ聴きした新譜コーナー

(アルバムのアートワーク見て聴いてみた作品)

 「BREVE II」/ Tessa Ia

BREVE II

Tessa IaによるEP二部作の2作目

 

Tessa Iaはメキシコ出身で、女優・歌手として活躍。

女優業で有名なのは主演した2012年公開映画「Después de Lucía(邦題:父の秘密)」で、この作品はカンヌ国際映画祭でも「ある視点」部門グランプリを受賞している。

楽曲の話に戻ると、メキシコの公用語であるスペイン語?で歌っていると思われるが、やはりその語感は独特のリズム感みたいなのを作ってくれるように思う。ジャンルはインディーポップかな、ジャンル分けはよくわからないので参考になりません。ドラムがしっかり鳴ってて、ポップなトラックにアコギの音色が混じってるのでオーガニックさマシマシ。こういう音楽を好んで聴くが前述の語感のおかげもあり、とても新鮮に感じる。勝手なイメージのせいか情熱的にさえ聴こえてくる、日本の歌謡曲スペイン語でカバーなんてハマりそうだけどどうだろうか。今年はどんどんアメリカやイギリスばかりでなくいろんな国の音楽を聴いていこう。脇道に逸れていった感想。

 

Best Track: 「Cooleros」

 

 

「Mothertime」/ Kalbells

Mothertime

アメリカNY州のアーティストKalmia Traverによるソロ活動Kalbellsの新EP

 

アートワークめちゃくちゃ良くないですか?って話を延々としていたいのだが、音楽の話をするとすごくトラックが面白い。アコギ主体のカントリー・ポップかなとジャケットやアー写なんかで想像を膨らませていたのだが、しょっぱなの「Mothertime」からエレクトロとシンセサイザーで大暴れの大回しじゃ!(ノブ風)90分後に自分で読み返して寒さに悶えてそうな言い回しは置いといて、この作品はとにかくいろんな音が聴こえてくるので耳がイキイキしてくる。こんなに自由気ままに音色を重ねていてもポップさが押し迫ってくるように感じるのは彼女の歌声がベリースペシャルだからかな。いそうでいなかったポップミュージシャン!話を戻すと、これまでの作品のアートワークやアー写が素晴らしいので是非。

 

Best Track: 「Precipice」

 

 

ちなみに今週一番聴いていたのは"「Heaven To Tortured Mind」/ Yves Tumor"でした。今のところ今年ダントツ好きなアルバム。特に好きな曲は「Dream Palette」です。ずっと家でレコード回して聴いてます。生活の中で他によく聴いている音楽と言えば、絶賛プレイ中のFinal Fantasy VII Remakeでのサントラでしょうか。こちらもゲーム同様良きです。

来週も素敵な音楽を聴けますように。

Heaven To A Tortured Mind [解説・歌詞対訳 / ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC635)

 

 

The 1975「Jesus Christ 2005 God Bless America」歌詞和訳・解釈

 4/3にThe 1975の新曲「Jesus Christ 2005 God Bless America

がリリースされました。同時にアルバム「Notes On A Coditional Form」のリリースが5月22日に決まり、トラックリストも公開されています。当曲はアルバムの9曲目に収録される予定です。

 

 これまでも様々な形で愛について描いてきましたが、今回の楽曲は愛情と宗教の関係について述べられた、さらに1歩踏み込んだ内容となっています。また客演としてPhoebe Bridgersが参加しています。彼女が共にボーカルを務めている意義なんかも想像しながら歌詞を読み解くとまた発見があるように思います。

 

 和訳だけ読みたい方も多いかと思うので、の部分について註釈は下段にまとめています。歌詞の内容が気になる方はそちらもご一読いただくと、より楽しめると思います。

 

 

I'm in love with Jesus Christ

He's so nice

イエス・キリストよ、私はあなたを愛します(※1)

とても素晴らしき御方

 

I'm in love, I'll say it twice

I'm in love

私は愛する、何度もそう繰り返す

私は愛するのだと

 

I'm in love but I'm feeling low

For I am just a footprint in the snow

私は恋する人間だ、だけど私の心は落ち込むばかり

降り積もった雪に残される足跡のような存在でしかないのだから(※2)

I'm in love with a boy

I know

But That's a feeling I can never show

私は男の子に恋をしている

自覚していても、この感情を人には見せられない(※3)

 

Fortunately I believe, lucky me

幸い僕は信心深い、きっと良いことがあるだろう(※4)

Searching for planes In the sea, that's irony

僕はずっと海を漂いながら飛行機を探してる

ああ、皮肉なものだ(※5)

Soil just needs water to be and a seed

So if we turn into a tree, can I be the leaves?

大地はただ水と種子を求める

ならばもし僕らが樹木になってしまったなら、

僕はその枝に茂る葉でいられるだろうか(※6)

 

I'm in love with the girl next door

私は普通の女の子が好きだ(※7)

Her name is Claire

彼女の名はClaire

Nice when she comes round to call 

彼女がうちに来てくれていい気分

Then masturbate the second she's not there

だから彼女が帰ったらすぐマスターベーションするんだ

 

Fortunately I believe, lucky me

幸い私は信心深い、きっと良いことあるよね

Searching for planes In the sea, that's irony

私はさ、海に漂いながら飛行機を探してるの

ああ、皮肉だな

Soil just needs water to be and a seed

So if we turn into a tree, can I be the leaves?

大地はただ水と種子を求める

それならばもし私たちが樹木になってしまったなら、

私はその枝に茂る葉でいられるのかな

 

 

解釈・註釈

 

※1

 イエスキリストを愛します、というのはまさしくキリスト教の信仰を意味します。

「I'm in love with Jesus Christ」に似たような表現は教会の礼拝で歌われる讃美歌でも目にするもので、シカゴの著名なクワイア(ゴスペル聖歌隊)であるNew Directionが2004年にリリースしたアルバム「Rain」にも「I'm In Love With Jesus」という楽曲が収録されています。

(New Directionは1994年に若者を中心に結成されたクワイアで、グラミー賞にもノミネートされるなど活躍するクワイアです。)

www.newhavenrecords.com

 

※2

 自分の存在が雪の足跡のようだ、というのはどういうことでしょうか。私は2つの意味合いが込められているように思えます。

1つは自分の存在が真っ白で美しい雪を汚すものだということ。

もう1つは雪に残った足跡はその後も雪が降り続けるうちに消えてしまうように、自分の存在もこの大きな世界においては塗りつぶされてしまうのではないかということ。

 

 ここでの「僕」は誰かに恋をしているのに、日々気分が落ち込んでいくばかり。それは恋の駆け引きがうまくいかないだとか、そういう次元の話ではないことがここから述べられていきます。その内容を踏まえてようやく雪の足跡の比喩が指すものが分かるはずです。

 

※3

 「僕」は男の子のことが好きである、つまり同性愛あるいは両性愛なのだと明かされます。

 1月にリリースした楽曲「Me & You Together Song」ではクィアの主人公が登場しましたが、この楽曲での「僕」はまた別の悩みを抱えています。ここで問題になっているのは自身の信仰との関わり。

キリスト教においては、聖書の解釈の違いから同性愛について断罪から受容まで様々な考えがあるようです。

キリスト教と同性愛 - Wikipedia

 

「僕」は先述の通り信仰心の厚い人物ですが、キリスト教徒の間では同性愛を禁じるべきだという考えの人々も多い。従って自身の感情を人には伝えられないのです。

ここで先ほどの※2での雪の足跡の例えを振り返ると、この表現は清廉な教えであるキリスト教の中で、自分はその綺麗さを汚す異端なのではないかということを言っているように思えます。

 

 

 現実のアメリカに目を向けます。

2009年には、アメリカで聖書を厳格に解釈する聖職者たちを中心に「マンハッタン宣言」が発表され、同性婚に反対することが宣言されています。

www.christiantoday.co.jp

 

2015年にインディアナ州で成立した「宗教の自由回復法」が物議を呼び、宗教を理由にしたLGBTへの法的差別を許容するのではないかと指摘された。

www.huffingtonpost.jp

 

今年に入ってもキリスト教界が意見の不一致から揺れ動いている現状が報じられています。

the-liberty.com

 

 

※4

 信仰者には主の御加護がある、だからきっと自分にも救いがあることでしょう。

こうした信心も先で述べたような自身のアイデンティティと宗教の教えの乖離の前では無意味かもしれない、ということをここでは皮肉めいて述べているのではないでしょうか。

 

※5

 「僕」は海で飛行機を探し続けている、けれでそれは一生見つかりっこないでしょう。なぜなら海を行くのは船であり、飛行機は空を行くのだから。もしくは墜落した飛行機の残骸なら見つけることができるでしょうか。どちらにしても、自身の感情と信仰との間で答えは見つからないことを表しているように思います。

 

※6

 ここに出てくる「大地」「水」「種子」「樹木」というのは、キリスト教における聖書においても度々出てくるモチーフでもあります。

 大地と言えば地母神。「水」は生命の源や浄化を表したり、「ヨハネによる福音書4章」では「渇かない水」についての説話が登場します。「種子」について想起されるのは「マタイによる福音書13章」の「種を蒔く人」についての説話で、ミレーやゴッホによる絵画が有名でしょうか。「樹木」は「詩篇1篇」において流れのほとりに真っすぐ立つ樹木が信仰者の例えとして用いられます。

 

 歌詞を書くにあたって意識されているのかは定かではありませんが、宗教に明るい人々にとってはどう感じられるのでしょうか。

 

 ちなみに前作「A Brief Inquiry Into Online Relationships」に収録された「Man Who Married A Robot」では

"Man does not live by bread alone"

「人はパンのみにて生くるにあらず」という言葉を「マタイによる福音書4章」から引用しています。

 

 

 さて宗教での表現を頭の隅に置きつつ、ここでの比喩表現を検討します。

「大地」→「水・種子」→「樹木」→「葉」という並びを、自分は

「世界・人類」→「生命・子孫」→「社会・世俗」→「人(構成員)」と捉えました。

 

大地が水や種子を求めるのは、それらが生命の源だから。言い換えると世界・人類が繁栄、永続していくのに不可欠なのは生命であり子孫でしょう。

水を得た種子は大地で育ち、やがて樹木へ変わるでしょう。同じように、生まれてきた人々は様々な学びを得て大人となり、人々は社会を構築していくと思います。

そして樹木はまさしく枝に茂る葉が集まってその姿を現しています。そう考えるならば、ここでは社会を構成する1人1人を指し示しているのでしょうか。

 

 ここでは何が述べられているか。「僕」は「葉」でいられるのかという言葉をここまで検討した比喩の解釈をもとに考えるなら、同性愛・両性愛である自分たちの存在は社会に許容されないのか?という問いなのではないでしょうか。

生命の仕組みゆえに、子孫を生み出し後世に残せるのは男女の交わりであるという事実があります。それならば、世界・人類の礎である生命を生み出す異性愛者以外の存在は社会の一員として許容されないのか、という悲痛なメッセージだと私は捉えます。

 

先ほどの※2での雪の足跡の例えに戻ります。私が捉えた2つ目の意味合いは、「雪に残った足跡はその後も雪が降り続けるうちに消えてしまうように、自分の存在もこの大きな世界においては塗りつぶされてしまうのではないかということ。」というものでした。つまり異性愛者以外が排除されて真っ白な状態(多様性の喪失)にされることへの不安・苦悩を表しているのではないかと私は感じたのです。

 

 

※7

 ここからメインボーカルはPhoebe Bridgersに入れ替わります。

Phoebe Bridgersはロサンゼルス出身のアーティスト。若いうちから活躍し2017年にリリースしたデビューアルバム「Stranger In The Alps」は世界中で話題を呼びました。2019年には来日公演も行っています。

 

 

彼女は自身がバイセクシャルであることを公言しています。

(こちらは英文記事ですが、彼女が自身について語っています。)

Phoebe Bridgers Embraces Her Inner Sext Machine | BeatRoute Magazine

 

 ここから続く歌詞は「僕」から視点が切り替わり、Claireに恋をする「私」が描かれています。アメリカに住むPhoebe Bridgersと「私」は、歌声を通じてパーソナルな部分でリンクしているように私は感じます。

 

 ちなみに「the girl next door」とは、「お隣に住む女の子」ではなく「どこにでもいるような素朴な女の子」という意味の表現のようです。ここでの「私」は、劇的な何かが起こったり、特別なことをしてその女性を愛したわけじゃなく、自然と好きになったということを言っているのではないでしょうか。恋が誰にとってもそうであるように。

 

 

 

  最後にタイトルについて。アメリカ合衆国は建国からキリスト教との結びつきが強く、国民の多数がキリスト教徒だそうです。特にプロテスタントの比率が多く、また様々な教派が存在する中で、その様々な思想とのかかわりから国内の様々な州で同性婚や人工中絶について議論が多いです。

アメリカ合衆国の現代キリスト教 - Wikipedia

その現状を指して、「God Bless America(アメリカに神の祝福を)」というタイトルをつけたのはかなり踏み込んだ表現であるように思えます。

 

ちなみにこの「アメリカに神の祝福を」という言葉は、政治家のスピーチにもよく締めの言葉として用いられるそうです。

tsukaueigo.com

 

 

同性愛・両性愛と宗教との結びつきという楽曲のテーマは宗教に疎い自分にとっては馴染みづらいものに思えますが、より大きく「多様性」を大事にしようというメッセージにも捉えられます。こういうときに私はアーティストであるKamasi Washingtonの言った「多様性は祝福されるべき」という言葉を思い出しますね。

 いよいよアルバムの全容が見えつつありますが、今回の楽曲からもとても期待値が上がりますね。「仮定形に関する注釈」というお決まりの和訳がついたアルバムタイトルからも、「様々な立場にいる人々の悩み・問題」を描く内容なのではないか、と勝手に想像してます。

【Amazon.co.jp限定】仮定形に関する注釈(特典:正方形ビジュアルシート付)

 

好きなバンドを見にタイへ行った話【後編】

2020年3月、今の状況から振り返るライブというものの素敵さについて

 

(前編はこちら)

yamapip.hatenablog.com

 

 

 2019年9月14日20時30分。タイ、サンダードーム。

 

Go down, soft sound…

 会場が暗転してからお決まりのSEが流れ始めるまで、私は呼吸していない。(体感)

周りの観客たちはまだメンバーができていないにも関わらず、どこから出してんだってくらい歓声を爆発させている。既にそれだけ興奮していたら、メンバーが出てきた瞬間死んじゃうんじゃないか、と心配するくらいだ。

 

 そんなことを言っていたら、メンバーが出てきて真っ先に死にそうになっていたのは自分だった。照明や映像をバックに出てきたメンバーのシルエットを見ただけで、命の限りを尽くして声を上げ拳を挙げ、全身の毛は逆立っていた。8月下旬に行われたレディングフェスティバルでのライブ中継を舐めるように見ていた自分は、もう黄色い照明の光が目に入れば細胞レベルで脊髄反射的に「あの曲」が来ると理解したのだ。

 

 「Wake up! Wake up! Wake up!

 歌い出しからアリーナは地鳴り。ドデカいスピーカーから出る音より明らかに観客の怒号のようなシンガロングのほうがでかい。ライブで聴く音楽と、普段イヤホンで聴いている音楽。骨子となる部分は一緒でもその実質はまるで違うのではないか。きっとライブ会場で鼓膜へと伝わる音楽は、鳴らされた音が会場中の観客たちのエネルギーに反響し化学変化してから届いてるのだろう。

 

 

 国籍なんて関係ない、とは頭で分かっていてもやはり不思議だ。ここはタイで自分は日本人、相対するのはイギリスのバンドだ。みんなで楽しんで、みんなで騒がしく歌っている。魔法みたいだなと素直に思った。 

 バンドのメンバーも楽しげだ。世界中を回り異国の地で音楽を奏でるのはどんな気分なんだろうか。小気味良いMCを挟みつつ公演は進んでいく。

 

 

I think I'm falling, I'm falling for you

 バンド初期に作られた楽曲が披露される。とてつもないシンガロング。「ああ、この国のファンはずっとずっとこの日を待っていたんだなあ。」タイでは4年ぶりの単独公演だったらしい。合唱の雨を全身に浴びながら、「この曲ってこんなに良かったんだ。」と心に染み入る。ファンの方々の愛情が楽曲をより強く輝かしているみたいだった。

 

 

 終盤にさしかかっても、会場は楽しげだ。会場後方ではお酒が進むとばかりに、会場外の売店でビールを買って楽しげに会場と往復する人達がいる。一瞬たりとも見逃すまい、とステージを凝視し拳を突き上げる人達がいる。友人と(もしかしたらその場で知り合った相手かも)肩を組んで、歌いながら写真を撮っている人達がいる。いろんな人達がいる。全く同じ楽しみ方をしてる人なんてきっと二人といない。なのにこの場には人との結び付きを感じるし、疎外感なんてどこ吹く風なんだ。自分もここに居ていいんだ、なんて感じたのはライブの感傷に浸っていたからだろうか。

 

 

Everybody! Jump up and down! Are you ready?

自由気ままに楽しむ、そんな人々に対して「もうこれでラストだから、最後は皆一緒に飛ぼうぜ」とばかりに観客をしゃがませる。そして…。

 

 

One, two, one, two, fuckin'jump!!!

わあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!ピンクの照明に照らされながら、会場中の人々が踏み鳴らした床の音も、割れんばかりの歓声も、アーティストの鳴らす音も、全てを全身に刻み込もう…。そう思いながら喉を嗄れさせ全身汗だくで、最後の音の一滴が消え去ってしまうまでずっとずっと飛び跳ね続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが昨年の夏、日本からはるばる足を運んだタイで見ることのできたThe 1975のライブだった。

 

 

 

 

 

 今の時代、ネットサービスを使っていつでもどこでも様々なコンテンツを楽しめるなかで、わざわざ高い金を払ってチケットを取り、遠いところまで足を運び、たくさんの人々のなかで楽しまなければいけないライブというものは、俗っぽい言い方をすればコスパの悪いコンテンツと言われるものなのかもしれない。

 

 でもその一度きりのライブには、チケット販売に携わる人、ライブを宣伝する人、会場の運営をする人、諸々の手配をする人、ステージを組み上げる人、演出を担う人、カメラマン、音響、アーティスト、そして観客も…数えきれない程の人々が関わっている。想像力を広げればもっともっと…。

  これほど多くの人々の関わりが生み出すたった2時間弱のひととき、それがどんなに美しく素敵で、そしてかけがえのない、当たり前のことだなんて口が裂けても言えない、奇跡のようなものなのか。それは一度会場に足を運んで自分で感じることでしか分かり得ない。

 

 

 

 だから今の状況が落ち着いたときに、この記事を読んでくださったあなたが「今度またライブ行ってみようかな。」なんて思ってくだされば、それだけでこの記事は報われるのだ。でっかい会場でも、こじんまりとした地元のライブハウスでも。ただ好きなものを楽しみに行く場所、私の大好きな場所。

 

The 1975 [Explicit]

 

The 1975「The Birthday Party」歌詞和訳・解釈

 2/20にThe 1975の新曲「The Birthday Party」がリリースされました。4月にリリース予定のアルバム「Notes On A Conditional Form」から5曲目となるシングルは、これまた一転して穏やかな曲調ですが、一方で歌詞やMVはとてもつかみどころのない奇妙な内容になっています。

 

 リリース直前には「Mindshower」と題したサイトが立ち上げ、YouTube上に動画があげられたり各SNS上にアカウントが用意されるなど手の込んだ事前告知がなされ、以下のような内容が発信されています。こちらの内容も踏まえて歌詞を読み解いていきます。

 

 

Begin your own journey and find yourself in our stunning retreat.

(あなただけの旅を始めて、我々の素晴らしい収容所で本当のあなたを見つけましょう)

Mindshower digital detox puts you back in control.

(“マインドシャワー”のデジタルデトックスによってあなた自身の主導権を取り戻しましょう)

Reconnect.Recharge.Rejuvenate.

(再接続、再充電、若返り)

 

 

 和訳だけ読みたい方も多いかと思うので、の部分について註釈は下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただけると、より楽しめると思います。

 

 

 

Hello, there's a place that I've been going

やあ、僕の行っていた場所はここさ(※1)

There's a place that I've been going

僕の行っていた場所はここ

 

Now I'm clean, it would seem

まあ、今では僕もすっかり毒素が抜けきったよ

Let's go somewhere I'll be seen as sad as it seems

どこへでも好きなところへ行こう、僕のことが悲しく思えるかもね(※2)

 

 

I seen Greg and he was like

グレッグと会って、彼はこんなことを言ってたんだ

"I seen your friends at the birthday party, they were kinda fucked up before it  even started

They were gonna go to the Pinegrove show but they didn't know about all the weird stuff

So they just left it"

あんたの友達を誕生日パーティーで見かけたけど、彼ら始まる前から酷かったぜ。Pinegroveのライブに行くつもりだったみたいだけど、彼らがあんなに変な感じだなんて全く知らなかったみたいで、結局すぐ帰ったみたいなんだ。(※3)」

 

And I was wasted and cold, minding my business

で、僕はフラフラになって寒気も止まらなくなった。自業自得なんだけどさ

Then I seen the girls and they were all like

そうしていると僕は女性たちと会った、彼女たちはみんなこんなことを言ってた

"Do you wanna come and get fucked up?"

「一緒に来て私とめちゃくちゃになろうよ」

Listen, I've got myself a Mrs so there can't be any kissing

聞いて、僕には彼女もいるしキスすらできないよ

"No, don't be a fridge, you better wise up, kid

It's all Adderall now, it doesn't make you wanna 'do it' "

「えー、そんな冷たくしないでよ。もっとうまくやりなさい、子供ね。

まあとりあえずアデロール使いなよ。大丈夫「ヤリたい」なんて思うことはないから。(※4)」

 

'This ain't going well'

「これは上手くいかないだろうな」

I thought that I was stuck in hell

地獄にはまり込んだ気分だった

In a boring conversation with a girl called Mel

メルと呼ばれてた女の子と退屈な会話を繰り広げていたからね

About her friend in Cincinnati called 'Matty' as well

なんでも、シンシナティに住んでるという彼女の友人の話。たしかマッティって呼んでた(※5)

 

You pulled away when I went in for the kiss?

キスしようとしたら、君は身をたじろいでたよね

No, it wasn't a diss

いいや、別に気分を害したわけじゃなかったんだけど

 

You put the tap on to cover up the sound of your piss

君が小便の音を鳴らさないようにしてたのは、部屋に盗聴器を仕掛けてたからだったんだね

After 4 years, don't you think I'm over all this?

4年経ったけど、僕がもうこの経験を完全に克服しただなんて思うかい?(※6

 

'That's rich from a man who can't shit in a hotel room

He's gotta share for a bit'

「男なのにホテルの部屋で大便ができないなんておもしろいこと言うのね。

ちょっと分けてあげるくらいの心持ちでいた方が良いのよ」

 

You make a little hobby out of going to the lobby

そう言って君はささやかな楽しみのために、ロビーに出て行った

To get things that they don't have

普通じゃ手に入らないようなものを求めて(※7)

 

Oh does it go though ya?

When I'm talking to ya?

なあ、僕が話してることよく伝わってる?

You know that I could sue ya if we're married

もし僕らが結婚したらいつでも君を訴えられるだろうって分かるだろ

And you fuck up again?

そうなったらまた君は別の男に同じようなことするのかい?(※8)

 

Impress myself with stealth and bad health

こそこそとしてるところとか、不健康なところとか

And my wealth and progressive causes

自分の裕福さとか、育った環境とか、我ながら惚れ惚れするよ(※9

 

 

Drink your kombucha, and buy an Ed Ruscha

紅茶キノコを飲んで、エド・ルシェの作品を買うべきだよ(※10)

Surely it's a print cos I'm not made of it

それは映し出された文字列だ。僕はそれでできてるわけじゃないんだ

Look the fucking state of it!

見なよ!ひどい状態だ

I came pretty late to it

僕はとても遅れてやって来た

We can still be mates cos it's only a picture

僕らはまだ友達でいられるよ、だってそれはただの画面だもん(※11)

 

 

All your friends in one place

君の友達はみんな同じとこにいる

Oh we're a scene, whatever that means

ああ僕らはまるで映画のワンシーンにいるみたいだ、何を意味するかはさておき(※12)

 

I depend on my friends to stay clean

毒素が抜け切ったままでいれるかどうかは、僕の友達にかかってるんだ

As sad as it seems…

悲しく思われるかもしれないね…(※13)

 

 

 

 

解釈・註釈

※1

 語りかけてくるのは、聞き手よりも先に「Mindshower」でセラピーを受けていた人物。

 

 MVにも出てくる「Mindshower」は、自身のアバターをデジタル空間に送ることで、デジタルデトックスを受けて毒素を抜く施設です。MVでスマホを預ける描写からも分かるように、SNSなどネット上の人間関係に日々苦しみ、自身のコントロールもままならないような状態からの回復を目指す=毒素を抜き、クリーンな状態に戻るのが目的。

 

 

Sincerity Is Scary」では

Why would you believe you could control how you're perceived

when at your best you're intermediately versed in your own feeling?

「どうして周りにどう思われるか制御できるって信じているの?全力尽くしたって自分自身の考えさえまともにわからないのにさ。」という一節がありますが、周りからの印象を意識しすぎるあまり自分の言動が縛られたような感覚に陥っている方は実際たくさんいるでしょう。

 

 薬物中毒と恋愛関係を重ねた「It's Not Living (If It's Not With You)」や、リハビリ施設での時間やそこで出会った人物を描いた「Surrounded by Heads and Bodies」など、アルバム「A Brief Inquiry Into Online Relationship」にはボーカルのMatty自身の経験をもとにした楽曲が多くありましたが、当曲においてもこの架空の施設「Mindshower」は、Mattyがかつて自身の薬物中毒を克服するべく通ったリハビリ施設から着想を得ているように思えます。

 

※2

 MVでも分かるように、「Mindshower」では自然溢れるフィールドでセラピーを受けることになります。初めてここを訪れた相手に、話し手である彼はさあどこへ行っても良いですよと促しています。しかしその結果、彼のことを悲しく思うかもしれないと示唆します。それはどうしてなのでしょうか。

 

 さて、ここから聞き手であった「僕」がこれまであった出来事について話し始めます。

 

※3

 Pinegroveアメリカ・ニュージャージー州出身のロックバンドです。2010年に結成され、先月には最新アルバム「Marigold」をリリースしています。

 

 歌詞の「about all the weird stuff」の一節から、海外ではここの一連の歌詞の解釈を巡って一部議論が巻き起こっているようです。

  文脈通りに捉えるならば、彼らはPinegroveのライブに行ったけれど事前に想像していたようなものではなく、仕方なく帰って来て誕生パーティーの会場に着いた頃にはひどい有り様になっていたと読み解けます。

 

 しかし一方で、この一節をPinegroveに実際起きた出来事について述べているのではないかと指摘する方もいます。その出来事についてはこちらのサイトが詳細に説明してくださっているのでご参照ください。

monchicon.jugem.jp

 

 

 私個人は、この曲においてPinegroveを非難するような意図は無いように思います。それは、この楽曲がどこかPinegroveの音楽から影響を受けているように思えるからです。Pinegroveの音楽はエモ・カントリーと表されるような、感情が揺さぶられるような要素と優しく穏やかな要素が合わさったものです。フォークやカントリーに影響を受けたエモーショナルなロックサウンドを持ち味とする彼らの音楽は、同じく優しげなこの「The Birthday Party」にも少なからず何らかのインスピレーションを与えているのではないでしょうか。

 

 また,「I seen your friends at the birthday party They were kinda fucked up before it even started」という一節は、Pinegroveの最も有名な曲のひとつ「Old Friends」の歌詞

I saw your boyfriend at the Port Authority

That's a sort of fucked up place

のオマージュではないか、と一部のファンが指摘しています。奇しくもこの「Old Friends」という楽曲は、バンドのフロントマンであるEvanが近しい友人を亡くした際に古くからの友人の存在の尊さを感じたことから作られたものです。この内容が、「The Birthday Party」の最後の一節に結び付くのだとしたら、やはりここには敬意と愛のあるオマージュが込められているのではないでしょうか。

  

※4

 アデロールとはアメリカを中心にADHDなどの治療薬として販売される配合剤であり、間接型アドレナリン受容体刺激薬アンフェタミンの商品名です。しかしその効用を超えてスマートドラッグとして学生を中心に服用されており、その副作用から問題視されているようです。

wired.jp

 その効力としては集中力の増加など心理的効果や中枢興奮作用など生理学的効果がある一方、依存性・中毒性もあるようです。

ja.wikipedia.org

 

 

 「僕」はアデロールの効用をどこかで聞き齧ったのかもしれません、ただ実際に使ったことがないので信用してないんですね。この薬を服用したら、前後不覚になって恋人を裏切ることになるんじゃないかと訝っている彼に、この女性は「大丈夫だって、気分がハイになるだけよ!」と誤魔化して服用させることで、一緒にホテルの部屋まで来てもらおうと企んでいます。前述したアデロールによる中枢興奮作用により性欲・性感の増加が生じ、いわば媚薬としての効力を期待しているんですね。とても慣れた手口のようです。

 

※5

 シンシナティは、アメリカ・オハイオ州にある都市です。日本では岐阜市姉妹都市協定を結んでいます・

www.gousa.jp

 

※6

 女性はトイレに行ってもなるべく音を立てないようにしていたことに「僕」はうすうす気づいていたのでしょうが、初めは恥ずかしさからの行動だろうと思っていたのかもしれません。真相は、彼女は盗聴器をトイレに仕掛けていたので自分の発する音は録音されないようにいたということだったのです。

 

 「僕」はこの4年前の出来事を克服できていないと示唆していますが、これは盗聴されていたという事実だけがトラウマになっているということでしょうか。※9以降で触れていますが、「僕」はこそこそと過ごさなくてはならない自分に嫌気がさしていて、SNSなどネット上の言葉に縛られるなと指摘されています。

 完全に想像ですが、盗聴された内容はネット上にアップされて広まってしまったのではないでしょうか。一度ネットに広まってしまったものは、一生完全に消し去ることはできません。だからこそ、4年経とうがこの出来事を克服することなんて不可能ですし、「僕」はずっとネット上の言葉に怯えて過ごすことを強いられているのではないかと思います。そうして精神はどんどん疲弊していったのでしょう。

 

 

 脱線しますが、イギリスでは2016年に政府のデジタル通信規制法案に反対するべくユニークな企画が行われ話題になりました。トイレは人々にとって一番プライベートな空間だ、ということに着目したプライバシー保護の主張はとても面白いですね。

adgang.jp

 

 

※7

 なんとなくホテルの部屋に自分以外の人物、それも異性がいるときに堂々と今から大便しますよって気分にはなりませんよね。だからこの女性は、それとなく部屋を出てロビーに向かったんですね。全ては普通なら手に入らないような音源を手にいれるために…。

 

 余談ですが、トイレの音消しは日本特有だそうです。

hbol.jp

 

※8

 もちろん本人の同意なく盗聴することはアウトなので、結婚して家族になったとしても盗聴を続けているならいつでも相手のことを訴えることは可能でしょう。でもいくら彼女を糾弾しても、どうせまた別の男を誘って同じようなことをするんだろうな、と考えると徒労に思えて、結局「僕」は彼女を訴えることはしなかったのでしょう。訴えたところで盗聴された事実は消えません。

 

※9

 散々な出来事の果てに精神が疲弊した様子が、皮肉めいたこの一節から感じられるように思えます。

 

※10

 これまでの出来事について独白を続けてきた「僕」に対して、冒頭の話し手はここで再び声を掛けます。

 

 「Kombucha」とは昆布茶じゃなく、お茶を発酵させてつくる「紅茶キノコ」をことだそうで、海外では健康に良い人気の飲み物のひとつだそうです。「不健康」な「僕」に対し、健康を取り戻せ、というわけですね。

ellecafe.jp

 

 エド・ルシェアメリカの画家であり、現代芸術の偉大なアーティストの一人です。彼の作品は言語にフォーカスを当てたものも多く、つまりはここから言葉というものに比重をおいたメッセージが続くことを暗示してるように思えます。こちらは「僕」の「こそこそとしてるところ」に対するアプローチですね。

www.diptyqueparis-memento.com

matome.naver.jp

 

※11

 話し手はここでは、聞き手である「僕」が言葉というものに振り回されすぎだと指摘しているのではないでしょうか。人間は「print」=言葉や文章が書き写されたもので構成されているわけではない。つまりは現代に置き換えるなら、SNSやネット上の言葉に自身を縛られるべきじゃないと。縛られた自身の状況を見てみれば、ひどい状態だとわかるはずだと訴えかけているように思います。

 

 話し手自身もだいぶ遅れて、つまり精神的にひどい状況になってから「Mindshower」を訪れたと述べています。「picture」とは映像や画面を指すこともありますが、しきりにスマホの画面を見る=SNS上の人間関係を気にする「僕」に対して、「それは僕らが友人同士であることに対して、何の問題にもならないよ」と優しく声をかけているのではないかと私は解釈しました。

 

※12

 あなたの友達もたくさん1か所に集まっている、つまり「Mindshower」の施設で待っているということでしょうか。MVを見ても分かるように、施設に入ればまるで映画のようなファンタジーに身を置くことになります。もちろん自身のアバターを送るわけであり、仮想世界に過ぎないのですが。

 

※13

 デジタル・デトックスがうまくいってクリーンな状態になっても、結局その状態を保つにはこの「Mindshower」で出会った友達(MVに登場する珍妙なキャラクターたち)の存在が不可欠だというのです。また現実世界に戻っても、やはり友達との付き合いがクリーンに戻った精神の状態を再び左右することは確かでしょう。

 ある意味じゃここにも「Mindshower」に対する新たな中毒あるいは依存があると言えます。だからこそ彼の姿は人によっては同情的に見えるかもしれません。

  前述の通りモチーフとなっている薬物中毒の克服も、中毒者本人の周囲の人々の協力が極めて重要だといわれます。

 

おまけ

 今回のMVにはインターネット上のミームをもとにしたキャラクターたちが多数登場します。ミームとは生物学的な遺伝子ではなく文化や習慣などを次世代へと伝える情報を指します。

app-flamingo.com

 ミームについては、Metal Gear Solidシリーズなどを手掛けゲームクリエイターとしても有名な小島秀夫監督がミームに触れているエッセイがあり、読み物としてもおすすめです。

www.bookbang.jp

 

 MVの内容についてはMatty本人のインタビュー記事がとても参考になると思いますので是非。

www.dazeddigital.com

 

 

【Amazon.co.jp限定】仮定形に関する注釈(特典:正方形ビジュアルシート付)

 

 

 

 

 

【インタビュー】LoneMoon

 'It's shoving down everyone's throat that I'm a girl and I'm staying here.'

ー私はひとりの女の子で、そして今ここにいるんだ、ということをあらゆる人たちに強く叩きつけるんだ。ー

 

 

 2013年より音楽活動を始め、リリースした楽曲「NAW NAW」や「fall」が100万回以上ストリーミング再生されるなど世界中で多くの注目を集めているのがLoneMoonことLuna C.A. Starleyです。2019年に最新アルバム「andromeda」をリリースしたばかり、そして今年2月14日には早くも新作がリリース予定。

 

 この度アーティスト本人のご厚意により、なんとインタビューが実現しました!自身のアイデンティティからその音楽性、好きなアーティスト、日本との深い関係性まで語ってくださっています。

 

 私が今とても大好きなアーティストです!多くの方々がこのインタビューを読んで、楽曲を聴くきっかけになれば幸いです。

 

 

ー今回はインタビューに応えてくださり、ありがとうございます!

では初めに、あなたにとって「名前」というものがとても大切なものだと伺いました。"Luna"という名前やアーティスト名"LoneMoon"に何か特別な意味合いはありますか?

 

LoneMoon:私の姉妹は地球で一番大切な存在。幼少期はAlbuquerque(※1)に住んでたんだけど、私たちはよく夜を共にしていて、彼女はよく月を見上げていたのを覚えてる。そのとき見上げていた月のように、ただ彼女にとっての美しい存在でいたいなと思ったことが由来なんだ。

 (※1)アルバカーキアメリカ合衆国ニューメキシコ州にある都市。

 

 

ー先日リリースされたアルバム「andromeda」をあなたは「本当の意味でのデビュー作」と表していますが、この作品の気に入っている部分はどこですか?

 

LoneMoon:全てだね。このアルバムは自分で聴いても楽しめるし、1曲も嫌になるような曲は無いから。そんなアルバムを作れたのは初めてだったんだ。これは私にとってはとても重要なこと。長い間ずっと続いた自己嫌悪の日々にようやくこのアルバムで終止符を打てたと思うよ。

 

 

ー「andromeda」で描いたテーマは何ですか?収録曲である「why me」「new 2me」は感情の揺らぎを描いているように思えますが、一方で「ur luv」「www」はとてもパワフルでエネルギーに溢れた楽曲だと思いました。

 

LoneMoon:もし「andromeda」から1つメッセージを伝えられるとしたら、何よりも、私はホモセクシャルの女性だということ。

 

「andromeda」は自己愛の証。「why me」「new 2me」はどちらも過去に彼女と別れたときのことを書いた曲なんだ。私にとって2019年のほぼすべて、8か月間まるごと彼女のことでいっぱいだった。なのになんてことだか…ほんとにひどくて散々だったよ。

 

「why me」は恋ゆえに生じる不安を歌ってる。「こうだったら…」という思いが延々とぐるぐる巡り、何ができたかな、良かったかな悪かったなとどうしても考えてしまうよね。問題事というものは忘れることはできても、ずっと付いてくるもの。もちろん、相手との関係が終わってしまうまでね。

 

 

「new 2me」はまさしく苦い経験。あなたはただ親しい女性の一人に過ぎない、ただの一夜限りの関係なんだと強調する曲。(とんでもなく長い間、関係があったにもかかわらずね。)で、「Horses in the Stable」(※2)をかけるんだよね。フーフー!!

(※2)Ty Dolla $ignによる楽曲

 

「ur luv」は最高にヤバくてイケてる女の子のアンセムだね。私はひとりの女の子で、そして今ここにいるんだ、ということをあらゆる人たちに強く叩きつけるんだ。何をしたってケチをつけるのが好きなやつは文句を言うからね。そんなの気にしても仕方ないから、そしたらもうLSDでもキメちゃう。

 

 

「www」は文字通り、笑い、自信、そしてクソ楽しい経験について。あんまりくだらなすぎて、もうファン達に唾を吐きかけたいくらい。

 

 

ーあなたはSkrillexSnoop Dogg,Lil Uzi Vertなどにとても影響を受けたと伺いました。ここ最近よく聴くアーティストはいますか?

 

LoneMoon:Lil Uzi Vertはこんな風に歌っていて、とても気分を害してる。

All my bitches tens, no, I do not fuck no fans

I was checkin' my DMs, found out she was a man(No,no,no)

I can't DM, never, ever again (No)

(※3)「That's a Rack」の一節。

 

トランスジェンダーの黒人女性として、こんな明け透けな悪口は聴くに堪えない。ここ数年、世界で一番彼のことが好きだったのに。Lil Uziのケツにレンチを6フィートくらいぶっ刺してやりたい!

 

Snoop Doggのことはとても愛してる。どこで私が彼に影響を受けたって知ったの?「Nava Left」はとても素晴らしいアルバム。

 

2014年に私はSkrillexのライブを見に行ったんだ。彼がちょうど「Recess」(※4)を引っ提げてツアーを回っていた頃。これまでの人生で一番のライブだったよ!ねえ、これを今これを読んでくれてるなら、あなたが大好き。いつか彼の音楽を聴いて一緒に涙を流したいものだね。

 (※4)2014年にSkrillexがリリースしたアルバム。

 

 

ーリリース予定のミックステープ「VALENTINE」はどんな作品になりますか?先行シングル「Spinning(lonemoon remix)」はとてもクールで、より自由度の高い作品なのではないかと予想してるのですが。

 

 

LoneMoon:「VALENTINE」はめちゃくちゃいい作品。2月14日のバレンタインデーにリリースするよ!日本ではこの日が休みなのかわからないのだけど…。「Spinning(lonemoon remix)」がクールだと思ってもらえて嬉しいよ。この曲はとても美しい歌声を持った地元の歌手の曲をリミックスしたんだ。(※5)彼女はとても素敵で、たった一日で打ち解けるくらい愛してる。

 

(※5)「Spinning」はオクラハマ州を拠点とするシンガーソングライターMaddie Razookによる楽曲。

 

 

ー最後になりますが、あなたが日本のことを愛してくださっていると伺ってとても嬉しいです。興味のある日本の文化はありますか?過去には日本に住んでいたこともあるんですよね?

 

LoneMoon:日本のすべての文化に興味があるよ!とってもとっても!!

私は厚木の米軍基地に6年間住んでたんだ。その頃ちょうど「大乱闘スーパースマッシュブラザーズDX」(※6)が発売して、何年やってもミュウツーにボコボコにされたな。あの野郎!

(※6)2001年に発売された対戦アクションゲーム。ミュウツーポケットモンスターシリーズの登場キャラクターで、本作には隠しキャラとして登場する。

 

日本のことはとても愛しているよ。人々も、食べ物も、エネルギーも、全部。

私の父は軍人で、厚木基地に駐在していたんだ。母親は基地の近所で英語を教えてた。(私は幼少期のほとんどは自宅教育だった。)

私は新幹線がとても好きだったな…自宅教育を受けていた頃からずっと。休日には誰もいないような場所にまで行って、日本そのものをただただ楽しんでいたんだ。

日本のテクノロジーに感動を覚えない日はないだろうね。あなたの住む日本の全てが大好き! 

今回はありがとう!!!

 

ーこちらこそありがとうございました!!

 

 

 

 

 アーティスト紹介:LoneMoon


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 SoundCloudにて2013年から音源を公開し始め、2017年にリリースしたアルバム「forgiveness」のリードシングル「fall」は特に注目を浴び、自身にとって初めて100万回以上ストリーミング再生された楽曲となる。その後も「Better Luck Next Time」など多くのアルバムを精力的にリリースし、2018年にリリースした楽曲「NAW NAW」はSpotifyにて200万回以上再生されるなど、より多くの注目を集めることになる。現在オクラハマ州を拠点に活動する。

 ルーツとなったエレクトロミュージックから、ゴスペル、80年代ポップ、ジャズ、クラシックなど様々なジャンルの音楽を横断し、ヒップホップの領域へと発展した音楽が特徴。

  2019年には「my real debut」と称した最新アルバム「andromeda」をリリース、2月14日にはミックステープ「VALENTINE」をリリース予定。