暗がりにこそ美しさは宿る Puma Blue 'A Late Night Special'
1stアルバム「In Praise Of Shadows」をリリースしたばかりのPuma Blueが、'A Late Night Special'と題した配信ライブをおこなった。配信といっても生ライブではなく、事前に収録した映像を各地域の時間に合わせてそれぞれ配信するという形となっている。
本人から「コンサートフィルム」だと伝えられており、映像面ではChild Studioがディレクションを務めている。Child Studioはロンドンを拠点に活動するChe HuangとAlexy Kosの2人組。家具等インテリアのデザインやアートディレクション、映像制作等に携わっているとのこと。
ライブでは、約一時間のなかで新譜からの楽曲を中心にキャリア初期の楽曲まで幅広く、これまでの集大成と呼べるような内容が美しい映像に乗せて届けられた。
Topic 1 アルバムのテーマと共鳴する映像演出
デビューアルバムのタイトル「In Praise Of Shadows」とは谷崎潤一郎の随筆「陰翳礼讃」の英訳であり、その内容からもインスピレーションを受けている。「陰翳礼讃」の内容を端的に表すならば暗闇・影にこそ美しさが宿るというものだが、今回のコンサートフィルムではその美学が映像の中に生かされている。
演奏が行われたのは、長い布のベールが壁に沿っていくつも天井から垂れ下がっているほかは特に装飾のなされていないシンプルな一室。それが楽曲に応じて薄暗い環境になったり、そのなかでスポットライトが当たったり、またある曲では薄ぼんやりとして赤みがかった明かりに切り替わったりと、部屋の明暗が変遷していく演出が印象的だった。まさしく陰翳礼讃の美学を映像として作品に昇華した見事な演出だったように思う。
Topic 2 楽曲の表現幅を広げるアーティストたち
そんななかで音楽を届けてくれたアーティストたちを紹介する。
(Guitar/Vocals) Puma Blue
(Bass) Cameron Dawson
(Drums) Ellis Dupuy
(Keys/Sax) Harvey Grant
(Additional Guitar) Gabriel Levy
(Backing Vocals) Jemimah Marie
(Backing Vocals) Bre Antonia
(Backing Vocals) Maria Drea
サウンドの中心にいるのはPuma Blueに加え、アルバムにも参加している3名。Cameron Dawsonはロンドンのソウル/ポップバンドMamas Gunのメンバーでもある。Ellis DupuyはロンドンのアーティストNilüfar Yanyaのライブメンバー等も務めている。Harvey Grantはアルバムにおいてもサックスやストリングアレンジに加え共同プロデューサーを務めるなど特にサウンド面で大きな役割を果たしており、Ellis Dupuyとともに1st EP「Swum Baby」からPuma Blueの楽曲に関わっている。
そんな実力・経験共に抜群のアーティストたちの演奏は、Puma Blueの楽曲が持つ繊細さを余すことなく形としており、更にはコーラス隊による歌声が加わることで音源とはまた違った魅力が引き出されている部分も多くあった。
Point 1 アルバム「In Praise Of Shadows」の真の完成形
有名な海外の観光地、例えばイギリスのビッグベン(エリザベスタワー)などは写真や映像を見てもその景色に魅了されてしまうが、実際にその場所を訪れて生で目にしたならばより深く実感を伴ってその魅力を感じ取ることができるはずだ。
同じように音楽というものは収録され音源となり、一つの作品として届けられるものだが、本当の魅力とはその場限りの演奏によって初めて形作られるものではないか。これが私の持論だ。
先述の通り、Child Studioによる映像演出や演奏メンバーによるパフォーマンスは、「In Praise Of Shadows」に収録された楽曲たちの魅力を奥底まで感じさせてくれるものだった。
エレクトロ寄りで打ち込み要素が印象的だった「Snowflower」は、エフェクトを廃したPuma Blueの歌声やEllis Dupuyによる抑えの効いたドラムによってよりシンプルで楽曲の美しさが際立っていた。
「Opiate」ではツインギターの音色がより前目に出ていたり、コーラス隊の歌声が楽曲の味わいを深めていて、あらゆる音色が混ざり合う終盤の展開には身体が揺れずにはいられないくらいだった。
アルバム内でも異彩を放っていた攻め攻めの「Oil Slick」も、もちろんアーティストの高い技術を十二分に発揮した、思わず聴き手が圧倒されてしまう時間となっており、これはいつか絶対生で演奏を聴きたい。
Point 2 Puma Blueによる弾き語り、Jeff Buckleyが宿った瞬間
圧巻だったのは、照明が完全に落ち、スポットライトに当てられ独り弾き語りをして「Silk Print」だ。かねてよりPuma Blueが楽曲面やライブ面で大いに影響を受けたと言っていたJeff Buckleyの魂が宿っていたのではないかと錯覚するくらい迫真のワンシーンだった。
Jeff Buckleyは1990年代に活動したアーティストであり、カフェで2時間以上一人で弾き語りしたのを収録した伝説のライブアルバム「Live at Sin-é」を残している。私にとっても人生で一番大切な作品であるが、この演奏と並ぶくらい、Puma Blueの弾き語りは忘れられないものだった。ややリバーブのかかったギターの音色と、儚げなのに確かな存在感がある、なんて一見矛盾していそうな表現でしか表せない、唯一無二のパフォーマンス。これからずっとこのアーティストを追いかけていきたい、自分の人生のいろんな瞬間にこの音楽を聴いていたい、とはっきり思えた。
ラストには、素晴らしい時間となった今回のライブを華々しく締めくくるかのように、ギター・ベース・ドラム・サックスが揃って印象的なイントロになだれ込む「Moon Undah Water」そして優しげなピアノの音色から始まりPuma Blueの歌声とコーラス隊の歌声がフレーズを繰り返す好アレンジの「Only Trying 2 Tell U」と、これまでのキャリアを代表する楽曲を続けざまに披露し大団円となった。
シンプルだが緻密な演出のもと美しい映像、そして魅力をどこまでも増幅させて披露された楽曲。忘れかけていたライブの魔法を思い出すことができた一時間だった。「コンサートフィルム」としてリリースされた以上いつか作品化して残してほしい、なんて思ったけれど、その場限りの時間に身を委ねる、これもライブの魅力だったはず。
願わくば、いつか日本でもこのパフォーマンスが見れる日が来ることを。
セットリスト
- Sweet Dreams
- Velvet Leaves
- (She's) Just a Phase
- Cherish (furs)
- Snowflower
- Already Falling
- Midnight Blue
- Want Me
- Opiate
- Oil Slick
- Silk Print
- Bath House
- Moon Undah Water
- Only Trying 2 Tell U
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