音楽紀行(ライブレポ、アルバム感想・レビュー)

ライブに行ったレポートやアルバムの感想・レビュー。好きな音楽を見つけるツールにも

The 1975「I'm In Love With You」歌詞和訳・解釈

2022年のサマソニで見事にヘッドライナーとしてスタジアムを沸かせたThe 1975が、10/14にリリース予定の5作目のアルバム"Being Funny In A Foreign Language"から、3曲目のシングルとしてサマソニで世界初披露したことでも話題になった"I'm In Love With You"をリリースしました。*1

 

和訳だけ読みたい方も多いかと思うので、註釈については下段にまとめています。

気になる方はそちらもご一読いただくとより楽しめると思います。

 

(※歌詞は上記動画概要欄より引用)

I'm in Love With You / The 1975

Written by: Matthew Healy 

 

 

Heartbeat is coming in so strong

胸の高鳴りがどこまでも高鳴っていく

If you don’t stop I’m gonna need a second one

君がやめないなら、もう1個心臓が要りそうだね

 

Oh, there’s something I’ve been meaning to say to you baby (hold that thought)

ああ、君にずっと言おうと思っていたことがあるんだ(ちょっと待って!)

Yeah, there’s something I’ve been meaning to say to you baby

そう、君にずっと言おうと思っていたことがある

but I just can’t do it

でも僕にはそれができないんだ

 

What a call, moving in

呼ばれてる、行かなくちゃ!

I feel like I can loosen my lips (come on so strong)

自分の唇を緩める*2ことができるような気がするよ

(もっとそばにおいでよ!)


I can summarise it for you

今なら君への思いをうまくまとめられる気がするよ

It’s simple and it goes like this..

シンプルに言い表すなら、つまりはこういうことなんだ

 

I’m in love with you

君に恋してるんだ*3

 

She’s got her broadsheet, reading down the list of the going wrongs

(yeah, yeah, yeah)

彼女は購読する新聞を見て、ひどい出来事が並んでる紙面をスクロールして読んでた*4

I’m getting no sleep. Tossing and turning all night long

僕は眠れないまま、一晩中寝返りを打ってた*5

Oh, there’s somewhere I’ve been meaning to take the conversation (hold that thought)

ああ、ずっと会話したいと思ってた場所があるんだ(ちょっと待って!)

 

Yeah, there’s somewhere I’ve been meaning to take the conversation,

but I just can't do it

ずっと会話したいと思ってた場所がある、でも僕にはそれができないんだ

 

You show me your black girl thing, pretending that I know what it is

(I wasn’t listening)

君は僕に女性にしかわからない暗い悩みを打ち明けてくれた

僕はそれが何か分かったつもりになっていたんだ

*6

(君の声に耳を傾けていなかったんだ)

I apologise, you meet my eyes

ごめんね、君はしっかり僕と向き合ってくれたのに*7

Yeah it’s simple and it goes like this..

ああ、シンプルに言い表すなら、つまりはこういうことなんだ


I’m in love with you

君に恋してるんだ


Yeah I got it!

そうだ、分かった!

I found it!

気づいたんだ!

I've just gotta keep it

その思いを無駄にするな

‘Don’t fuck it, you muppet!!’

「しくじるなよ、まぬけ!」

It’s not that deep

難しいことじゃないさ

I’ve been counting my blessings

自分が恵まれてることに感謝しなくっちゃ*8

Thinking this through just like ‘1, 2.. yeah I’m in love with you!!’

こうやってじっくり考えるんだ

「いち、に…せーの!君に恋してるんだ!!」*9

I’m in love with you

君に恋してるんだ

*1:リリースと併せて公開されたMVは、なんと過去に公開された"A Change of Heart"のMVと同じ世界観の続編!

 

 

また、今作のMVには"Jesus Christ 2005 God Bless America"に参加するなど、親交の深いPhoebe Bridgersも出演しています。

 

yamapip.hatenablog.com

 

 

余談にはなりますが、皆さんは"A Change of Heart"と"I’m In Love With You"のMVの時系列は、どちらが先でどちらが後だと思いますか?

両MVの描写を見比べながら、そういった想像を膨らませるのも楽しいかもしれません。

*2:"loosen my lips"はそのまま訳すと、自分の唇を緩めるという意味になりますが、2通りの意味合いが込められているように読み取れます。

1つは、そのあとに"come on so strong"と続くことから、

好きな相手が触れ合いながら、顔がほころび唇が緩んでいる様子、

更に踏み込んで想像するとそのままキスに繋がっていくような描写に思えます。

 

一方で、"loose lips"は慣用句で「口が軽い」ことを示すそうです。

「口が軽い」は英語で?おしゃべりで秘密を守れない人の表現10選! | 英トピ

 

前の節で、"there’s something I’ve been meaning to say to you baby but I just can’t do it"(君にずっと言おうと思っていたことがある、でも僕にはそれができないんだ)

とあり、なかなか口にしたいことが伝えられないことが歌われています。そこから彼女との日々や交流の中で、口が軽くなっている=徐々に言おうと思っていたことが言える

ようになってきている、ということもここでは表されているように思えます。

 

*3:"I can summarise it for you It’s simple and it goes like this.."(今なら君への思いをうまくまとめられる気がするよ シンプルに言い表すなら、つまりはこういうことなんだ)と述べられて口にした言葉が"I’m in love with you"となります。

 

The 1975の魅力の一つは恋愛や人間関係のテーマについて、

詩的な婉曲表現を交えて歌われるところにあると私は思いますが、

この曲では、そんな表現を用いない究極にシンプルな愛の言葉を、

サビで何度も繰り返し歌うところがとても愛らしいです。

 

シンプルな表現だからこそ、

世界初披露となったサマソニでも観客に対し「歌って!」と呼び掛けてくれたのかな、

なんて勝手に思い込んでます。

 

*4:"reading down the list"は、最近の言葉で「リスト(画面)をスクロールして読む」という意味だそうです。確かに今や新聞や雑誌等のコンテンツも紙面ではなくネット上で購読して読むユーザーのほうが多そうです。

 

*5:前の一節と合わせると、

深夜同じ部屋で相手と二人で過ごしている中、

彼女は日ごろの習慣なのかスマホタブレットかでニュースか何かを見ている。

自分は同じ空間にいながら会話も無く時間が過ぎ、なんだかそわそわしちゃう感じ。

彼女が気にしている事柄について会話してみようか、

でもあまり立ち入ってもいけないかな、といった具合にぐるぐる考えているうちに

夜が明けてしまう。

 

自分は何となく共感できる気がします。

 

*6:"It's a girl thing"は、女性にしかわからないような感覚やこだわり、悩み」を指すことがあるようです。

「女子にしか分からない感覚」は英語で It's a girl thing | ニック式英会話

 

彼女との関係性が深まっているの中で、

抱いている悩みや苦しみを相手が打ち明けてくれた。

これまで自分が何となくわかったつもりでいたけれど、

自分の窺い知れないような相手の悩みがあったことを知って、

「これまで君の声に耳を傾けていなかった」と悔やんでいる一節なのかなと。

 

この歌の前半では、いかに相手との日々やふれあいのときめきなんかを

歌っていると思うのですが、

それだけではなく、

記事(コンテンツ)に目を通す彼女が気にしている事柄であったり、

彼女の打ち明けた悩みであったり、

なんとなくわかったふりをしてやり過ごすのではなく、

そういったものとも向き合った上で、

相手に対して愛を伝えようという気持ちが描かれているように思います。

 

*7:"meet one's eyes"で目を合わせる、相手の目を見るといった意となり、恥ずかしさや後ろめたさを持たずに真摯に向き合うことを表します。

英語のイディオム:meet one’s eyeの意味と使い方 | eigo-lab(えいごラボ)

 

彼女の悩みを理解したつもりでこれまでいた自分に対し、

彼女はしっかり自分(僕)と向き合ってくれていたからこそ、

上記の通り自分も相手の本当の悩み等から目を背けず向き合おうと考えたのでしょう。

 

そのような関係性を築こうと考える相手だからこそ、

シンプルな思いを伝えようと決めたのではないでしょうか。

 

*8:"count one's blessings"で、「恵まれていることに感謝する」という慣用句だそうです。

【3876】count your blessings:恵まれていることに感謝する | YOSHIのネイティブフレーズ

 

*9:ここの一連の歌詞は、

相手へ気持ちを伝えるのに尻込みする自分自身との対話。

相手に恋しているというはっきりした感情を大事にしたうえで、

深刻に考えずに、うまくいくように自分自身を勇気づける。

 

そして、心の中で「いち、に…」とカウントして、思いを堂々と口にするのです!

 

 

 

yamapip.hatenablog.com

 

 

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The 1975「Happiness」歌詞和訳・解釈

2022年のサマソニのヘッドライナー出演を控えるThe 1975が、

10/14にリリース予定の5作目のアルバム"Being Funny In A Foreign Language"からの2曲目のシングルとして"Happiness"をリリースしました。

 

5月リリースの新曲"Part of the Band"に引き続き、Taylor SwiftLana Del Reyなど多くのアーティストの楽曲を手掛けるJack Antonoffが本楽曲でも参加しているほか、英ロンドンのアーティストDJ Sabrina The Teenage DJ*1も楽曲制作に参加しております。

これまでの楽曲のようなポップさがありつつ、より豊潤で熟練されたような華々しさが癖になるサウンド。歌詞においても、愛情や恋、幸福などについてシンプルな表現が重ねられています。

 

 

 

 

(※歌詞は上記動画概要欄より引用)

Happiness / The 1975

Written By

George Daniel, Matthew Healy, DJ Sabrina The Teenage DJ

 

 

She showed me what love is

愛って何だ、彼女がそれを教えてくれた

Now I’m acting like I know myself

今自分の思う自分らしさってやつをうまく演じてる

Oh in case you didn’t notice

ああ万が一君が気づかないなら

I would go blind just to see you

ただ素知らぬ顔して君と会うよ

I’d go too far just to have you near

そしてあなたがそばにいられないくらい遠くへ行くよ*2

In my soul I've got this feeling I didn’t know until I seen ya!

あなたと出会って、これまで決して知ることのなかった感情が芽生えたんだ!

 

My, my, my

Oh

My, my, my  

You mind my mind

You mind my mind

Oh

僕の、僕の、僕の

君は僕の気持ちを気にかけるんだね

ああ

 

My, my, my

You mind my mind

Oh

My, my, my

君は僕の気持ちを気にかけるんだね

ああ

僕の気持ちを

 

She’s insatiable is what she is

飽くなき探求心こそ彼女の代名詞さ

Her body’s like a modern art

彼女の体はまるで近代芸術のよう*3

Take it out in front of me

僕を連れ出しておくれよ


I’m gonna stop messing it up because I’m feeling like I’m messing it up

失敗するのはもうやめにしたい、常に何かを台無しにしているかのように感じていたくないからね

because I’m calling out your name

だから僕は君の名を大声で呼んでいるんだ

and God help me cos Oh I’m never gonna love again

Hey!

そうして神は僕をお救いになる、なぜって嗚呼、もう恋なんてしないからね*4

I’m never gonna love again

もう恋なんてしない

Hey! 

さあ!

 

Show me your love

君の愛を味わわせておくれよ

Why don’t you grow up and see?

大人になった姿を見せてくれないか?

Show me your love

君の愛を味わわせておくれよ

Why don’t you grow up and see?

大人になった姿を見せてくれないか?

Show me your love

君の愛を味わわせておくれよ

Why don’t you grow up and see?

大人になった姿を見せてくれないか?

Show me your love

君の愛を味わわせておくれよ

Why don’t you?

どうかな?

 

You met me at the right time

君が僕と出会ったのは運命的なタイミングだよ

Met me at the right time

これ以上ないタイミングさ

Oh, Show me your love

ああ、君の愛を味わわせておくれよ

Why don’t you?

どうかな 


(Oh oh oh)

She showed me what love is

愛って何だ、彼女がそれを教えてくれた

Now I’m acting like I know myself

今自分の思う自分らしさってやつをうまく演じてる

Oh in case you didn’t notice

ああ万が一君が気づかないなら

I’m never gonna love again

もう恋なんてしなくて済むのにな*5

Hey!

さあ!

I’m never gonna love again

もう恋なんてしなくて済むのにな

Hey! 

さあ!
 
Show me your love

君の愛を味わわせておくれよ

Why don’t you grow up and see?

大人になった姿を見せてくれないか?

Show me your love

君の愛を味わわせておくれよ

Why don’t you grow up and see?

大人になった姿を見せてくれないか?

Show me your love

君の愛を味わわせておくれよ

Why don’t you grow up and see?

大人になった姿を見せてくれないか?

Show me your love

君の愛を味わわせておくれよ

Why don’t you?

どうかな?

*1:海外サイトによれば、DJ Sabrina The Teenage DJは本楽曲中のイントロにて、The 1975Matthew Healyが過去に受けたインタビューの音声を切り抜いてトラックに入れているとのこと。

(耳を澄ませるとうっすらと人が会話するような音声が聴こえる)

 

*2:私が自分を偽っていることを、万が一相手が気づかなかったとき。

一方では素知らぬ顔をして相手と会い、その一方で相手から距離をとってしまう。

 

"in case"は「万が一」という意で、きっとそうなることはないだろうというニュアンスを含んでいます。

"in case you didn’t notice"の一節を踏まえるとつまりは、

いずれは自分が自らを偽っていることが相手にバレるだろうから、

今はただ相手との関係を楽しみながらも、

バレる前に自分からこの関係を曖昧にさせていく、終わらせてしまおうということがここでは歌われているのではないでしょうか。

矛盾しているように感じるかもしれませんが、

愛が終わるのを待つのではなく、愛のまま終わらせるという感情は理解できるようにも思えます。

 

*3:あまり芸術には明るくないのですが、"modern art"つまりは近代芸術の特徴は、これまでの伝統から脱却し、人間の内面性であったり新たな情景など、実験的精神の重視にあると言われているようです。

www.artpedia.asia

 

ひとつ前の節に"She’s insatiable is what she is"とあり、ここでの「彼女」は探求心や実験精神の強い人物である。

そのため、こうした探求心・実験精神を宿した彼女の存在はまさしく「近代芸術」なのでしょう。

 

*4:

「もう恋なんてしない」なんて言うと、有名な槇原敬之のヒットソングから、失恋のショックからもう二度と恋愛はしないという方をイメージしそうですが、ここでは"you"に対する永遠の愛を誓うからこそ、もう恋はしないということだと解釈しました。もう失敗したくないからこそ相手の名前を呼び続け、そして永遠の愛を誓うということなのだと。

 

*5:自分を偽って、こうありたいという「自分らしさ」を演じれば、それが相手に気づかれない限りきっと愛情を育むことができる。

もしこのまま気づかれなければ、この愛情を永遠の愛とできる=もう他の相手に恋することはないということでしょうか。

"in case"は前述の通り、きっとそうなることはないだろうというニュアンスを含んでいるので、ここでは自分自身も「自分を偽っているのはいずれバレるだろうな」と諦めているということでしょう。なんとも寂しい一節に感じました。

 

 

yamapip.hatenablog.com

 

BEING FUNNY IN A FOREIGN LANGUAGE [12 inch Analog]

The 1975「Part of the Band」歌詞和訳・解釈

2022年のサマソニのヘッドライナー出演からライブ活動を再開するThe 1975ですが、

10/14に5作目のアルバム「Being Funny In A Foreign Language」をリリースすることを発表、併せてアルバムからの先行シングルとして「Part of the Band」をリリースしました。

 

Taylor SwiftLana Del Reyなど多くのアーティストの楽曲を手掛けるJack Antonoffのプロデューサーとしての参加や、コーラスとしてMichelle Zauner(Japanese Breakfast)も参加するなど、本楽曲はこれまでに無かったような曲調も印象的ですが、歌詞においては自身の経験や世の中の出来事など、多くの描写を交えながら人生・生き方について語られています。

 

 

和訳だけ読みたい方も多いかと思うので、註釈については下段にまとめています。気になる方はそちらもご一読いただくとより楽しめると思います。

 

(※歌詞は上記動画概要欄より引用)

Part of the Band / The 1975

Written By
George Daniel, Jamie Squire, Matthew Healy

 
 

She was part of the Air Force, I was part of the band

彼女は空軍の一員*1で、僕はバンドの一員だった

I always used to bust into her hand 

いつも彼女の手でイってしまうんだ

In my imagination

これは僕の想像のお話

 

I was living my best life

Living with my parents 

両親との生活は最高の日々だった

Way before the paying penance and verbal propellants 

何にでも口出しするのを悔い改める*2よりもずっと前のことだ

And my cancellations

ああ、自分自身があの日々をみすみすダメにしたのさ

 

And I fell in love with a boy, it was kinda lame

そうして僕は少年に恋をしたんだ、まあ大層なものじゃないよ

I was Rimbaud and he was Paul Verlaine

さしずめ僕がRimbaudで、彼がPaul Verlaineといったところかな*3

In my imagination

これは僕の想像のお話

 

So many cringes in the heroin binges, 

そうして、何度となくヘロインにふけってどうしようもないことになってた

I was coming off the hinges,

大事なものを失いながら、

Living on the fringes of my imaginations

想像にすがって生きていたんだ*4

 

Enough about me now

僕の話はこれくらいで充分だよね

‘You gotta talk about the people baby’

「世間のことについて話さなくちゃいけないだろ、坊や」*5

 

Now I’m at home - somewhere I don’t like

今はウチにいるけど、あまりしっくりこない場所さ

Eating stuff off of motorbikes

なにかがバイクを腐食してる

Coming to her lookalikes

なんだか元カノとそっくりだ*6

 

I can't get the language right

あまり語彙力があるほうじゃないから

Just tell me what's unladylike

とりあえず「女性らしくない」って何なのか教えてよ

 

I know some ‘Vaccinista tote bag chic baristas’

トートバッグを持ったあの上品なバリスタも積極的にワクチンを広めてた*7

sitting in east on their communista keisters

writing about their ejaculations

そんな人たちでも東の共産主義者の尻に座って、射精したことについて書き連ねているんだ*8

 

"I like my men like I like my coffee

Full of soy milk and so sweet, it won't offend anybody"

Whilst staining the pages of The Nation, oh, yeah

「僕は仲間のことが好きだよ、コーヒーを飲むのが好きなみたいにね

豆乳たっぷりだととても甘ったるい、これが嫌いな奴なんていないだろ?*9

そんなこと言ってたら「The Nation」*10のページに染みをつけちゃったよ

 

A Xanax and a Newport

XanaxやNewport*11

‘I take care of my kids’ she said

「私は子供たちが心配なの」って彼女は言うんだ

 

The worst inside of us begets that feeling on the internet

僕らの内に秘めている最悪のものがネット上で人々の感情をかき乱すんだ

It’s like someone intended it 

まるで誰かが意図したかのように

A diamond in the rough begets the diamond with a scruff you get 

ダイヤの原石から、あなたの首筋で輝くダイヤが生まれるみたいだね

 

Am I ironically woke? The butt of my joke?

皮肉なことに僕は単なる「意識高い系」*12のやつ? 誰かの笑いもの?

Or am I just some post-coke, average, skinny bloke

calling his ego imagination? 

それとも自分の自意識を想像力だなんて呼んでる、

元コカイン中毒者か、凡人か、それともただの瘦せっぽち*13か何かなんだろうか

 

I’ve not picked up that in 1,400 days and 9 hours and 16 minutes babe

- it’s kind of my daily iteration

決してこの1400日と9時間と16分のうち、どこかを切り取って見せてるわけじゃないんだ

全てはこれまでの日々の積み重ねなんだ*14

 

 

*1:イギリスの軍隊における女性の割合はどの程度なのかと少し気になり、調べてみると以下では約11%と紹介されていた。

UK armed forces biannual diversity statistics: 1 April 2021 - GOV.UK

 

*2:"pay penance"は改心する、罪滅ぼしをするの意らしく、その対象というのが"verbal propellants"となるわけですが、直訳すると「言葉の推進燃料剤」といったところで、そこから爆発的に言葉を発する=何にでも口を出す、と解釈しました。

 

*3:Paul Verlaine(ポール・ヴェルレーヌ)Arthur Rimbaud(アルトゥール・ランボー)は、共に19世紀末のフランスを代表する詩人です。

詳しくはリンク先ページをご参照いただきたいが、2人のエピソードはとにかく波乱万丈。

ヴェルレーヌが年下であるランボーの才能や美貌に魅了されたことをきっかけに恋愛関係となり、ヴェルレーヌは既にあった家庭を捨ててまでランボーと各地を放浪。しかし最後には別れ話の末、ランボーを拳銃で撃ち負傷させ、ヴェルレーヌは監獄へ収監されるという何とも劇的なエピソードではないか。

poesie.hix05.com

 

ちなみに2人の物語をもとに1968年にはイギリスの劇作家であるChristopher Hamptonによる戯曲・小説太陽と月に背いてが発表、1995年にはレオナルドディカプリオ主演で映画化されています。

novel.onl


*4:現実の暮らしや社会から距離をとって、描写されてきた様々な想像上の世界に寄り添って生きている。とあるが、歌詞の中のどこからどこまでが想像上の話なのか、それとも本当は想像の話だと冗談めかしているものの実際の経験なのではないかはっきりしないようにも感じる。例えば冒頭の"I was part of the band"の箇所だと、実際にMatthew HealyはThe 1975のメンバーであるように事実である。

(個人的にはほとんどの部分がその実、現実の話なのではないかと思っている。)

 

*5:直近のインタビューで、Matthew HealySNSにおける情報発信について語っています。

nme-jp.com

SNSは著名人やアーティストなど気軽に発信ができる一方、著名人に対しては世の中の出来事について常に意見を発するべきだという、一種のプレッシャーのようなものもおそらく年々大きくなっているのではないでしょうか。

ここでの‘You gotta talk about the people baby’は、そうした世間からのアーティストに対する声を指しているのではないかと思えます。

 

*6:"eat something off (of) something"で、何かが何か(金属など)を腐食するという表現があるようで、また"lookalikes"は「そっくりさん」の意ですが、元カレ・元カノのそっくりさんという使われ方もするようです。

ここではバイク(の金属部分)が腐食している様子を、元カノの姿と重ねているように感じました。それは元カノを悪く言うための表現ではなく、むしろ何かがバイクを腐食しているように、元カノも外的な要因に蝕まれていたということを言っているのではないでしょうか。そしてその外的要因とは、この後に続く歌詞"Just tell me what's unladylike"を踏まえると「女性らしい」「女性らしくない」といった考え方なのではないかと私は思いました。

 

*7:"Vaccinista"という単語はおそらくここ1,2年で生まれたか、少なくとも多用され始めたものであり、あまり辞書等にも載っていなかったのですが、海外のサイトを参照すると、どうやらSNSなどで自身のワクチン接種体験をシェアするなど、積極的にワクチン接種を呼びかける人を指すようです。

www.urbandictionary.com

 

*8:イギリスからみて東の共産主義者とはやはりロシアを指すのかなと想像しますが、ここでは共産主義を信奉しながら自己満足の文章を書いている、という意なのかと受け取りました。

この歌詞がどの時期に書かれたのか窺い知ることはできませんが(少なくとも去年~今年にかけてではないかと想像はできる)、昨今の情勢を連想するようなリスナーも少なからずいるのではないでしょうか。

自身の解釈とは異なりますが、

この箇所の解釈について情勢と絡めた解釈を述べていらっしゃる記事がありましたので紹介します。

よければこちらも。

Part Of The Band(The 1975)和訳|M(就活・趣味)|note

 

*9:"soy boy"とは、「男らしくない、女々しい男性」を意味するスラングであり、ふるまいや思想などを揶揄する用途で話されるものらしい。

Soy Boy(ソイ・ボーイ)の意味・用法・例文-英語ネットスラング辞典

"soy"も「女々しい、根性なし」という意味合いで用いられるものであり、

ここでの描写は、こうしたスラングを念頭に置いた表現でもあるかもしれないです。

 

*10:「The Nation」とは南北戦争直後の1865年に創刊されたアメリカの週刊誌である。かなり歴史の長い雑誌であり、現在どのような内容の記事を扱っているか詳しくは無いのですが、歴史的には左翼寄りな雑誌として知られているようです。

前述の"soy boy"はネットの右翼層がリベラル層の男性を揶揄する際には多用されるらしく、ここでは両者の描写を併せて捉えるとよさそうです。

 

*11:"Xanax"とは抗不安剤として処方されるものですが、近年過剰摂取が大きな問題となっております。

医療関連の専門知識が無く、こうした薬物への日本あるいは海外における法規制等については省きますが、Billie Eilishがこうした問題を背景とした"Xanny"という楽曲をリリースするなど、音楽界、あるいは海外のティーン世代においてもかなり身近な問題であるようです。

ヒップホップ用語:ザナックスとは

 

"Newport"アメリカのメンソールタバコとして人気の銘柄だそう。

しかしまさしく今年の4月にアメリカでは、アメリカ食品医薬品局FDA)がメンソールたばこの国内販売を禁止する方針を決定するなど、こちらも現在進行形で問題となっているそう。

toyokeizai.net

 

こうしてこの後に続く歌詞"‘I take care of my kids’ she said"につながるのでしょう。

 

*12:"woke"とは「社会での出来事に対して認識を持っている」ことを表すスラングであるが、一方で日本においては所謂「意識高い系」みたいに(もっとニュアンス強めかも)罵り言葉としても用いられるそう。

front-row.jp

www.newsweekjapan.jp

 

ここでは、"ironically"が前についているため、後者の意味合いで捉えております。

 

*13:"skinny"=痩せこけた、"bloke"はイギリスのスラングで"guy"などのように「男性」といった意である。

Matthew Healyミーム(海外でいう画像ネタみたいなもの)が好きで、よくInstagramのスト―リーに投稿しているのですが、有名なミームのなかに"skinny guy"と呼ばれる痩せた男性が題材となったものがあるそうなので、もしかしたらそれらを念頭に置いた歌詞なのかもしれません。

 

*14:1400日はだいたい4年くらい。2018年のThe 1975というと、彼らにとっての転機作であり多くの音楽ファンが虜になった3rdアルバム「A Brief Inquiry Into Online Relationships」をリリースしている。

収録曲"Love It If You Made It"など社会における題材についても多く扱った作品であったが、ここではアーティストとしての活動(例えば楽曲リリースやライブ、インタビューやSNSでの発信など)でのみ世の中の出来事に触れている(=パフォーマンス)のではなく、日々の暮らしの中でもそうした出来事というのは身近にあるものであり、また身近にあるものだからこそ常に目を向けているということを言っているのではないでしょうか。

yamapip.hatenablog.com

Matthew Healyは直近のインタビューにてSNSにおける発信について語っており、以前のインタビューでも社会的な出来事について扱ったり発信したりすることについての考えを丁寧に語っており、個人的にはこの部分の歌詞にあるように自虐的・皮肉的な視点を持ちつつ真摯に自身の振舞い方について考えている印象が彼に対してあります。

 

 

 

 

【来日公演決定】"カオスこそが人々と繋がる接点"Holly Humberstone

7月にHolly Humberstoneが初の来日公演をおこなう。

 

今回はこの貴重なライブに備え、彼女の音楽にどのような魅力があるか、それらがどのようなルーツを持っているかを紹介し、ライブがより楽しみになるような特集をお届けする。

 

Topic 1 創造性に溢れた"ホーム"

Holly Humberstoneは4人姉妹のひとりとして、イギリスのグラムサム*1で生まれた。

グラムサムはリンカンシャー州にある、かなり自然に囲まれた田舎町。

彼女の両親は幼いころから、自身の子供たちが常に「創造的」でいられるよう支えたそうだ。

絵画や音楽など方法は問わず、芸術的な表現を勧め、クリエイティブを育む環境が、まさしく彼女のアーティストとしての今につながる。

 

彼女の興味を惹いたのは詩作と音楽であった。

両親のCDコレクションの中からいろんな作品を漁り、特にDamien Rice"O"というアルバムは初めてお気に入りになった作品で、とても好きだったことを覚えているそう。

 

その後もRadiohead, Bruce Springsteen, Nora Jones, Led Zeppelin, Pink Floyd等多くのアーティストから影響を受けたという。

 

Topic 2 自身の"カオス"を人々の共感へとつなぐ"ありふれたもの"に昇華する音楽

彼女は楽曲制作のことを自分にとってのセラピーなのだとしばしばインタビューで答えている。

幼少期より曲を書く目的は変わらず、ただ頭の中のカオスを曲へと昇華することで、自身にとっても理解できるものとして整理する。それが自分自身にとっても一種の癒しなのだ。

 

頭の中のカオスとは、自分自身の日常生活や感じたもの、経験したものから来る。それらは特別なものではなく、誰しもが(特に世代の近い人々が)体験しうるものなのだ、と彼女は語るのだが、それを表す表現としてしばしば"universal thing"という文言を用いているのが印象的だ。

 

だからこそ、自身の経験や感情をもとに描かれる楽曲が、多くのリスナーにとっての共感性を帯びて、人々と感情を繋げる接点となるのではないか。

 

彼女はYouTube上の各楽曲MVにて、しばしばその楽曲や歌詞の背景であったり、MV制作にあたっての意図などを自ら記載している。例えば、"The  Walls Are Way Too Thin"では、ロンドンへと引っ越した後の苦しみなどについて歌っていること、MVでの描写についてなど細かく語っているので、興味があればそちらも各楽曲参照してみてはいかがだろうか。

 

 

音楽性の広さも彼女の魅力のひとつだ。

ポップな曲調がメインながら、エレクトロな要素を含むものから、より静かで聴き入ってしまうようなバラードまで。

その音楽性の広さから、数多くのアーティストとも既にコラボをおこなっており、"Please Don't Leave Just Yet", "Sleep Tight"では、The 1975のフロントメンバーであるMatty Healyとも共同制作をおこなっている。*2

 

(※こちらは"Heat Waves"など世界中で大ヒットを飛ばすロックバンドGlass Animalsとのコラボ)

 

 

 

 

ライブパフォーマンスにおいてもバンドでの演奏から弾き語りまで、

またときには自らの楽曲に加え、RadioheadPrinceの楽曲を自分色にカバーし披露したりもしている。

 

 

 

 

Topic 3 新人賞を総なめ、いよいよリリースされるデビューアルバム

2021年にはBBC Sound of 2021の2位を受賞。

(過去にはBillie Eilish, Frank Oceanなど選出され、多くのアーティストにとってブレイクのきっかけとなっている。)

 

今年2月に開催されたイギリス最大の音楽賞The BRIT Awards 2022では、新人賞にあたるRising Star Awardを受賞した。

こちらも過去にAdele, Florence + The Machine, Sam Smith錚々たる受賞者が並ぶ。

 

(受賞が伝えられた際のエピソードも秀逸。Sam Fenderとの共演中にサプライズで伝えられた様子がこちら↓)

 

 

 

この春には世界最大級の音楽フェスCoachella Festivalに出演。

4月よりスタートしたOlivia Rodrigoの北米ツアーにもサポートアクトとして抜擢されたほか、前述の通り、Matthy Healyを共同プロデューサーに迎えた最新シングル"Sleep Tight"をリリース。

 

そして今後は待望のデビューアルバムのリリースを予定しているとのこと。

 

 

 

 

まさしくキャリアのターニングポイントともいえるこれ以上にないタイミング。だからこそ彼女のライブを今見たい。

果たして日本でのライブ*3ではどのような演奏を目の当たりにすることになるのか。

 

 

彼女の"カオス"が昇華された音楽が実際に演奏されるのを目の当たりにして、

人々ひとりひとりと共鳴し合う。はたしてそれがどのような光景となるのか…。

きっとその場に居合わせた方々にとって、とても忘れられない瞬間になるだろう。

The Walls Are Way Too Thin

*1:

ja.wikipedia.org

*2:彼女自身あまり知り合ったばかりの相手とスタジオに入り楽曲制作を行うのは得意ではなく、リラックスできずかえって制作が進まないこともしばしばだというが、Matty Healyはかなりリラックスできるような環境を作ってくれたり、ロックバンドのフロントマンとしての経験などふまえメンターとしても多くを教わったと振り返っている。

*3:フロントロウがおこなったこちらのインタビューでは、彼女と日本との縁についても語っている。

front-row.jp

"幻想の上に浮かび上がるリアリティ" Skullcrusher

"I saw it written and I saw it say Pink moon is on its way…"

 

アコースティックギターの音色とNick Drakeの歌声が聴こえる。"Pink Moon"を聴きながら、彼女は人生の岐路に立たされていた。ー

 

 

Skullcrusherは米LAを拠点に活用するアーティストHelen Ballentineによる音楽プロジェクトである。2020年に1st EP'Skullcrusher'をリリース。今年4月には2nd EP'Storm in Summer'がリリースされたばかりである。

 

今回の主人公Helen BallentineはいかにしてSkullcrusherという「プロジェクト」を通じて音楽を世に伝えるに至ったのか。彼女の音楽の魅力と共に紹介したい。

 

 

 

音楽こそが自己表現の手段

米NYの街Mount Vernonで育ったHelen Ballentineは幼少より芸術が身近にある環境の中で育った。

地域のシアターで女優としてステージに立っていた母、バンドのミュージシャン経験のある父。両親から多大な影響をもらった彼女が手にしたのは”音楽”だった。5歳からピアノを始め、気づけば頭に浮かんだメロディをもとに作曲をしてみたり。初めて作った曲は"Wild Kitty"というタイトルだったとか。

 

初めてハマったのはThe Beatlesだった。彼らの楽曲をたくさん練習した。

高校生の頃はとにかくRadioheadを聴いて過ごした。Coldplay"Viva la Vida"に胸をときめかせたティーンエイジャーでもあった。

そしてこの頃にはギターを手に取り、カフェでカバー曲を演奏し始める。

 

Helenはアートにも関心を持ち、LAの大学に進学した後はスタジオアート(制作)を専攻、そのままギャラリーの助手の仕事に就く。

しかし朝出勤し夕方帰る仕事中心の生活がHellenには合わなかった。

かつてミュージシャンをしていた父が、銀行員として働くことを選び悔いを残していたことを思い浮かべる。

 

一大決心の末仕事を辞め、Helenは新たな道を選んだ。自信があるわけでもなく、不安に苛まれる彼女の傍らで流れていた音楽、それは"Pink Moon"だった。

Nick Drakeは1960年代末から70年代初頭にかけて活動したミュージシャン。生前は商業的成功に恵まれず、病気にも悩まされながらも、音楽を生み出そうともがき続けた彼が最後に出したアルバムこそが'Pink Moon'だ。

収録されていた表題曲("Pink Moon")を聴きながらHelenは、ここにある音楽とNick Drakeが抱えていたであろう感情はまさに同一で、彼自身をリアルに感じられる、そう感じたのだった。

 

そうして彼女はミュージシャンとして生きていくことを選んだ。なぜなら音楽こそが自身にとっても最大の自己表現だと理解していたから。

 

繋がりに導かれた'プロジェクト'

ところでこの'Skullcrusher'というインパクトのあるアーティスト名、彼女の音楽性を少しでも知っていれば違和感を持つかもしれない。フォーク寄りで穏やかな音楽と「スカル」はなかなか結び付かない。

なんとこのアーティスト名は元々、自身が取り組んでいたDJ活動のために用意したもの。大学生の頃、Hellenは親友であるAnnaにエレクトロ音楽を紹介され、DJによるショーにも2人でよく通ったのだが、あるときお揃いで履いていった「髑髏の装飾が施されたブーツ」 これがアーティスト名の由来となっている。Annaとの出会いは、(彼女の現在の作風とは遠く感じるような)EDMなど多様な音楽に興味を持つ大きなきっかけとなった。

 

 

音楽制作において二人三脚で取り組む、自身のパートナーでもあるNoah Weinmanの存在は、Skullcrusherというプロジェクトにおいても欠かすことのできないものだ。Noahは同じくロサンゼルスを拠点に'runnner'という音楽プロジェクトを通じ活動するアーティストで、SkullcrusherのEP2枚ともにプロデューサーとして参加している。

LAにて数年前に出会って以来、ミュージシャンの道を進む者同士一緒に楽曲を作るプロセスを楽しんでいる2人。

初めてのEP'Skullcrusher'はNoahのガレージで制作することになる。2019年6月のある日、楽曲タイトルも無いまま初めて録ったのが、後の"Places / Plans"だった。

同じく収録曲である"Trace"ではNoahがボーカルやバンジョーで演奏にも参加したほか、"Day of Show"は2人の関係性について歌った楽曲だった。

runnner.band

 

 

アーティストとしての活動には、楽曲制作や演奏だけでなく多岐にわたる。特にアーティスト本人に芸術の美学があれば尚更だ。

HelenはSkullcrusherとしての活動において、自身のアーティスト写真やアートワーク、楽曲のMVなど多くの部分で自ら制作に携わっている。そのパートナーとして大きな役割を果たしているのは、Silken Weinbergだ。ロサンゼルスでディレクター、写真家として活動する彼女はプロジェクトに関わるビジュアル面や美学の部分に携わり、EP'Skullcrusher'のアートワークやアーティスト写真の撮影、スタイリング、グッズデザインなど多くをおこなっている。

silkenweinberg.com

SkullcrusherのMVの多くでディレクターを務めており(冒頭で紹介したライブ映像も共同ディレクター)、中でも同じくHelenの友人であるJeremyと共にディレクターを務めた"Trace"のMVは不思議な世界観がとても印象的。 

 

 

 

そう、LAでの生活そして出会いは、アートの仕事を辞めミュージシャンの道を選んだ今でも、決して無駄ではなかったのだ。

'Skullcrusher'とはHelenにとって家族のような存在と繋がっている場所。人との出会いや繋がりがこのプロジェクトの大きな一部分を形作っている。

 

 

幻想の中に自己を映し出す音楽

ファンタジー作品が好きだというHelenの書く歌詞は生活の一部分を描くものが多い。それは物語のワンシーンかのようで、ときに幻想的にも映る。

そうして小さな文脈に多くの思いを詰め込む、というのが彼女のスタイル。

 

"Places / Plans"は、ステージに立ち演奏する友人を見ながら、自身はそうなれるか見通しの立たない未来を想う楽曲だ。

実際にHelenが自身のパートナーの所属するバンドのライブを見た際の経験をもとにイメージが湧いたとのこと。同じ時期に両親へ自身の抱える不安を打ち明けた経験も交え、楽曲では自身の不安が次々に言葉となって歌われる。

Do you think that I'm going places?

Does it matter if I'm a really good friends?

That I'm there when you call and when your shows end?

Can I make it out there as I am?

Without my name on a door or a headline band?

I don't have any plans for tomorrow

彼女にとってこの曲が初めて、言葉を選ばずとも自然に浮かんでくる、まさしく本当の自分を表現できた作品となった。

「音楽こそが自身にとって最大の自己表現だ」という理解はいつしか確信に変わっていた。

 

 

 

別れを描いた楽曲"Trace"の一節

You' re looking at me now but your gaze is hollowed out

you don't ask me how my day went

あるいは自身が遭遇した雷雨のなかの嵐と感情の揺らぎを重ねた"Storm in Summer"の一節

I wonder how you think you know who I am

などを耳にすると、Helenの生み出す音楽のテーマは「理解」なのではないかと思う。

最大の自己表現としての音楽、それに対しリスナーが抱く感情。

穏やかで幻想的な音楽の上に浮かび上がる彼女自身のリアリティと、音楽を通じた他者からの理解が重なる部分にこそ、Skullcrusherというプロジェクトが生み出す魔法が宿るのではないだろうか。

 

Skullcrusher [Analog]

 

 (参考記事※英文)

Skullcrusher is on the rise | Interview | The Line of Best Fit

Duality, Horror, and Creative Solitude: An Interview with Skullcrusher - Atwood Magazine

It’s All in the Mind: An interview with Skullcrusher — Teeth Magazine

Skullcrusher is a Family Affair | Office Magazine

Skullcrusher: finding clarity of expression within fantasy soundscapes | HERO magazine: A fresh perspective

INTERVIEW: Helen Ballentine is Skullcrusher - Culture Collide

Skullcrusher: LA's rising alt-folk star seeks shelter from the storm

Skullcrusher's Helen Ballantine On 'Storm In Summer,' and Figuring It All Out